[OB-1-4] 心筋梗塞罹患後に原職復帰には至らなかったが療養・就労両立支援により肯定的な受容とQOL向上に繋がった一症例
【序論】本邦において心疾患患者が職場復帰をする機会は増加している.就労は自己価値に影響力が強く,生活の質(QOL)との関わりも強い.心疾患患者は病態が多様であるが,外見上は健康に見える事から職場で療養に必要な理解が得られにくいことも多く,療養と仕事の両立支援は重要である.今回,心筋梗塞罹患後にレスキュー隊指揮官への復職を目指した症例に対し心臓リハビリテーション(心リハ)チームで療養・就労両立支援(両立支援)を行った.残念ながら原職復帰は叶わず,生活習慣の乱れや気分の落ち込みがみられたが,多職種介入によりモチベーションを取り戻し,良好な生活習慣へと変容を遂げた.本症例に基づき,作業療法士(OT)が両立支援で果たす介入や役割の考察と合わせて報告する.
【症例紹介】A氏59歳男性,レスキュー隊指揮官.急性下壁心筋梗塞(右冠動脈へPCI施行)で緊急入院となった.心エコーでは左室駆出率60%,下壁に高度壁運動低下を認めた.急性期心リハは当院のプロトコル通りに完了し第15病日目に退院,外来心リハ通院を開始した.心肺運動負荷試験(CPX)では,PeakVO2:16.8ml/min/kg(4.8METs)であり,運動耐容能の低下を認めた.業務内容は高強度の身体活動と人命に関わる現場での指令を要求され,夜勤もあった.家族とは別居中であり,職場以外の対人関係も少ない.高血圧や糖尿病を指摘されていたが退院後も食生活の見直しはできておらず,喫煙も継続しており,生活習慣指導へのアドヒアランスが不良であった.発表に際し,症例に説明し同意を得ている.
【両立支援の関わり】入院中にA氏から原職復帰の希望と両立支援を受ける意向を確認した.その時点でA氏・職場とのやり取りは無く,当院の心リハチームと職域間での復職に向けた方向性の一致が望まれた.詳細な職務内容を記載した就労状況計画書に基づき,心リハチームで協議を行い,本人に同意を得た上で即時の原職復帰は困難との意見書を職場に提出した.原職復帰を目指す心リハは週1回の運動療法に加え,多職種で疾病・食事指導,心理面談,復職面談を実施した.病態や過負荷に伴う身体的リスクを客観的に説明することでA氏は,現状では原職復帰は困難であることを理解した.両立支援開始7週間後,A氏・職場間の面談で原職復帰を断念し事務職として復職を目指すこととなった.OTは目標変更後も運動療法の方針は変更せず,多職種で情報共有を徹底し精神面へのサポートに尽力した.A氏は当初落ち込む様子がみられたが,モチベーションを取り戻し,前向きに楽しみながら心リハを継続し,心筋梗塞発症前には無かった運動習慣,良好な食生活,禁煙を達成した.
【考察】A氏は両立支援を通じて病気を理解し,事務職への復帰を受け入れ,良好な行動変容が可能となった.当初,原職復帰を目的とし心リハに参加していたが,困難となり自己価値の動揺や喪失感を認めていた.原職復帰は極めて困難な目標であったがA氏の意向を尊重した上で評価を行い,客観的事実に基づいた提案をA氏・職域両者に続けたこと,新規の目標設定を明確にし多職種で包括的な介入を実施したことが,事務職復帰の肯定的な受け入れやQOLの向上に繋がり,心リハへの積極的な取り組みに至ったと考える.両立支援に関わるOTに求められていることは,対象者の病態や身体機能,就労実態,生活背景を把握し,職場に対して病態に合わせた業務上配慮の提言を行うことを含めた,対象者のQOLを最大化できる支援プランを考案することであると考える.さらに復職に向けて生じる対象者の精神心理的変化に寄り添い,対象者の望む生き方を支援していくこともOTの役割であると考える.
【症例紹介】A氏59歳男性,レスキュー隊指揮官.急性下壁心筋梗塞(右冠動脈へPCI施行)で緊急入院となった.心エコーでは左室駆出率60%,下壁に高度壁運動低下を認めた.急性期心リハは当院のプロトコル通りに完了し第15病日目に退院,外来心リハ通院を開始した.心肺運動負荷試験(CPX)では,PeakVO2:16.8ml/min/kg(4.8METs)であり,運動耐容能の低下を認めた.業務内容は高強度の身体活動と人命に関わる現場での指令を要求され,夜勤もあった.家族とは別居中であり,職場以外の対人関係も少ない.高血圧や糖尿病を指摘されていたが退院後も食生活の見直しはできておらず,喫煙も継続しており,生活習慣指導へのアドヒアランスが不良であった.発表に際し,症例に説明し同意を得ている.
【両立支援の関わり】入院中にA氏から原職復帰の希望と両立支援を受ける意向を確認した.その時点でA氏・職場とのやり取りは無く,当院の心リハチームと職域間での復職に向けた方向性の一致が望まれた.詳細な職務内容を記載した就労状況計画書に基づき,心リハチームで協議を行い,本人に同意を得た上で即時の原職復帰は困難との意見書を職場に提出した.原職復帰を目指す心リハは週1回の運動療法に加え,多職種で疾病・食事指導,心理面談,復職面談を実施した.病態や過負荷に伴う身体的リスクを客観的に説明することでA氏は,現状では原職復帰は困難であることを理解した.両立支援開始7週間後,A氏・職場間の面談で原職復帰を断念し事務職として復職を目指すこととなった.OTは目標変更後も運動療法の方針は変更せず,多職種で情報共有を徹底し精神面へのサポートに尽力した.A氏は当初落ち込む様子がみられたが,モチベーションを取り戻し,前向きに楽しみながら心リハを継続し,心筋梗塞発症前には無かった運動習慣,良好な食生活,禁煙を達成した.
【考察】A氏は両立支援を通じて病気を理解し,事務職への復帰を受け入れ,良好な行動変容が可能となった.当初,原職復帰を目的とし心リハに参加していたが,困難となり自己価値の動揺や喪失感を認めていた.原職復帰は極めて困難な目標であったがA氏の意向を尊重した上で評価を行い,客観的事実に基づいた提案をA氏・職域両者に続けたこと,新規の目標設定を明確にし多職種で包括的な介入を実施したことが,事務職復帰の肯定的な受け入れやQOLの向上に繋がり,心リハへの積極的な取り組みに至ったと考える.両立支援に関わるOTに求められていることは,対象者の病態や身体機能,就労実態,生活背景を把握し,職場に対して病態に合わせた業務上配慮の提言を行うことを含めた,対象者のQOLを最大化できる支援プランを考案することであると考える.さらに復職に向けて生じる対象者の精神心理的変化に寄り添い,対象者の望む生き方を支援していくこともOTの役割であると考える.