第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

心大血管疾患

[OB-1] 一般演題:心大血管疾患 1

2024年11月9日(土) 16:50 〜 17:50 F会場 (201・202)

座長:岩元 祐太(鹿児島県立大島病院 リハビリテーション部)

[OB-1-5] 回復期リハビリテーション病棟において本人らしい在宅復帰を目標として多職種連携で退院支援を行った重症心筋梗塞症例

猪井 孝輔, 松尾 知洋, 福島 史与, 上野 勝弘, 小澤 修一 (西記念ポートアイランドリハビリテーション病院 リハビリテーション科)

【はじめに】令和4年度の診療報酬改定において,回復期リハビリテーションに心大血管疾患が初めて追加された.これにより回復期リハビリテーション病棟(回復期病棟)においても循環器疾患患者を担当する機会が増えてくることが想定されるが,2023年の回復期病棟の全国調査では,心大血管疾患の施設基準を取得している施設は26.8%に留まっている.また回復期病棟における循環器疾患患者に対する作業療法効果は不明な点が多く,担当作業療法士の判断により手探りで実施されている現状である.今回,重症心筋梗塞後に長期急性期治療を要し,回復期病棟に転院となり自宅退院した症例を経験したので報告する.
【症例紹介】80歳代男性.現病歴:左冠動脈前下行枝の急性心筋梗塞により心原性ショックで前医へ救急搬送され,補助循環装置装着下に経皮的冠動脈インターベンションを施行された.7病日目に補助循環装置離脱,意識レベルの改善が得られず頭部CTにて散在性脳梗塞と診断され17病日目に気管切開,42病日目に胃瘻造設され,67病日目にリハビリテーション目的で当院転院となった.既往歴:急性白血病.
 入院前ADLは完全自立,IADLは要介護の妻との2人暮らしであるため,妻の介護と家事を全般的に担っていた.趣味は山登り.本人は急性期病院で要介護5の認定を受けていたが,当院入院時から退院後に妻との2人暮らしを強く希望されていたため,目標を「適正な活動強度での安全な家事動作の獲得」とした.
【介入と経過】入院時の心電図は洞調律.左室駆出率21.3%と高度低下.血液データの特記事項としてBNP:595.8pg/mL.FIMは52点(運動:31点,認知:21点)で清拭や更衣は耐久性低下により動作後の疲労感が著明であったため,できる動作以上に介助で行っていた.歩行は耐久性低下のため車椅子介助.高次脳機能面は運動性失語,右半側空間無視を認めていた.作業療法は,医師や理学療法士と情報共有し,レジスタンストレーニングに加えて,ADL練習と洗濯物を干す動作の模倣を初めとしたIADL練習の中で主観的運動強度を確認しながら実施した.さらに日々の心不全徴候を見逃さないようフィードバックを行い,適正な活動強度でADL動作を行えるよう生活場面における自立度の調整を行った.耐久性,運動性失語や右半側空間無視が改善傾向となり30日後に病棟安静度が日中歩行器歩行監視となった.90日後には,身体機能やADLの改善に合わせて本人の希望である妻との同居生活を見据えて多職種で連携しながら調理動作の評価,練習も行った.退院時にはFIMが117点(運動:85点,認知:32点)まで改善.退院前カンファレンスにて退院後,入浴は当面シャワー浴を継続して行い,ADLや家事動作についても調理や買い物は介護ヘルパーを利用し身体的負担が大きくならないよう調整を行い,当院入院後116日目に自宅退院された.
【考察】循環器疾患患者における注意点の1つに過負荷があるため,できるADL動作で,その活動強度が適正内との評価が重要と考えられる.本症例の目標を達成するため,日々の作業療法時から課題を通じて疲労感に対する活動量の目安を指導したことや,多職種で連携して退院後の生活を想定したIADL練習や退院支援を行ったことにより,重症心筋梗塞後の長期急性期治療における高度な身体機能低下と脳梗塞を併発した本症例においても,自宅退院が可能となり妻との2人暮らしに繋がった.
【結語】回復期病棟における循環器疾患患者に対する作業療法及び多職種連携で進めるリハビリテーションは有用であった.