[OC-2-5] ALS-FTD患者における視線入力を用いた意思伝達装置導入の試み
【はじめに】筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)は運動ニューロンが選択的かつ進行的に変性・消失していく疾患である.従来,認知機能は低下しないとされてきたが,近年,前頭側頭型認知症(以下FTD)を中心とした前頭側頭葉変性症との合併が多く報告されている.今回,FTDを伴ったALS患者に対して視線入力を用いた意思伝達装置の導入を試みたため若干の考察を加え報告する.発表に際し,症例と家族に口頭と書面にて説明し同意を得ている.
【症例紹介】50代女性,独身で僧侶として勤務.バイク運転時に転倒するようになり近医受診後,当院に紹介されX-8月にALSと診断された.当院には進行抑制目的の点滴治療のため,毎月10日間ほど入院しており,今回X月Y日に8回目の入院となった.両親と3人暮らしで在宅サービスに加えてレスパイト目的に他院への短期入院を定期的に利用している.X-1月よりFTDの進行に伴いBPSDが顕在化したことで介護負担が増加,さらに短期入院の受け入れを断れれてしまい症例・家族ともに疲弊している状態であった.意思伝達装置の利用は,X-7月より訪問リハビリスタッフ主導で導入を予定していたが,今回の入院から当院主導で導入することとなった.
【作業療法初期評価(Y+1日~Y+3日)】意識清明,上下肢体幹の筋力はほぼ全廃で上腕二頭筋と円回内筋の自動収縮がわずかに可能な程度,筋緊張異常を認めMAS上肢屈筋3下肢伸筋3,感覚障害はなく右足関節に尖足拘縮を認める.発声は可能だが発語は困難,認知機能は精査困難だが,見当識や記憶は保たれ,注意障害と脱抑制を認める.基本動作,ADLともに全介助であり,嚥下は短時間であればとろみをつけることで可能だが,X-5月に胃瘻を造設している.症例の要望を聴取することが難しく,終日大声で泣き叫ぶ場面が散見された.
【介入・経過】以前より症例・家族から意思伝達装置導入の意向が聞かれていたため,ケアマネージャー・MSW・関連業者と連携し申請の手続きを進めた.OTは当院の意思伝達装置を用いて視線入力練習を中心に介入した.介入当初は頚部を固定して眼球のみ動かすことが難しく,誤字脱字の確認不足など注意障害と脱抑制によるエラーが頻発した.症例の認知機能を考慮し,声掛けのタイミングや情報量を調節しながら視線入力練習を継続した.誤り無く入力することは難しかったが,徐々に「暑い」「足を曲げて」といった簡単な要望から,視聴したいテレビ番組を視線入力で伝えることが可能となった.要望が伝わることで,安心して徐々に穏やかに過ごせる時間が増えていった.
【最終評価(Y+62日~Y+70日)】初期評価時に比べ,進行に伴い上腕二頭筋と円回内筋の筋力が低下し自動収縮が困難となったが,その他身体機能・認知機能ともに大きな変化は認めなかった.基本動作,ADLも変わらず全介助であったが,視線入力により意思伝達が可能な場面が増えたことで,大声で泣き叫ぶことが減った.穏やかに過ごせる時間が増えたことで,家族の受け入れも良好となりY+71日に自宅退院となった.
【考察】今回,FTDを伴ったALS患者に対して視線入力を用いた意思伝達装置の導入を試みた.残存した身体機能に合わせた機器を選択し,認知機能に合わせた視線入力練習をおこなったことで要望を伝えられる場面が増え,穏やかに過ごせる時間が増えた.ALS-FTD患者に対するOTによる包括的な介入がBPSDの減少と自宅退院への一助となった可能性が示唆された.
【症例紹介】50代女性,独身で僧侶として勤務.バイク運転時に転倒するようになり近医受診後,当院に紹介されX-8月にALSと診断された.当院には進行抑制目的の点滴治療のため,毎月10日間ほど入院しており,今回X月Y日に8回目の入院となった.両親と3人暮らしで在宅サービスに加えてレスパイト目的に他院への短期入院を定期的に利用している.X-1月よりFTDの進行に伴いBPSDが顕在化したことで介護負担が増加,さらに短期入院の受け入れを断れれてしまい症例・家族ともに疲弊している状態であった.意思伝達装置の利用は,X-7月より訪問リハビリスタッフ主導で導入を予定していたが,今回の入院から当院主導で導入することとなった.
【作業療法初期評価(Y+1日~Y+3日)】意識清明,上下肢体幹の筋力はほぼ全廃で上腕二頭筋と円回内筋の自動収縮がわずかに可能な程度,筋緊張異常を認めMAS上肢屈筋3下肢伸筋3,感覚障害はなく右足関節に尖足拘縮を認める.発声は可能だが発語は困難,認知機能は精査困難だが,見当識や記憶は保たれ,注意障害と脱抑制を認める.基本動作,ADLともに全介助であり,嚥下は短時間であればとろみをつけることで可能だが,X-5月に胃瘻を造設している.症例の要望を聴取することが難しく,終日大声で泣き叫ぶ場面が散見された.
【介入・経過】以前より症例・家族から意思伝達装置導入の意向が聞かれていたため,ケアマネージャー・MSW・関連業者と連携し申請の手続きを進めた.OTは当院の意思伝達装置を用いて視線入力練習を中心に介入した.介入当初は頚部を固定して眼球のみ動かすことが難しく,誤字脱字の確認不足など注意障害と脱抑制によるエラーが頻発した.症例の認知機能を考慮し,声掛けのタイミングや情報量を調節しながら視線入力練習を継続した.誤り無く入力することは難しかったが,徐々に「暑い」「足を曲げて」といった簡単な要望から,視聴したいテレビ番組を視線入力で伝えることが可能となった.要望が伝わることで,安心して徐々に穏やかに過ごせる時間が増えていった.
【最終評価(Y+62日~Y+70日)】初期評価時に比べ,進行に伴い上腕二頭筋と円回内筋の筋力が低下し自動収縮が困難となったが,その他身体機能・認知機能ともに大きな変化は認めなかった.基本動作,ADLも変わらず全介助であったが,視線入力により意思伝達が可能な場面が増えたことで,大声で泣き叫ぶことが減った.穏やかに過ごせる時間が増えたことで,家族の受け入れも良好となりY+71日に自宅退院となった.
【考察】今回,FTDを伴ったALS患者に対して視線入力を用いた意思伝達装置の導入を試みた.残存した身体機能に合わせた機器を選択し,認知機能に合わせた視線入力練習をおこなったことで要望を伝えられる場面が増え,穏やかに過ごせる時間が増えた.ALS-FTD患者に対するOTによる包括的な介入がBPSDの減少と自宅退院への一助となった可能性が示唆された.