[OD-1-1] 交通事故によってデグロービング損傷,多発骨折を同時受傷した外傷例に対する作業療法経験
【緒言】トラックの巻込み交通事故により,手部デグロービング損傷と手指,肩甲骨,腰椎の多発骨折を同時に受傷した症例を担当した.デグロービング損傷と多発骨折に対する複数部位の治療においては,複雑な術後療法や安静度管理を併行して行うことが必要となったが,各治療期における目標を明確にした段階的なプログラムを行うことによって,良好な治療結果が得られたので報告する.【症例】40歳代の左利き女性.2人家族で家事を担当していた.診断名は右デグロービング損傷(手掌皮膚挫滅創,皮膚全層剥離),右第4,5指中手骨骨折,右肩甲骨骨折,第4腰椎圧迫骨折であった.X日に交通事故で当院へ救急搬送,右デグロービング損傷に対しては創閉鎖術,右第4,5中手骨骨折に対しては経皮的銅線刺入術が施行された.肩甲骨骨折と腰椎圧迫骨折は保存加療となった.X+6日より作業療法を開始した.術後療法は右手指ROM訓練が制限なく開始となった.右肩関節は肩関節他動90°外転および内外旋のROM訓練が開始となった.腰椎圧迫骨折はベッドアップ30°までの安静度となった.【初期評価X +6日】安静時痛と腫脹を右上肢全体に認めた.疼痛の影響で肩関節内旋,肘関節約90°の肢位で肩関節周囲は過緊張であった.手指ROM(°)についてTotal Active Motion (TAM)/Total Passive Motion(TPM)は母指20/30,示指60/184,中指50/180,環指24/180,小指0/120であり,著明な自動運動の障害を認めた.肩関節は未測定であった.知覚に障害は認めなかった.ADLはBarthel Indexは30/100点であった.【作業療法計画】本症例は複数部位の損傷のため,急性期では各損傷部位の治癒と二次的障害予防を優先し,回復期では身体機能向上につなげることが重要と考えた.デグロービング損傷と中手骨骨折を呈した右手指に対しては自動運動を中心に手指屈筋腱の癒着や拘縮の予防を目標とした.肩甲骨骨折に対しては骨転移を考慮しながら,患部外の不動を防ぐ方針とした.【経過】X+39日に右手掌に遊離皮弁術を施行した.その後,積極的な自動運動や第一指間拡大の目的で母指対立スプリント,夜間スプリントを作製した.X+48日に肩関節自動運動を開始した.肩関節ROMは屈曲20,外転60,外旋5で疼痛が出現した.X+94日より外来移行となり,目標を具体化するために実施したCOPMでは,更衣(遂行度/満足度)2/1,洗体1/1,掃除洗濯などの家事1/1が抽出され,手指と肩関節のROM制限が問題となった.手指に対しては,手指屈曲矯正スプリントを作製し,肩関節に対しては軟部組織の滑走改善のために体外衝撃波療法を実施した.【最終評価(X+273日】ROMは肩関節屈曲165,外転150,外旋45,内旋50.TAM/TPMは母指26/45,示指150/200,中指174/200,環指150/160,小指80/86と改善が見られた.握力は右3㎏/左8㎏,ピンチ力は三指つまみで右2㎏/左7㎏であった.COPMは更衣8/4,洗体3/2,掃除洗濯などの家事9/9と結果の向上が見られた.家庭での役割として掃除などが可能となり,事故前と同様の生活が可能となった.【考察】本症例は複雑な方針選択や安静度管理が必要になるため,リハビリテーション療法は難渋すると予測された.今回急性期に各目標を明確にしたことにより各治療が遅れることなく二次的障害予防ができた.その結果,外来では具体的な作業目標に向かって段階的にプログラムを行うことができたため症例が望む作業の再獲得につながった.したがって,本症例のような複数の損傷を伴う外傷例への作業療法においては,各期での目標を明確にして段階的なプログラムを実施することが重要であると考えられた.