第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

運動器疾患

[OD-1] 一般演題:運動器疾患 1

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 F会場 (201・202)

座長:櫻井 利康(相澤病院 整形外科リハ科)

[OD-1-3] 肩腱板縫合術後の拘縮に対しフロッシングで可動域改善が得られた2例

~ Fascia の滑走性を改善する剪断力を生み出すフロッシング作用~

佐々木 秀一1, 見目 智紀2, 神保 武則1, 青木 啓一郎3, 高平 尚伸4 (1.北里大学病院リハビリテーション部, 2.北里大学医学部整形外科学, 3.昭和大学保健医療学部, 4.北里大学医療衛生学部)

【背景】肩腱板断裂術後,日常生活動作(以下,ADL)には十分な可動域の改善は得られるが,患者の満足度が低いことを経験することは少なくない.フロッシングは,ゴム製のバンドを関節や筋腹などの身体に巻き付けて圧迫し,その状態で徒手的な捻りや自動および抵抗運動を行うことで,Fasciaを中心に滑走性を高め可動域拡大や疼痛緩和を得る治療法である(Starrett, 2013).今回,鏡視下腱板縫合術(以下,ARCR)後,半年以上経過しても軽度な肩関節可動域制限が残り満足度が低かった症例に対し,フロッシング介入により満足度の高い肩関節可動域の改善が得られた2例を経験したため報告する.本発表に際してご本人から同意を得た.
【症例供覧】症例1:60歳代の女性.右肩腱板断裂(小断裂と肩甲下筋)に対しARCRを施行した.職業はフィギュアスケートコーチ兼選手.症例2:50歳代の女性.右肩腱板断裂(中断裂)に対しARCRを施行した.職業は主婦.2症例とも縫合方法はBridging sutureで,術後リハの計画は4週間外転枕で固定し,術後14日から他動運動,28日から自動運動開始した.外来リハは週1日程度で継続し,両症例とも術後6ヶ月時で再断裂は認めず,肩関節機能も改善しADLや家事動作は自立していた.術後8ヶ月時において,症例1は,関節可動域は肩関節屈曲170°,外転165°,外旋65°,内旋胸椎9レベルであったが,肩の動きがぎこちなく疼痛もあり競技レベルではなかった.症例2は,肩関節屈曲170°,外転160°,外旋65°,内旋胸椎12レベルと僅かな可動域制限のみであったが,肩関節外転動作中に骨頭が前方に押し出され,スムーズに肩を動かすことができず,ご本人の満足度は低かった.そこで,両症例とも1ヶ月間の集中的なフロッシング介入を行なった.
【フロッシング介入方法】2例ともCOMPRE floss○R(株式会社サンクト・ジャパン,2インチ)を使用した.座位で患側の上腕近位部から肩関節,肩甲帯にかかる位置で,巻き方はフロスバンドを自然長の1.5倍伸張させながら,50%重ねるように巻き,2分間バンドの上から他動的な捻りと肩屈曲の自動および抵抗運動を1セットとし2セット施行した.症例1は,即時的に肩関節の動きが滑らかとなり,効果も持続し競技復帰した.症例2は1ヶ月間施行し,肩関節外転170°,内旋胸椎7レベルと改善し満足度も高かった.
【考察】Fasciaとは水とコラーゲンを主成分とし,網目状のテンセグリティ構造を持ち,筋,腱,靭帯等を覆っている線維性結合組織である.中でも深筋膜の中の腱膜筋膜は様々な筋を包み,それらの筋を繋ぎ四肢の区画を形成している.肩関節は大きく分けて腱板筋と肩甲帯周囲筋の二層構造である.術後症例では,外傷や手術侵襲によりfasciaの組織同士が互いに接着(癒着)することで,滑走性の低下し,滑らかな動きが阻害されていると考えられる.フロッシングではバンドで患部を包み圧迫することで,体内に内圧がかかる(パスカルの原理).その状態で捻ることで,各腱膜筋膜のfasciaに剪断力がかかり,深部まで筋間の滑走が改善することが考えられる.そのため,可動域制限の残存したARCR後の肩関節に対しフロッシングにより可動域の改善が得られたものと考えられた.フロッシングは徒手による関節可動域訓練よりも手軽に深部まで筋間の滑走性を改善する治療法として,有用な可能性がある.