[OD-1-4] 手掌の急性放射線熱傷に対して作業療法を行った2例
【はじめに】
高線量の電離放射線被曝では造血障害,消化器障害,神経血管障害を代表とする急性放射線障害(以下,ARS)を引き起こす.ARSでは放射線誘発性のDNA損傷と酸化ストレスによる様々な形態での細胞死が,皮膚や軟部組織の壊死などの重篤な症状に繋がり,進行性変化することから予後予測が困難とされている.しかし一方で,症例数の少なさからこれまでにARSに関する報告は少なく,その治療方法や管理方法は統一されていない.今回,仕事中の事故によりARSを受傷した2症例に対し作業療法を実施したため報告する.なお,本報告に当たり対象者には書面・口頭にて同意を得た.
【症例紹介】
症例1は工場で機械の清掃中に誤って高線量の放射線を被曝した.帰宅後,顔面と上肢の発赤が出現し,翌朝ARSと診断された.症状として両手と顔面の重症な熱傷と皮膚壊死がみられた.当院入院直後から作業療法を開始し,愛護的な関節可動域訓練と自助具などを用いたADL訓練を実施した.高圧酸素療法や薬物療法が施行されていたが,後天性血友病Aの発症や皮膚症状の悪化に伴い,遊離皮弁術と手指壊死部の離断術が施行された.術部の安静期間中は有酸素運動や気分転換のための外気浴を行い,安静解除後は再度愛護的な関節可動域訓練を開始し,つまみ動作訓練や箸操作訓練を実施した.症状の悪化や3度の手術による安静もあった中,作業療法によりつまみ動作が可能となり入院から204日後に自宅退院した.現在はデスクワークを中心に職場復帰を達成している.
症例2は症例1と同時に受傷した.帰宅後,右手掌の発赤と下痢を発症し,右手掌全体の皮膚壊死と重度の腱癒着がみられた.入院直後から作業療法を開始し,疼痛に応じた関節可動域訓練や物体把持・操作などの巧緻動作訓練を中心に実施した.初期評価時点では強い疼痛はあるものの手指の自動屈曲は制限なく可能であった.その後皮膚や屈筋腱の壊死などの病態進行に伴いデブリドマンや遊離皮弁術が施行され,疼痛管理には強オピオイド鎮痛薬が使用された.徐々に増悪する症状や手術による安静期間により関節可動域の維持も難航したが,装具療法や巧緻動作訓練として興味のある手芸やパズルを実施したことにより高度な関節拘縮を来すもののつまみ動作や箸操作,書字機能は維持された.入院より195日後に自宅退院し,抑うつ症状等により復職は未達成であるが現在も近医で外来リハビリテーション治療を受けている.
【考察】
先行研究では放射線熱傷に対するリハビリテーション治療として,関節可動域訓練と動的スプリントにより不快感の漸進的な緩和や麻薬の減少,関節可動域の改善が報告されている.今回の症例では強い疼痛と進行性変化による壊死に対し,疼痛に合わせた作業療法とリハビリテーション治療計画の頻回な見直し,心理的フォローにより予後予測が困難な中でも手指の機能獲得に繋がったと考える.一方で遊離皮弁の安静度制限や患部の血流障害,皮膚壊死を考慮して積極的な関節可動域訓練や早期の装具療法の導入に難渋し,結果として重度な関節拘縮は残存した.これまでARSの治療や経過,予後予測は報告が少なかったが,今回の事例を経験したことで全般的な治療内容と機能予後についての知見を得ることができた.強オピオイド鎮痛薬でもコントロール不能な程の強い疼痛や進行する皮膚壊死に対してどの治療段階からどの程度の対策を講じていくかは医療チームで方針を早期から考える必要があり,今後の課題である.
高線量の電離放射線被曝では造血障害,消化器障害,神経血管障害を代表とする急性放射線障害(以下,ARS)を引き起こす.ARSでは放射線誘発性のDNA損傷と酸化ストレスによる様々な形態での細胞死が,皮膚や軟部組織の壊死などの重篤な症状に繋がり,進行性変化することから予後予測が困難とされている.しかし一方で,症例数の少なさからこれまでにARSに関する報告は少なく,その治療方法や管理方法は統一されていない.今回,仕事中の事故によりARSを受傷した2症例に対し作業療法を実施したため報告する.なお,本報告に当たり対象者には書面・口頭にて同意を得た.
【症例紹介】
症例1は工場で機械の清掃中に誤って高線量の放射線を被曝した.帰宅後,顔面と上肢の発赤が出現し,翌朝ARSと診断された.症状として両手と顔面の重症な熱傷と皮膚壊死がみられた.当院入院直後から作業療法を開始し,愛護的な関節可動域訓練と自助具などを用いたADL訓練を実施した.高圧酸素療法や薬物療法が施行されていたが,後天性血友病Aの発症や皮膚症状の悪化に伴い,遊離皮弁術と手指壊死部の離断術が施行された.術部の安静期間中は有酸素運動や気分転換のための外気浴を行い,安静解除後は再度愛護的な関節可動域訓練を開始し,つまみ動作訓練や箸操作訓練を実施した.症状の悪化や3度の手術による安静もあった中,作業療法によりつまみ動作が可能となり入院から204日後に自宅退院した.現在はデスクワークを中心に職場復帰を達成している.
症例2は症例1と同時に受傷した.帰宅後,右手掌の発赤と下痢を発症し,右手掌全体の皮膚壊死と重度の腱癒着がみられた.入院直後から作業療法を開始し,疼痛に応じた関節可動域訓練や物体把持・操作などの巧緻動作訓練を中心に実施した.初期評価時点では強い疼痛はあるものの手指の自動屈曲は制限なく可能であった.その後皮膚や屈筋腱の壊死などの病態進行に伴いデブリドマンや遊離皮弁術が施行され,疼痛管理には強オピオイド鎮痛薬が使用された.徐々に増悪する症状や手術による安静期間により関節可動域の維持も難航したが,装具療法や巧緻動作訓練として興味のある手芸やパズルを実施したことにより高度な関節拘縮を来すもののつまみ動作や箸操作,書字機能は維持された.入院より195日後に自宅退院し,抑うつ症状等により復職は未達成であるが現在も近医で外来リハビリテーション治療を受けている.
【考察】
先行研究では放射線熱傷に対するリハビリテーション治療として,関節可動域訓練と動的スプリントにより不快感の漸進的な緩和や麻薬の減少,関節可動域の改善が報告されている.今回の症例では強い疼痛と進行性変化による壊死に対し,疼痛に合わせた作業療法とリハビリテーション治療計画の頻回な見直し,心理的フォローにより予後予測が困難な中でも手指の機能獲得に繋がったと考える.一方で遊離皮弁の安静度制限や患部の血流障害,皮膚壊死を考慮して積極的な関節可動域訓練や早期の装具療法の導入に難渋し,結果として重度な関節拘縮は残存した.これまでARSの治療や経過,予後予測は報告が少なかったが,今回の事例を経験したことで全般的な治療内容と機能予後についての知見を得ることができた.強オピオイド鎮痛薬でもコントロール不能な程の強い疼痛や進行する皮膚壊死に対してどの治療段階からどの程度の対策を講じていくかは医療チームで方針を早期から考える必要があり,今後の課題である.