第58回日本作業療法学会

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一般演題

運動器疾患

[OD-2] 一般演題:運動器疾患 2

Sat. Nov 9, 2024 3:40 PM - 4:40 PM F会場 (201・202)

座長:半谷 智辰(福島県立医科大学会津医療センター 整形外科・脊椎外科学講座)

[OD-2-2] 壊死性筋膜炎による両側上肢切断症例に対する作業療法の経験

神田 人基1, 兄井 聖子1, 大森 みかよ1, 永富 彰仁2 (1.聖マリアンナ医科大学病院 リハビリテーション技術部, 2.聖マリアンナ医科大学病院 リハビリテーション科)

【はじめに】壊死性筋膜炎は,浅層筋膜に急速に壊死が拡大する細菌性感染症である.進行すると致死的となる疾患である.今回,本疾患により左上腕切断,次いで右前腕切断に至った症例を経験した.本症例の作業療法として,生命予後に予断を許さない集中治療室(以下ICU)での緩和を目的とした関わりと,致死的状況を脱した後に,自助具の使用によりADLが一部自立した経過について症例報告する.
【症例紹介】40歳代の男性,職業は測量士である.発熱,両側上・下肢の腫脹,疼痛で前医を受診後,3病日で当院へ転院となり,壊死性筋膜炎と診断された.即時人工呼吸器管理となり,左上腕切断,右上下肢減張切開が施行された.79病日に右前腕切断(極短断端),90病日に右下肢の植皮術となった.なお,倫理的配慮として,本症例には口頭にて症例報告の説明を行い,同意を得た.
【作業療法評価】人工呼吸器を離脱した19病日よりICUにて作業療法を開始した.Glasgow Coma Scale (以下GCS)はE4V4M6,Confusion Assessment Method for Intensive Care Unit(以下CAM-ICU)は陽性だが,簡単な会話は可能であった.左上肢の肩関節機能は保たれ,断端には疼痛や幻肢は認めなかった.右上肢は安静のため使用不可であった.ADLはベッド上全介助であり,精神面では「死んだ方がましだ」,「両手がないと生きていても意味がない」など悲観的な発言が多く,治療に対して拒否的で抑うつ傾向であった
【ICUでの緩和を目的とした作業療法】開始当初,症例は右上肢の切断を希望せず,病状の進行によって生命予後が不良となる可能性が大きかった.多職種協議により,作業療法の方針は,緩和を目的とし,具体的には,せん妄への対応として,ICU diary導入,OTによる時事的な話題を用いた見当識へのアプローチのほか,ナースコールやテレビ等の環境調整を実施した.また,心理的ストレスの緩和として,症例の痛みや不安を多職種間で共有し,対応しているという安心感を提供した.一方で,残存肢の切断によって,生命的危機を脱する可能性もあり,左上肢に対する機能訓練を継続した.経過中,全身状態が改善したため,治療方針を協議した結果,救命を最優先して79病日に右前腕切断術,90病日に右下肢植皮術が施行された.
【機能訓練と自助具導入を主体とした作業療法】右前腕切断後よりCAM-ICUは陰性となり,右上肢に幻肢は認めないが,右肩関節の痛みを呈していた.この時期からは,機能回復を目標に,上肢機能訓練としてストレッチや筋力強化,端座位練習を実施した.また,今後の生活に関する症例のイメージを精神面に配慮しながら具体化し,義手や電動車椅子の利用についての情報提供を段階的に行なった.130病日より離床が定着し,悲観的な発言はなくなった.作業療法の方針は,残存機能を活用した作業の獲得と義手使用に向けた準備とした.長期臥床による体幹,両側肩甲帯および肩関節の可動域制限に対して機能訓練を継続し,症例の自立の希望が強い携帯とリモコン操作のための自助具を作製した.操作練習を開始するとよりスムースな使用を目指して,症例の自発的な上肢機能訓練が増加し,自助具使用での食事が自立するに至った.240病日に練習用義手の練習を開始した.
【結果と考察】最終評価では,両側肩関節の機能は正常化し,近位監視で歩行可能となり,BI60点へ改善した.症例からはADLへの希望や提案が聞かれるようになり,リハビリテーションと義手作製を目的に転院となった.本症例の作業療法においては,生命予後と機能損失の見通しについて,多職種協議を通してさまざまな方向性を考慮し対応できたことが重要であったと考える.