第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

運動器疾患

[OD-2] 一般演題:運動器疾患 2

2024年11月9日(土) 15:40 〜 16:40 F会場 (201・202)

座長:半谷 智辰(福島県立医科大学会津医療センター 整形外科・脊椎外科学講座)

[OD-2-4] 短時間のスプリント装着で内反手の矯正が得られた橈骨完全欠損児への作業療法

鈴木 建宏1, 松永 晃奈1, 保谷 海斗マフラ1, 田沼 明1, 大林 治2 (1.順天堂大学医学部附属静岡病院 リハビリテーション科, 2.順天堂大学医学部附属静岡病院 整形外科)

【初めに】
先天性橈骨欠損による内反手は,放置すれば尺骨と前腕筋の発達から変形はより高度となると言われている.完全欠損例の治療は尺骨と手根骨を固定する手関節形成術が一般的だが,1.手関節の正中位までの可動域が必要な事.2.術後半年程度患肢の使用が制限される事が条件となる.1.に関して過去に1日12時間以上,または就寝時のスプリント装着により可動域の改善が報告されている.また,2.に関しては矯正期間も合わせて患肢の発達の遅れが予想される.今回先天性橈骨完全欠損児に対し,生後から手術までの1年間,外来で装具療法と上肢機能運動,家族指導など行った経験を報告する.なお,発表に際し両親より口頭と書面にて同意を得ている.
【症例紹介】
男児.37週0日1872gで出生.診断名は右橈骨欠損(手の先天異常分類マニュアル2012:1c.橈骨完全欠損).出生後翌日から酸素投与なしで16日後退院.1か月後から外来作業療法開始.ROMは右手関節橈屈100°尺屈−85°掌屈50°背屈55°肘関節屈曲145°伸展10°.示指~小指はわずかに離握手可能.母指は変形し自動運動はみられず.
【経過】
当院退院後専門病院にて1年後に手関節形成術をすることが決まった.そのため,1年間で右手関節ROMの正中位獲得をOTの目標とした.生後1か月から当院手外科医と相談の上,皮膚トラブル予防の視点からスプリント装着を,最初は1日15分とし徐々に時間を伸ばしていく方針とした.スプリントは最大尺屈位にて上腕から手指まで尺側を覆うような形とし,内部にフェルトを張りソフトストラップにて固定した.初期からスプリントの再作製の期間は3週間毎とし,8か月以降は5週間毎とした.生後3か月から橈側からのスプリント装着が可能となったため,母指を穴から出し上腕と示指までを固定した.この頃から指しゃぶりができるようになり,装着時間が短時間でもROMの改善が得られていたため,1日1~2時間程度の装着とした.生後半年で尺屈が−25°まで改善した.この頃から示指,中指の動きが多くなり,環指と小指に伸展制限が出現したためスプリントを手指が動かせるようにMP関節以遠を出すようにした.また,家族に手指のROM練習とスプリントを外して物品を握るなどの操作を指導した.また,同様の理由でパンケーキ型のスプリントは作製しなかった.生後10か月には尺屈−5°まで改善し,装着は就寝時のみとした.
【結果】
生後1年で右手関節尺屈5°獲得.また,示指と中指でのつまみ動作が可能となった.右上肢以外は順調に発達し円城寺式乳幼児分析的発達機能検査DQは移動91,手の動き58となった.体重も正常範囲内で増加し生後1年1か月後他院にて手関節形成術を施行.正中位で固定され現在まで変形の再発はみられていない.
【考察】
内尾らは小児の上肢では筋・腱は柔軟性に富んでいるものの,筋量の経年増加が少ない.としており,今回先行研究よりも短時間の装着でも内反矯正が可能だった.装着時間の短縮は,術後半年の患肢使用制限を考慮すると皮膚トラブルの予防だけでなく,手と目の協調性や両手動作の獲得など手の発達に寄与できるのではないかと考えた.また,生後体重増加が大きい時期は再作製の頻度は3週間以内が良かった.今回の経験から,橈骨完全欠損による重度内反手症例でも,1年間の外来作業療法にて手関節正中位までのROM獲得は十分可能であることが示唆された.