[OD-2-5] ADOC-Hによる目標設定で患肢使用頻度改善に成功した小児左上腕骨顆上骨折患者の一例
【緒言】近年,作業を基盤とした実践(occupation-based intervention:OBI)の有効性が報告されている(Weinstock-Zlotnick,2018).特にハンドセラピィ領域においては,OBIの促進と損傷手の使用頻度向上に特化したAid for Decision-making in Occupation Choice for Hand(ADOC-H)(友利,2023)を使用した報告が散見される.一方,対象の多くが成人であり,小児症例に実施した報告は少ない.今回,左上腕骨顆上骨折を呈した本症例に対し,ADOC-Hを使用した結果,患肢使用頻度が向上し,患肢使用の恐怖心が消失した小児症例を経験したので,以下に考察を交え報告する.尚,発表に際し本症例・母親より同意を得ている.
【対象】9歳の男児.右利き.トランポリン上で転倒し受傷した.同日当院へ救急搬送され,左上腕骨顆上骨折(Gartland分類type3)の診断となり,緊急で経皮的鋼線固定術を施行した.術中に上腕筋の部分断裂を認め縫合を施行した.第2病日に術前の精査が困難であった正中神経麻痺を認め,第3病日に自宅退院となった.第33病日に整形外科診察で患肢使用を医師から指導されたが,全く使用出来ず,第45病日に外来作業療法(OT)が週1回2単位で開始となった.
【評価】外来OT開始時,関節可動域(ROM)は左肘関節屈曲90°伸展-50°前腕回内30°前腕回外40°であった.疼痛はNumerical Rating Scale(NRS)で安静時4/10,運動時8/10であった.また,本症例から「左手を動かすと痛くなりそうで怖い.」母親から「骨折直後の状態が頭に浮かんでしまって怖くて動かせません.」と発言があり,本症例・母親共に恐怖心のために,患肢不使用の状態と判断した.
【介入内容】第52病日にOBI促進のため,ADOC-Hを用いて本症例・母親・OTの3者で目標を設定した.初回の目標は,OT時間内に疼痛が少なく動作可能であった3動作を挙げた.また,本症例・母親が目標を確認しながら毎日実施できる様にチェックシート(川口,2022)を使用した.初回目標以降に新たな目標を設定する際は,疼痛への恐怖心や課題難易度に留意しつつ,3者で相談しながら決定した.
【結果】第59病日に初回チェックシートを確認すると,すべての項目が毎日実施できていた.本症例は「目標を決めれば頑張れる.リハビリは楽しい.」と意欲的な様子が見られた.また,第80病日に新たな目標を設定する際は,ADOC-Hのイラストを見ながら本症例から「学校で給食のお皿が持てなかったんだ.持てるようになりたい.」と現在出来ていない活動が想起され,新たな目標設定へと繋がった.その後,順調に目標を達成し,第97病日には「肘を動かすのは全然怖くない.」と動作への恐怖心が完全に消失し,ROMは左肘関節屈曲145°伸展5°前腕回内90°回外90°に改善し,疼痛はNRSで安静時0/10,運動時1/10まで改善した.
【考察】今回,疼痛の恐怖心により患肢不使用となっていた本症例に対し,ADOC-Hを用いた結果,OBIが促進され患肢使用頻度の向上に成功した.主な要因は,まず,初回の目標を疼痛の生じにくい課題に設定したことで,本症例・母親ともに安心して取り組めたからと考えられた.また,課題難易度は,成功率が7割程度で少し難しいと感じる程度が適切(竹林,2018)とされており,無理のない目標設定で訓練を促したことが奏功した.更に,ADOC-Hのイラストによって画像優位性効果(Christiane Baadte,2019)が生じ,目標を自己で言語化することが難しい小児でも目標設定に主体的に関われたことが示唆された.これらの成功体験の順調な積み重ねが本症例の自己効力感を向上させ,患肢使用頻度の向上に繋がったと考えられた.以上より,ADOC-Hは成人のみならず小児にも有効であると考えられた.
【対象】9歳の男児.右利き.トランポリン上で転倒し受傷した.同日当院へ救急搬送され,左上腕骨顆上骨折(Gartland分類type3)の診断となり,緊急で経皮的鋼線固定術を施行した.術中に上腕筋の部分断裂を認め縫合を施行した.第2病日に術前の精査が困難であった正中神経麻痺を認め,第3病日に自宅退院となった.第33病日に整形外科診察で患肢使用を医師から指導されたが,全く使用出来ず,第45病日に外来作業療法(OT)が週1回2単位で開始となった.
【評価】外来OT開始時,関節可動域(ROM)は左肘関節屈曲90°伸展-50°前腕回内30°前腕回外40°であった.疼痛はNumerical Rating Scale(NRS)で安静時4/10,運動時8/10であった.また,本症例から「左手を動かすと痛くなりそうで怖い.」母親から「骨折直後の状態が頭に浮かんでしまって怖くて動かせません.」と発言があり,本症例・母親共に恐怖心のために,患肢不使用の状態と判断した.
【介入内容】第52病日にOBI促進のため,ADOC-Hを用いて本症例・母親・OTの3者で目標を設定した.初回の目標は,OT時間内に疼痛が少なく動作可能であった3動作を挙げた.また,本症例・母親が目標を確認しながら毎日実施できる様にチェックシート(川口,2022)を使用した.初回目標以降に新たな目標を設定する際は,疼痛への恐怖心や課題難易度に留意しつつ,3者で相談しながら決定した.
【結果】第59病日に初回チェックシートを確認すると,すべての項目が毎日実施できていた.本症例は「目標を決めれば頑張れる.リハビリは楽しい.」と意欲的な様子が見られた.また,第80病日に新たな目標を設定する際は,ADOC-Hのイラストを見ながら本症例から「学校で給食のお皿が持てなかったんだ.持てるようになりたい.」と現在出来ていない活動が想起され,新たな目標設定へと繋がった.その後,順調に目標を達成し,第97病日には「肘を動かすのは全然怖くない.」と動作への恐怖心が完全に消失し,ROMは左肘関節屈曲145°伸展5°前腕回内90°回外90°に改善し,疼痛はNRSで安静時0/10,運動時1/10まで改善した.
【考察】今回,疼痛の恐怖心により患肢不使用となっていた本症例に対し,ADOC-Hを用いた結果,OBIが促進され患肢使用頻度の向上に成功した.主な要因は,まず,初回の目標を疼痛の生じにくい課題に設定したことで,本症例・母親ともに安心して取り組めたからと考えられた.また,課題難易度は,成功率が7割程度で少し難しいと感じる程度が適切(竹林,2018)とされており,無理のない目標設定で訓練を促したことが奏功した.更に,ADOC-Hのイラストによって画像優位性効果(Christiane Baadte,2019)が生じ,目標を自己で言語化することが難しい小児でも目標設定に主体的に関われたことが示唆された.これらの成功体験の順調な積み重ねが本症例の自己効力感を向上させ,患肢使用頻度の向上に繋がったと考えられた.以上より,ADOC-Hは成人のみならず小児にも有効であると考えられた.