[OD-3-2] 手指屈筋腱断裂に対する指腱鞘部での腱移植術後の早期運動療法経験
【目的】
手指屈筋腱断裂修復術後の治療成績は,手外科医による強固な腱縫合法の開発にて,ハンドセラピストが腱滑走訓練を術後早期から開始できるようになり,多くの好成績が報告されている.しかし,陳旧例に対する屈筋腱移植術の治療報告は少なく,具体的なリハビリテーションを含めた治療法の研究を進める必要がある.今回,Zone1-3腱鞘部位にて腱移植術した例の早期運動療法を経験したので,その治療成果を報告する.
【対象】
症例は本報告に同意を得た40代の男性で右利き,調理人である.調理ナイフにて左環指,小指のDIP関節掌側を誤って切り,近位受診にて創部のみ縫合処置され,当院紹介となった.左環指,小指深指屈筋腱(FDP)断裂の診断にてすぐに腱縫合手術が検討されたが,仕事が多忙のため,治療は受けなかった.左環指,小指のDIP関節屈曲不能のまま,受傷から5か月後に再び当院受診し,再建手術を受けた.環指FDPは手根管遠位部まで,小指FDPはA1腱鞘部まで退縮し癒着していた.
【方法】
手術法はまず両側から長掌筋腱を採取し,環小指の各指腱鞘にそれぞれ通した.次に環小指の各末節骨にmicro anchorを挿入して移植腱を縫合し,さらに残存したFDP腱遠位断端に移植腱を挟み込むように数度縫合した.近位部はZone3にて移植腱をFDP腱の近位断端とやや高い緊張下で編み込み縫合した.術後翌日から早期運動療法を開始した.運動方法は1.手指他動屈曲位を保持する自動屈曲運動,2.浅指屈筋の収縮によるPIP関節屈曲運動,3.減張位でPIP,DIP関節ごとの他動伸展運動,4.MP関節屈曲位でのPIP,DIP関節自動伸展運動とした.1~4を各5回程度,午前と午後など間隔を空け2~3セット行い,可動域の維持を毎日確認した.運動時以外は,患指屈曲位で外固定した.術後3週からは手関節,MP関節伸展制限下でPIP,DIP関節自動運動を行わせた.術後6週で伸展制限を解除し,手指屈筋腱の近位,遠位滑走距離を増やす運動を継続した.術後8週から徐々に生活で患指の使用を許可した.評価は日本手外科学会腱損傷機能評価法を用いて行い,術後6か月以降は握力健側比,quick-DASH JSSH version(以下,Q-DASH)を追加して行った.
【結果】
術後8週経過時の%TAMは環指90%,小指92%でExcellent評価を獲得した.術後6か月で環指94%,小指100%で握力健側比86%,Q-DASH得点は0点で全て支障ない回答であった.術後1年6か月経過時に評価する機会があり,握力健側比99%となっており,生活,仕事とも支障ないとのことで長期成績も良好であった.
【考察】
手指屈筋腱の機能を再建する腱移植術は,一般的に移植腱をZone1-3部位に設置するshort graftまたはZone3-5部位に設置するbridge graftで対応される.short graftは末節骨に直接縫着させるため,pull out wire法か本症例のようにanchorが用いられる.そして,指腱鞘部位に腱移植されるため,bridge graft例と比較して,癒着が高度に発生しやすく術後の腱癒着,拘縮予防が格段に難しい.今回,この癒着予防に対して,早期運動療法を行う選択をするためにanchorに加えて移植腱を残存していたFDP腱に数度縫合して,強度を増やして対応した.運動方法は,2箇所の腱縫合部位の負荷を可能な限り考慮して手の筋腱の解剖学的な減張位を用いながら訓練を進めた.結果,良好な可動域を獲得でき,二次的な解離術などは必要なく,患者立脚型の評価も高かった.術後3週間までは頻回な訓練が必要だが,強固な腱縫合の工夫と本法は,short tendon graft例も好成績を獲得できる可能性があると考えた.今後は症例を積み重ねていく必要がある.
手指屈筋腱断裂修復術後の治療成績は,手外科医による強固な腱縫合法の開発にて,ハンドセラピストが腱滑走訓練を術後早期から開始できるようになり,多くの好成績が報告されている.しかし,陳旧例に対する屈筋腱移植術の治療報告は少なく,具体的なリハビリテーションを含めた治療法の研究を進める必要がある.今回,Zone1-3腱鞘部位にて腱移植術した例の早期運動療法を経験したので,その治療成果を報告する.
【対象】
症例は本報告に同意を得た40代の男性で右利き,調理人である.調理ナイフにて左環指,小指のDIP関節掌側を誤って切り,近位受診にて創部のみ縫合処置され,当院紹介となった.左環指,小指深指屈筋腱(FDP)断裂の診断にてすぐに腱縫合手術が検討されたが,仕事が多忙のため,治療は受けなかった.左環指,小指のDIP関節屈曲不能のまま,受傷から5か月後に再び当院受診し,再建手術を受けた.環指FDPは手根管遠位部まで,小指FDPはA1腱鞘部まで退縮し癒着していた.
【方法】
手術法はまず両側から長掌筋腱を採取し,環小指の各指腱鞘にそれぞれ通した.次に環小指の各末節骨にmicro anchorを挿入して移植腱を縫合し,さらに残存したFDP腱遠位断端に移植腱を挟み込むように数度縫合した.近位部はZone3にて移植腱をFDP腱の近位断端とやや高い緊張下で編み込み縫合した.術後翌日から早期運動療法を開始した.運動方法は1.手指他動屈曲位を保持する自動屈曲運動,2.浅指屈筋の収縮によるPIP関節屈曲運動,3.減張位でPIP,DIP関節ごとの他動伸展運動,4.MP関節屈曲位でのPIP,DIP関節自動伸展運動とした.1~4を各5回程度,午前と午後など間隔を空け2~3セット行い,可動域の維持を毎日確認した.運動時以外は,患指屈曲位で外固定した.術後3週からは手関節,MP関節伸展制限下でPIP,DIP関節自動運動を行わせた.術後6週で伸展制限を解除し,手指屈筋腱の近位,遠位滑走距離を増やす運動を継続した.術後8週から徐々に生活で患指の使用を許可した.評価は日本手外科学会腱損傷機能評価法を用いて行い,術後6か月以降は握力健側比,quick-DASH JSSH version(以下,Q-DASH)を追加して行った.
【結果】
術後8週経過時の%TAMは環指90%,小指92%でExcellent評価を獲得した.術後6か月で環指94%,小指100%で握力健側比86%,Q-DASH得点は0点で全て支障ない回答であった.術後1年6か月経過時に評価する機会があり,握力健側比99%となっており,生活,仕事とも支障ないとのことで長期成績も良好であった.
【考察】
手指屈筋腱の機能を再建する腱移植術は,一般的に移植腱をZone1-3部位に設置するshort graftまたはZone3-5部位に設置するbridge graftで対応される.short graftは末節骨に直接縫着させるため,pull out wire法か本症例のようにanchorが用いられる.そして,指腱鞘部位に腱移植されるため,bridge graft例と比較して,癒着が高度に発生しやすく術後の腱癒着,拘縮予防が格段に難しい.今回,この癒着予防に対して,早期運動療法を行う選択をするためにanchorに加えて移植腱を残存していたFDP腱に数度縫合して,強度を増やして対応した.運動方法は,2箇所の腱縫合部位の負荷を可能な限り考慮して手の筋腱の解剖学的な減張位を用いながら訓練を進めた.結果,良好な可動域を獲得でき,二次的な解離術などは必要なく,患者立脚型の評価も高かった.術後3週間までは頻回な訓練が必要だが,強固な腱縫合の工夫と本法は,short tendon graft例も好成績を獲得できる可能性があると考えた.今後は症例を積み重ねていく必要がある.