第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

運動器疾患

[OD-5] 一般演題:運動器疾患 5 

2024年11月10日(日) 09:40 〜 10:40 D会場 (小ホール)

座長:佐々木 秀一(北里大学病院 リハビリテーション部)

[OD-5-3] 作業療法士が熱可塑性プラスチックを用いて作製する簡易装具に関する実態調査

石井 誠二, 三木 聖子, 神田 智明 (社会医療法人財団大樹会 総合病院回生病院 リハビリテーション部)

【はじめに】
 作業療法士(以下,OT)が熱可塑性プラスチックを用いて作製する簡易装具(以下,スプリント)の臨床的意義や有効性に関しては,多くの先行研究によって支持され,手外科診療を行う上で必要不可欠なツールとしてのコンセンサスが得られている.本研究の目的は,当院における上肢装具療法の実態調査を通して,これまでに独自で行なってきた装具療法に関する診療記録を後方視的に調査することにより,一般の医療機関においてOTが作製するスプリントの活用方法や臨床実践の実際を明らかにすることにある.
【対象及び方法】
 対象は,研究代表者が所属するリハビリテーション部にスプリント作製目的で紹介された入院及び外来患者のうち,2004年1月~2023年12月までの20年間に作製したスプリント総数5,000件である.調査項目は,①対象者の基本属性,②手術の有無,③使用目的,④スプリントデザイン,⑤OTによる治療介入の有無,⑥作製に至った経緯,以上6項目について電子カルテシステムに保存されたデータから後方視的に実態調査を実施した.得られたデータの分析方法として,まず手術の有無により保存療法群と手術療法群とに分け,スプリントデザインと作製までに要した術後日数との関連性について群間比較を実施した.次に,OTによる介入の有無により介入群と非介入群とに分け,使用目的と作製経緯との関連性について群間比較を実施した.カテゴリカル変数の比較にはχ2検定(もしくはFisherの正確確率検定)を使用し,有意な関連が認められた場合は連関係数を算出した.統計解析にはR(ver.2.8.1)を使用し,有意水準は5%とした.なお,本研究は当院倫理審査委員会の承認を得た上で,研究計画及び実施を図った.
【結果】
 ①患者総数は合計4,379例(男性2,212例,女性2,167例)であり,平均年齢は48.4±25.4歳であった.②手術の有無による内訳は,保存療法群2,922例(66.7%),手術療法群1,457例(33.3%)であった.③使用目的は対馬の分類を用い,固定・支持目的3,361件(67.2%),保護・予防目的1,060件(21.2%),矯正目的353件(7.1%),代償目的125件(2.5%),訓練目的96件(1.9%),模擬目的5件(0.1%)であった.④スプリントデザインの比率は,Static splintが4,604件(92.1%),Dynamic splintが181件(3.6%),Static progressive splintが215件(4.3%)であった.⑤介入率は35.4%であった.⑥医師からOTへ作製依頼があったものは4,366件(87.3%)であり,OTから医師への相談を経て作製に至ったものは634件(12.7%)であった.得られたデ—タの分析として,手術療法群におけるスプリントデザインと作製までに要した術後日数との関連性を求めた結果,術後30日以内の作製件数はStatic splintが最も多く,それ以降の日数においても群間に有意差を認めたが,効果量は術後30日以内が最も高かった(p<0.001,φ=0.483).また,OTによる介入の有無における作製経緯と使用目的との関連性を求めた結果,矯正目的(p<0.001,Cramer's V=0.667)と代償目的(p<0.001,Cramer's V=0.811)に有意差を認め,その他の使用目的と比べて高い効果量を示した.
【考察】
 本研究結果から,我々OTに求められる装具療法の臨床実践能力は患部の安静固定だけはでなく,訓練場面や生活場面を通して問題点を拾い上げ,対象者の希望に基づいて症状や治療時期に応じたスプリントを可能な限り速やかに提供するとともに,関節拘縮の原因や拘縮角度,瘢痕の成熟段階に合わせて生体力学的分析に基づく適切な矯正用スプリントを選択し,作製することができる技術が必要であることが明らかになった.