第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

神経難病

[OE-1] 一般演題:神経難病 1

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 H会場 (207)

座長:毛利 友美(永寿総合病院 )

[OE-1-1] ADL全介助となった重症ギランバレー症候群の急性期における主体的作業活動の獲得とその意義

戸崎 江理, 中西 理佐子, 牧田 優佳, 菅原 寿姫, 吉田 知也 (横浜南共済病院 リハビリテーション科)

【はじめに】
ギランバレー症候群(以下GBS)は一般的に予後良好とされているが,呼吸筋障害をきたす例や発症から6ヶ月経過しても歩行障害が残存する例も存在する.今回,人工呼吸器装着に至り,重篤な上下肢筋力低下を呈した重症GBS患者を担当した.ADL全介助の中で残存機能と代償手段の導入によりスマホ操作の獲得に至り,その主体的作業活動を契機に動作の獲得に前向きになった事例を報告する.なお,今回の報告にあたり症例の同意は頂いている.
【症例紹介および治療経過】
50歳代男性,X年Y月Z-9日下痢となり,Z-1日,上肢の脱力感,右下肢の疼痛を自覚.Z日,前医を受診.四肢末端のしびれと両側握力低下あり,経過からGBSが疑われ,当院脳神経内科紹介受診された.入院時に軸索障害,髄液検査でのタンパク細胞解離認め,GBSの診断となった.Z+1日OT開始.Z+2より血漿交換療法(全7回)開始.Z+21日よりステロイドパルス療法開始.Z+22日人工呼吸器管理となった.Z+23日よりガンマグロブリン療法が施行された.Z+26日抜管され,気管切開となった.Z+52日で回復期リハビリテーション病院へ転院となった.
【作業療法経過と介入方法】
本症例は入院後に症状の増悪と急性期治療のため,50日間の入院期間のうち,前半の30日間はほぼベッド上での作業療法介入であり,この期間は,A D L全介助の状況であった.ご本人にhopeを確認するも,この時点では聴取は出来なかった.人工呼吸器抜管後より離床を進め,車椅子乗車が可能となった際の上肢機能は,右上肢近位筋MMT2から3で,重力の除去下で肘の屈伸を利用し半径15㎝程度のリーチが可能であった.手関節背屈MMT3も保持する持続性なく,手指伸展はMMT2で伸展位保持困難であった.この状態で取り組める主体性のある作業活動を模索した.ご本人からは気管切開後,発声機能を喪失しており,コミュニケーションの困難さに対してストレスを感じていることを聴取し,スマホのLINEを使用して家族や友人との連絡手段の獲得を目指すこととした.スマホ操作にあたり,まず車椅子座位時にカットアウトテーブルをセッティングすることで肘を支点としたリーチ動作が行えるようにした.次に,手指を操作しやすい手関節の肢位を代償的に固定する目的でカックアップスプリントを作製し,スマホにタッチする手指の伸展位を保持するために示指に対し8の字のリングスプリントを作製した.練習を重ね,約2週間で2文程度の文章の作成が可能となった.筋力の改善や耐久性の改善に合わせ,スマホ操作の時間や場所などの環境の条件を拡大するために,ベッドサイドでのスマホ操作や,ポータブルスプリングバランサーを利用したパソコン操作など徐々に動作の拡大を図っていった.回復期リハ病院へ転院する前には,次はパソコンが打てるようになりたいなどご本人から前向きな発言が聞かれるようになった.
【考察】
今回,症例の残存機能を最大限利用し,代償手段も用いながらスマホ操作の獲得が可能となった.入院後,機能低下が増悪し,A D L全介助に至り,機能的にも,精神的にも,自分がやりたいことを明確に表出することも困難な状況の中で,代償手段も含めて残存機能を最大限に生かし,ご本人の主体的な作業活動を一つでも増やすことができたことは,回復期リハビリテーションに繋ぐ急性期病院の役割として意義のある介入ができたと考える.A D L全介助でできることがほとんどない状況の中で,自身の力でできた体験は自信となり,継続的なリハビリテーションに効果的に繋ぐことができたのではないかと考えた.