第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

神経難病

[OE-1] 一般演題:神経難病 1

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 H会場 (207)

座長:毛利 友美(永寿総合病院 )

[OE-1-4] 視神経脊髄炎により有痛性強直性痙攣を呈したが動作指導・環境調整により自宅復帰が可能となった症例

亀田 あゆみ, 武田 優, 宮田 友誉, 高橋 尚暉, 古澤 啓一 (近畿大学病院 リハビリテーション部)

【はじめに】視神経脊髄炎は,重度の視神経炎と横断性脊髄炎を特徴とする.本邦の有病率は3.42人/10万人と稀有であり,効果的なリハビリテーション方法は確立されていない.また,有痛性強直性痙攣(painful tonic spasm;PTS)は脱髄性脊髄疾患でみられ,脱髄下脊髄内の神経線維間での興奮の異常伝搬によって生じると考えられており,放散痛を伴う筋痙攣発作を呈する.
今回,視神経脊髄炎と診断されPTSを有していたが動作指導や環境調整によりPTSの誘発を防ぎADL/IADL自立し自宅退院となった症例を経験したため報告する.
【症例紹介】30歳代女性,診断名:視神経脊髄炎.入院前ADL:自立.現病歴:X年Y月Z日より熱発・腹痛・背部痛を生じ,Z+4日には酩酊様歩行,ふらつき,易転倒性,構音障害が出現.Z+6日に他院入院,Z+7日より失語症状の悪化,精神症状の出現を認め精査・加療目的にZ+11日に当院転院となった.画像所見:MRIにて左中小脳脚〜小脳歯状核周囲,両側大脳半球皮質下白質,左内包,Th2〜8にかけて高信号域を認めた.尚,発表は対象者に同意を得ている.
【初期評価】意識レベル:JCS-3.運動麻痺Brunnstrom Recovery stage(BRS):右Ⅲ/Ⅱ/Ⅳ,左Ⅳ/Ⅳ/Ⅴ.筋力:右上下肢GMT2-3,左上下肢GMT4-5.右側優位の運動麻痺を認めた.SARA:34点,失調を顕著に認めた.高次脳機能障害では,左右失認,身体失認,運動性失語を認めた.FIM:20点(運動項目13点,認知項目7点),ADL全介助レベルであった.
【入院経過】作業療法はZ+18日より介入.Z+11日~28日にメチルプレドニゾロンパルスを計3クール実施.Z+32日より血漿交換療法を計9回施行され, 血漿交換療法7回目のZ+50日頃にはBRS右Ⅳ/Ⅳ/Ⅴ,左Ⅳ/Ⅳ/Ⅴ,筋力は右上下肢GMT4,左上下肢GMT5,SARA18点と身体機能は改善を認めた.高次脳機能障害も改善し生活への影響は認めず,車いすにてADL自立まで改善を認めた.しかし,動作開始時や歩行,立位時等にPTSが出現した.疼痛増強,立位バランス不安定となりADL拡大を阻害していた.
【介入内容】触覚刺激の低減,筋緊張調整によりPTSの緩和を認めたが残存.本症例においては歩行距離の延長などによる疲労感の増強や,家事動作などで頻回に用いられる下肢の屈伸運動の反復によってPTSの出現頻度の増加を認めた.そのためPTSを誘発しないよう,こまめな休憩の挿入による疲労感の増強の予防,また洗濯物を干す際には屈まずリーチができるよう洗濯かごの高さを上げる,掃除の際は柄を長くする,立位と屈む動作を区切ることにより下肢の屈伸運動の反復を増やさないよう動作指導を行った.
【最終評価】意識レベル:JCS-0. BRS上肢/手指/下肢は右Ⅴ/Ⅴ/Ⅴ,左Ⅴ/Ⅴ/Ⅴ.失調症状,SARA:6点.移動は押し車にて自立. FIM:119点(運動項目84点,認知項目35点).IADLは時間を要するが可能.lawtonの尺度:0/8→8/8点.同環境の掃除動作では指導前は約15分間で2度PTS出現したが,指導後はPTS出現なく遂行可能となった.Z+101日に自宅退院となった.
【考察】PTSは触覚刺激や急激な運動などで誘発されやすいとされているが,本症例では疲労や反復運動によっても誘発を認めた. 脱髄下脊髄内の神経線維間での興奮の異常伝搬がPTSの原因と考えられており,本症例では動作方法の工夫や環境調整によって疲労感の増強の予防,反復運動の軽減を行うことでPTSの誘発を防ぎADL・IADLの自立に繋がったと考える.