[OE-1-5] 簡便な実施基準を設け,段階的な離床とADL練習を実施した重症筋無力症クリーゼの1例
【はじめに】重症筋無力症(myasthenia gravis,以下MG)クリーゼは,呼吸不全のために人工呼吸器管理となる病態である.MGクリーゼにおいて,高強度のリハビリテーションはADL回復に寄与しない可能性があり(Otaka et al.2022),過負荷には注意が必要である.しかしながら,急性期の離床やADL練習において確立した実施基準やプロトコールはなく,臨床実践報告は少ない現状にある.本発表では,簡便な実施基準を設け段階的な離床とADL練習を実施した,MGクリーゼ症例を報告する.
【倫理的配慮】本発表に関して本人に説明し,書面にて同意を得た.
【症例紹介】MGクリーゼを呈した70歳代男性.病前のADLは独居にて自立していた.意識障害により救急搬送され,同日ICU入室し,第2病日より人工呼吸器管理を開始した.人工呼吸器は第12病日に離脱し,第15病日にICU退室となった.作業療法は第6病日より開始した.
【介入経過】開始時はICUにて人工呼吸器管理中で,筋力は頚部屈曲:1,MRCscore:36点,握力(右/左):10.3/9.9(kg)であり,Barthel Index(以下,BI)は0点,MG-ADLスケールは21点であった.第12病日に抜管となるまでの期間,活動負荷は最小限に止め,関節可動域運動や受動座位練習を中心に実施した.第13病日には酸素マスク5L投与にて呼吸状態は安定し,筋力は,頚部屈曲:3+,MRCscore:56点,握力:22.5/20.1(kg)で,MG-ADLスケールは17点であった.同日のICUカンファレンスにて離床が許可されたが,実施基準を設けた上で段階的な離床を進める方針とした.実施基準は,①運動機能評価として,ファーラー位にてⅰ)頭部を30秒持ち上げる,ⅱ)上肢挙上90°にて30秒保持,ⅲ)SLRを15秒保持,②主観的運動強度として,修正Borgスケールが開始時3以下,活動時5以下であること,③嚥下困難や呼吸困難などの自覚症状の増悪がないこと,として①②③の条件がクリアできれば離床プログラムを実施し,2日間は同一負荷にて進行することとした.離床プログラムは,第13病日に端坐位練習,第15病日に立位・移乗練習,第17病日に室内歩行練習,第19病日には病棟内歩行練習へと進行し,ADL練習は第15病日に食事動作とトイレ動作,第19病日に更衣練習を実施した.また,この期間の実施基準は全てクリアし,過負荷の所見は認めなかった.第20病日には病棟ADLが自立し,活動範囲を病棟内フリーへと拡大した.その後は,自宅退院に向け動作練習を継続したが,病識の低下や活動範囲が制限されるストレスにより帰宅欲求が高まり,早期退院を目指す方針となった.
【結果】退院前日には,room airにて呼吸状態は安定し,筋力は頚部屈曲:4,MRCscore:54点,握力:23.6/23.2(kg),MMSE-Jは18点,BIは100点,MG-ADLスケールは4点に改善した.易疲労性を認めこまめな休憩が必要であったため,第24病日に家事や買い物などのサポートが得られる家族宅へ退院した.
【考察】今回は短時間で実施できる簡便な指標を用いたため,介入時間が限られる日々の診療でも,離床やADL練習をステップアップしていく際の指標として導入が容易であった.過負荷に注意が必要なMGクリーゼ症例への介入時に,何らかの実施基準を用いることは重要であり,複数事例で本実施基準の妥当性を検証することが今後の課題である.
【倫理的配慮】本発表に関して本人に説明し,書面にて同意を得た.
【症例紹介】MGクリーゼを呈した70歳代男性.病前のADLは独居にて自立していた.意識障害により救急搬送され,同日ICU入室し,第2病日より人工呼吸器管理を開始した.人工呼吸器は第12病日に離脱し,第15病日にICU退室となった.作業療法は第6病日より開始した.
【介入経過】開始時はICUにて人工呼吸器管理中で,筋力は頚部屈曲:1,MRCscore:36点,握力(右/左):10.3/9.9(kg)であり,Barthel Index(以下,BI)は0点,MG-ADLスケールは21点であった.第12病日に抜管となるまでの期間,活動負荷は最小限に止め,関節可動域運動や受動座位練習を中心に実施した.第13病日には酸素マスク5L投与にて呼吸状態は安定し,筋力は,頚部屈曲:3+,MRCscore:56点,握力:22.5/20.1(kg)で,MG-ADLスケールは17点であった.同日のICUカンファレンスにて離床が許可されたが,実施基準を設けた上で段階的な離床を進める方針とした.実施基準は,①運動機能評価として,ファーラー位にてⅰ)頭部を30秒持ち上げる,ⅱ)上肢挙上90°にて30秒保持,ⅲ)SLRを15秒保持,②主観的運動強度として,修正Borgスケールが開始時3以下,活動時5以下であること,③嚥下困難や呼吸困難などの自覚症状の増悪がないこと,として①②③の条件がクリアできれば離床プログラムを実施し,2日間は同一負荷にて進行することとした.離床プログラムは,第13病日に端坐位練習,第15病日に立位・移乗練習,第17病日に室内歩行練習,第19病日には病棟内歩行練習へと進行し,ADL練習は第15病日に食事動作とトイレ動作,第19病日に更衣練習を実施した.また,この期間の実施基準は全てクリアし,過負荷の所見は認めなかった.第20病日には病棟ADLが自立し,活動範囲を病棟内フリーへと拡大した.その後は,自宅退院に向け動作練習を継続したが,病識の低下や活動範囲が制限されるストレスにより帰宅欲求が高まり,早期退院を目指す方針となった.
【結果】退院前日には,room airにて呼吸状態は安定し,筋力は頚部屈曲:4,MRCscore:54点,握力:23.6/23.2(kg),MMSE-Jは18点,BIは100点,MG-ADLスケールは4点に改善した.易疲労性を認めこまめな休憩が必要であったため,第24病日に家事や買い物などのサポートが得られる家族宅へ退院した.
【考察】今回は短時間で実施できる簡便な指標を用いたため,介入時間が限られる日々の診療でも,離床やADL練習をステップアップしていく際の指標として導入が容易であった.過負荷に注意が必要なMGクリーゼ症例への介入時に,何らかの実施基準を用いることは重要であり,複数事例で本実施基準の妥当性を検証することが今後の課題である.