[OE-2-1] パーキンソン病患者の歩行リズムに対する体性感覚キューの効果と運動機能障害との関連
【はじめに】
パーキンソン病(以下:PD)患者の転倒する要因として,歩行リズムの不安定さが指摘されている(新井,2011).また,リズミカルな感覚キューにより歩行リズムが安定し転倒リスクが減少することも報告されている(Rochester,2005).特に環境の影響を受けにくいという点から振動刺激を用いた体性感覚キューが提案され,歩行リズムの安定化に寄与することが指摘されている(Wegan,2006).しかし,臨床においてはどのような対象者で体性感覚キューの効果が得られ易いかといった適応という視点からの研究は少ない.そこで,本研究では体性感覚キューの効果に関連する運動機能について検証した.
【方法】
対象者は,本研究に同意した在宅生活を送るYahr分類ⅢのPD患者15名(73.1±6.0歳)とした.課題は半径1mの円の周囲を時計回りに2周歩行する円歩行とし,体性感覚キューを提示しないキューなし条件と提示するキューあり条件の2条件で実施した.キューはキューなし条件の歩調と同じリズムで対象者の手関節部に提示した.歩行中の動作はビデオカメラで撮影した.また,対象者の運動機能を評価するためMDS-UPDRS PartⅢ(以下:UPDRS)を実施した.分析では,円を半周歩いた後の1周分を分析範囲とし動画より一側下肢の接地~反対側下肢の接地までの時間であるステップ時間から歩行リズムの指標であるステップ時間の変動係数(以下:CV)を算出した.また,UPDRSの各項目は先行研究(Levy,2005)を参考に「振戦」「固縮」「無動」「軸症状」にカテゴリー分けし,UPDRSの総得点とカテゴリー別の点数を算出した.統計処理として,キューの影響を分析するためステップ時間のCVをWilcoxonの符号付順位検定を用いて条件間で比較した.加えて,キューによる影響の程度と運動機能障害との関連を分析するため,ステップ時間のCVのキューによる変化量とUPDRSの総得点および各カテゴリーの点数の間でSpearmanの順位相関係数を算出した.なお,変化量は「キューあり条件の値−キューなし条件の値」で算出し,負の値の場合にキューによりCVが減少したことを示している.有意水準は0.05とした.なお,本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号2-1-47).
【結果】
本研究で収集したPD患者のUPDRSの総得点は26.0(23.0-31.0)点であり,カテゴリー別では「振戦」は2.0(0.0-4.0)点,「固縮」は6.0(4.5-7.5)点,「無動」は13.0(9.5-15.5)点,「軸症状」は4.0(4.0-5.0)点であった.
次に,各条件におけるステップ時間のCVは,キューなし条件で0.082(0.067-0.097),キューあり条件で0.055(0.049-0.068)であり,キューあり条件で有意にステップ時間のCVが減少した(p<0.001).UPDRSとステップ時間のCVの変化量との間でSpearmanの順位相関係数を算出した結果,「軸症状」のみ有意な負の相関を認めた(r=-0.583,p<0.05).
【考察】
本研究の結果より,収集したPD患者は中等度の運動機能障害を呈し,体性感覚キューにより歩行リズムが安定した.この結果は聴覚キューを用いたChenらの報告と同様であり,体性感覚キューが歩行リズムの安定化に寄与することが示された.また,UPDRSの「軸症状」の点数が高い者ほどCVが減少する傾向を認めた.「軸症状」は立位姿勢の安定性や立ち上がり,歩行などの静的および動的な姿勢制御能力を評価するカテゴリーであり,姿勢制御能力が低下しているPD患者ほど体性感覚キューにより歩行リズムが安定する可能性が示唆された.
パーキンソン病(以下:PD)患者の転倒する要因として,歩行リズムの不安定さが指摘されている(新井,2011).また,リズミカルな感覚キューにより歩行リズムが安定し転倒リスクが減少することも報告されている(Rochester,2005).特に環境の影響を受けにくいという点から振動刺激を用いた体性感覚キューが提案され,歩行リズムの安定化に寄与することが指摘されている(Wegan,2006).しかし,臨床においてはどのような対象者で体性感覚キューの効果が得られ易いかといった適応という視点からの研究は少ない.そこで,本研究では体性感覚キューの効果に関連する運動機能について検証した.
【方法】
対象者は,本研究に同意した在宅生活を送るYahr分類ⅢのPD患者15名(73.1±6.0歳)とした.課題は半径1mの円の周囲を時計回りに2周歩行する円歩行とし,体性感覚キューを提示しないキューなし条件と提示するキューあり条件の2条件で実施した.キューはキューなし条件の歩調と同じリズムで対象者の手関節部に提示した.歩行中の動作はビデオカメラで撮影した.また,対象者の運動機能を評価するためMDS-UPDRS PartⅢ(以下:UPDRS)を実施した.分析では,円を半周歩いた後の1周分を分析範囲とし動画より一側下肢の接地~反対側下肢の接地までの時間であるステップ時間から歩行リズムの指標であるステップ時間の変動係数(以下:CV)を算出した.また,UPDRSの各項目は先行研究(Levy,2005)を参考に「振戦」「固縮」「無動」「軸症状」にカテゴリー分けし,UPDRSの総得点とカテゴリー別の点数を算出した.統計処理として,キューの影響を分析するためステップ時間のCVをWilcoxonの符号付順位検定を用いて条件間で比較した.加えて,キューによる影響の程度と運動機能障害との関連を分析するため,ステップ時間のCVのキューによる変化量とUPDRSの総得点および各カテゴリーの点数の間でSpearmanの順位相関係数を算出した.なお,変化量は「キューあり条件の値−キューなし条件の値」で算出し,負の値の場合にキューによりCVが減少したことを示している.有意水準は0.05とした.なお,本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号2-1-47).
【結果】
本研究で収集したPD患者のUPDRSの総得点は26.0(23.0-31.0)点であり,カテゴリー別では「振戦」は2.0(0.0-4.0)点,「固縮」は6.0(4.5-7.5)点,「無動」は13.0(9.5-15.5)点,「軸症状」は4.0(4.0-5.0)点であった.
次に,各条件におけるステップ時間のCVは,キューなし条件で0.082(0.067-0.097),キューあり条件で0.055(0.049-0.068)であり,キューあり条件で有意にステップ時間のCVが減少した(p<0.001).UPDRSとステップ時間のCVの変化量との間でSpearmanの順位相関係数を算出した結果,「軸症状」のみ有意な負の相関を認めた(r=-0.583,p<0.05).
【考察】
本研究の結果より,収集したPD患者は中等度の運動機能障害を呈し,体性感覚キューにより歩行リズムが安定した.この結果は聴覚キューを用いたChenらの報告と同様であり,体性感覚キューが歩行リズムの安定化に寄与することが示された.また,UPDRSの「軸症状」の点数が高い者ほどCVが減少する傾向を認めた.「軸症状」は立位姿勢の安定性や立ち上がり,歩行などの静的および動的な姿勢制御能力を評価するカテゴリーであり,姿勢制御能力が低下しているPD患者ほど体性感覚キューにより歩行リズムが安定する可能性が示唆された.