第58回日本作業療法学会

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一般演題

神経難病

[OE-2] 一般演題:神経難病 2 

Sun. Nov 10, 2024 8:30 AM - 9:30 AM G会場 (206)

座長:佐野 哲也(聖隷クリストファー大学 )

[OE-2-2] パーキンソン病患者に対してVirtual Realityを活用した作業療法の事例報告

李 潤庸1, 阿瀬 寛幸1, 高倉 朋和1, 和田 太2, 藤原 俊之3 (1.順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター リハビリテーション科, 2.順天堂大学 保健医療学部理学療法学科, 3.順天堂大学大学院 医学研究科リハビリテーション医学)

【はじめに】Virtual Reality(以下VR)を活用したリハビリテーション治療は視覚・聴覚によるフィードバックを促すことができ,リハビリテーション手段の一つとして活用が期待されている.今回パーキンソン病(PD)により,左上肢の使いにくさを訴える事例を担当した.生活行為や上肢機能を評価とともに,VRを使用した上肢操作練習を実施し,活動・参加を考慮した支援を行った.結果,上肢機能評価の改善を認め,生活行為評価の遂行度・満足度向上を認めたため,考察を加え報告する.本報告に際しご本人から了承を得て,倫理的指針に従い,個人の特定がされないよう最大限配慮した.
【事例紹介】60代男性,14年前にPD発症.利き手は右手.X年Y月Z日に入院され,Z+2日に作業療法・理学療法が処方された.今回入院中,PDに対する薬剤調整は行われなかった.
【作業療法評価と経過】入院時評価はHoehn-Yahrの重症度分類Ⅲ,MDS-UPDRS part Ⅲ 33/108点,Mini Mental State Examination 26/30 点,Barthel Index 80/100点,Frontal Assessment Battery 14/18点,左上肢のパーキンソニズムにより,生活行為場面では日頃から左上肢の使いにくさを訴えていた.Canadian Occupational Performance Measure(COPM)で作業活動を抽出し,インタビューから活動制限の要因に焦点を当て問題点を検討した.対象物品の把握やつまみ動作の際に力が入りにくく,安定した操作が困難であると聴取された.そこで,作業療法時間内にVR機器を使用し,左手の使用を反復的に練習した.VR機器はSmart Glove®(韓国 RAPAEL社)を使用した.本人の興味があり,継続しやすいVR機器課題を選定した.VR使用時は,課題の視覚・聴覚的なフィードバックに加え,最大努力による随意収縮を促し,速い運動を行えるよう,適宜療法士が声掛けを行った.並行して日常生活動作の実践練習も行い,実動作において左上肢の活動機会を増やし,成功体験を積めるよう支援した.握力(右/左)は入院時34.7/33.9㎏fから退院時32.0/36.0㎏f,Box and Block Test(右/左)は入院時64/53個から退院時66/67個,Jebsen-Taylor Hand Function Test(右/左)は入院時30.5/48.3秒から退院時33.9/41.0秒とそれぞれ改善を認めた. 左上肢機能の主観的アウトカムはGlobal Rating of Change Scaleで評価し,2(少し良くなり生活上意義がある)であった.COPM(重要度/遂行度/満足度)は「お茶碗を支えること」(入院時10/6/5→退院時10/8/8),「靴下を履くこと」(入院時10/5/6→退院時10/9/9),「ボタンをつけること」(入院時6/7/8→退院時6/10/10)であった. Z+46日で退院となった.
【考察】岩井(2021)は,PD患者は症状による動作の大きさ(幅)が低下し,その動作の狭小化を認識できず,動作を大きく修正できないと述べている.本事例はパーキンソニズムによる運動減少,左上肢巧緻性低下を認めており,動作の自己校正が困難と考えられた.また,岡本(2014)は,PD病患者において外部刺激に誘発される運動は障害されないと述べている. VR訓練は視覚・聴覚刺激が多く,療法士の声掛けを加えることで,最大努力による随意収縮や速い運動を促すことが可能であった.VR訓練で左上肢の使用機会が増え,運動出力の改善が見られた後に,日常生活内での使用を支援するため,反復的に実践練習を加え行なったことが,生活動作の改善に至った一つの要因と考えられた.以上より,本事例に対してVRを活用した作業療法支援は,左上肢の運動出力改善により上肢機能を改善させるきっかけとなり,生活行為場面での実践練習を実施することでCOPMやGRCの満足度の向上に至ったと考えられた.