第58回日本作業療法学会

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一般演題

神経難病

[OE-2] 一般演題:神経難病 2 

Sun. Nov 10, 2024 8:30 AM - 9:30 AM G会場 (206)

座長:佐野 哲也(聖隷クリストファー大学 )

[OE-2-3] パーキンソン病患者の食事環境調整による生活の質の向上

~短期集中リハビリ入院の一症例を通して~

鈴木 康子, 菅原 由貴子, 土佐 圭子 (埼玉県総合リハビリテーションセンター 作業療法科)

【はじめに】当センターでは,約10年前からパーキンソン病(以下PD)患者に対し,約1ヶ月の短期集中リハビリ入院を実施している.進行性疾患であるPDの身体・認知機能のブラッシュアップを図るため,集中的にリハビリテーションを提供している.今回,入院を利用した姿勢反射障害と姿勢異常を呈する患者に対し,入院から在宅までを見据えて,環境調整や姿勢の改善に関わることで,食事動作がスムーズになり,介助量の軽減が図られ,症例と家族の生活の質の向上が図れたので報告する.
【症例】70代 女性 夫との二人暮らし X年動作緩慢でPDを発症し,X+4年歩行障害,X+11年から日内変動あり,X+16年DBS施行,X+20年当センターに1回目の短期集中リハビリ入院を行い,X+23年2回目の入院となった.尚,症例から同意を得,当センターの倫理委員会承認済.
【初期評価】Yahr分類Ⅲ,UPDRS:49/132点,関節可動域はほぼ問題なし.STEF 96/88点,握力16.0/14.0㎏,身体機能は筋力と耐久性が低下.マット評価では,座幅38㎝,座底長44㎝,座位下腿長35㎝であった.Hoffer座位能力分類(JSSC版)Ⅰ,端坐位では,骨盤後傾,左右の傾き・回旋が見られた.MoCA-Jは28/30点.ADLはBathel Index 50点,食事は,車椅子でオーバーテーブルを使用,食形態は一口大,飲料は薄トロミ,食具は箸にて約20分で8割程度の摂取,毎回ムセ・食べこぼしあり.良姿勢を保持できず,すぐに右側へ崩れるため,姿勢修正の介助が必要.症例は姿勢の崩れにより飲み込みにくさを感じていた.自宅では,症例は左側の手すりにベルトで体を固定し,夫が右側に座り傾く度に姿勢修正を介助していた.夫は介助に負担感があり,症例は度重なる姿勢修正に対し不快感があった.
【経過】1)病院:食事姿勢を評価し,テーブルの高さや椅子の調整を行った.テーブルは,前腕支持を利用した姿勢保持のためカットアウトに変更した.車椅子から肘掛付き椅子へ変更し,ピタットチェアfit®とピタットクッション®(株オフィス・ラボ)を併用した.座幅38㎝,座奥行き43㎝,足底が床につくように足台を使用した.調整とともに,身体機能改善へのアプローチを行った.2)自宅:食事環境確認のため,写真とテーブル・椅子の採寸を依頼した.症例は,夫と一緒のダイニングテーブルでの食事を希望し,右側へのジャンボレスト®(株テクノツール)の設置を提案した.自宅の椅子を持ち込んでいただき,両側面にクッションを取付け座幅38.5㎝に調整し足台を使用した.
【結果】身体機能・寸法に合わせた椅子と足台,テーブルを提供することで体幹の右への傾きを抑制し,食事姿勢が安定した.食事中の姿勢修正の回数や食べこぼし・ムセがほぼ無くなり,摂食量は9割に増加した.退院後は,調整した椅子と足台,テーブル環境で食事をとり,姿勢修正の介助が減少し,夫自身の食事の中断が減少したと報告があった.
【考察】本症例は,食事は自立であったが,食事姿勢の崩れの修正などの介助が必要であり,夫の負担感と症例の不快感が聞かれた.食事に焦点を絞り,安定した姿勢,介助量の軽減を図るため,椅子の調整と足台,テーブルのなどの環境調整を行うことで,食事を一緒に楽しむ行為に変えることができた.短期集中リハビリ入院では,PDは歩行能力をはじめとした身体機能改善への希望が多く聞かれる.身体機能改善と並行して環境調整を行うことが改めて有効であることが示唆された.長い介護生活を支えていくためには些細な点を見落とさないように,動作自立度のみならず生活の質的向上の視点をもって介入して行きたい.