第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

神経難病

[OE-2] 一般演題:神経難病 2 

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 G会場 (206)

座長:佐野 哲也(聖隷クリストファー大学 )

[OE-2-4] 回復期病棟にて,退院後の生活を可視化したことで排泄の介助量が軽減したパーキンソン病患者の事例

米沢 夢野, 上野 繕広 (医療法人社団永生会 永生病院 リハビリテーション部)

【はじめに】
 本事例はパーキンソン病(以下,PD)により毎日失禁-失敗があり,介助量が多いため自宅退院が困難であった.また尿意切迫感があったため,トイレの介助に依存的であった.今回,失禁に対する自己認識の向上と介助量軽減を目的に介入した.その結果,日中の失禁-失敗が減り,介助量が減少したことで自宅退院が可能となったため以下に報告する.なお,事例報告の趣旨を説明し事例と家族から書面にて同意を得ている.
【事例紹介】
 第2腰椎破裂骨折で回復期リハ病棟に入院した80歳代の女性.1年ほど前から身体機能の低下があり,転倒後に他院でPDと診断された.診断5日後に体動困難となり入院となった.入院後にHoehn‐Yahr StageⅣと診断された.介入初期,腰背部痛はなく,病棟生活はコルセット着用にて歩行器歩行見守りであった.排尿はトイレで行なっていたが,切迫性尿失禁も多く,尿吸収パッドの交換は全介助であった.事例は「家に帰ればなんとかなるからやってよ」と介助に依存的であった.FIMは68/126点(運動43点-認知25点),HDS-R:25/30点だったが日内変動あり,リスクやADL設定を守れないこともあった.認知症の夫と2人暮らしであり,入院前は主介護者として夫の介護をしていた.娘は近隣に在住しているが,同居や毎日の介助は困難であった.HOPE(事例-家族)は自宅退院であった.
【介入経過】
 日中の尿失禁について,介入初期は食事前後の誘導から行なった.誘導以外は失禁が多いため,排泄チェック表を基に失禁しやすい時間をスタッフと協力し誘導した.尿意を感じなくても時間でトイレに行けば排尿があることを事例と共有した.失禁しやすい時間を確認すると「忘れちゃうから書いといて」と意識できるようになったため,床頭台に時間を掲示した.「この時間に行くように言われた」と始めは受け身だったが徐々に定着していった.
 夜間は失禁だったため尿吸収パッドの交換訓練を提案した.しかし,「濡れると悪いから,パッドを交換してほしい」とシーツの汚染を気にされ,退院後の在宅では行えない介助を依頼することもあった.そこで,娘と退院後の生活について話した内容を事例とも共有した.1日分と1週間分の生活スケジュールを紙に書きだし,尿吸収パッドの交換訓練の必要性を説明した.その後は「トイレ」と自ら朝方に行き尿吸収パッドの交換を行なうようになった.また「もう少し遅い時間につけたい」と自ら提案するようになった.
【結果】
 2か月後,尿意の有無に関わらず自分で時間を見て,トイレへ行くことが習慣化し失禁は減少した.失禁後の交換は日中見守り-夜間は軽介助にて可能となった.「なかなか難しいわね,これから一人でやらなくちゃいけないのにできるかしら」と不安感は口にされたが,介助を依頼することは少なくなった.コルセットは外れ,FIMは84/126点(運動60点-認知24点)となった.娘とケアマネジャーへPDの疾患特性と再転倒のリスク,環境調整の情報を提供し,自宅退院となった.
【考察】
 本事例は介助に依存的で受け身な発言が多く聞かれた.多職種と繰り返し誘導したことが,事例の身体感覚を伴った経験として重なり,成功体験として尿意がなくてもトイレに行くことが学習された.また退院後の生活を具体的に示したことで,排泄動作が1人で行わなければならない重要な意味のある行為となった.その結果,自己効力感が向上し,事例が主体的に行えるようになったため,動作の定着と介助量が軽減した.