[OF-1-1] 消化管がんサバイバーの化学療法後認知機能障害に関する前向き縦断研究
<背景>
がん関連認知機能障害(cancer-related cognitive impairment: CRCI)は,がんサバイバーシップケアにおける問題の一つである.化学療法による認知機能障害はケモブレインとして注目されているが,CRCIは治療前の約30%にも起こることが報告されている(Janelsins et al. 2011).疾患別では乳がんサバイバーの報告が大半を占めており,血液がんや消化管がんなど他の疾患に関する報告が少ない.さらに,CRCIのリスク要因は多様であり,その評価方法のコンセンサスは未だ得られていない.そこで本研究では,消化管がんサバイバーの化学療法前後での認知機能変化を,健常対照者と比較して前向きかつ縦断的に評価し, CRCIの実態を明らかにすることを目的とした.なお,本研究は本学疫学倫理審査委員会の承認を得て実施した.
<方法>
単施設での消化管がん(大腸がん,胃がん,食道がん)の診断を受けた化学療法治療予定の外来患者(がん化学療法群)24例とがん疾患および中枢神経疾患の既往がない健常ボランティア(健常対照群)24例の計48例を研究対象として募集した.ベースラインの基本属性(年齢,性別,教育歴など)を調査し,認知機能スクリーニングとしてMMSE,予測IQとしてJapanese Adult Reading Test(JART)を用いて評価した.さらに,がん関連疲労感や疼痛,睡眠障害,貧血症状など併発症状の有無を事前に調査した.認知機能評価項目は,自記式質問紙のFunctional Assessment of Cancer Therapy - Cognitive Function (FACT-Cog) ver.3,神経心理学的評価にはTrail Making Test(TMT),Rey Auditory Verbal Learning Test (AVLT),Verbal Fluency Test(VFT)を用い,年齢別の標準値(Z-score)に変換した.評価時期は化学療法治療前と治療後6ヶ月とした.統計学的解析による群間比較では,連続変数には対応のないt検定またはWilcoxon sign rank test,カテゴリカル変数にはカイ二乗検定を用いた.有意水準は5%未満とした.
<結果>
脱落例を除き,最終的に38例を解析対象とした.がん化学療法群19例(年齢中央値74歳 [IQR:67-77];男性11例 [57.9%];教育歴中央値12年)と健常対象群19例 (年齢中央値74歳 [49-80];男性11例 [57.9%];教育歴中央値12年)であった.MMSEの中央値が30点[29-30]と30点[28-30]であり,JARTの予測IQが101点[91-109]と103点[96-111]であった.がん化学療法群の対象疾患には,大腸がん5例,胃がん5例,食道がん9例が含まれた.ベースライン比較では,基本属性や各認知機能評価において統計学的有意差は認められなかった.各認知機能評価項目において化学療法前後での変化量を比較した結果,主観的評価のFACT-CogのCogPCI(p=0.37)とCog PCA(p=0.75),客観的評価のTMT-A(p=0.91), TMT-B(p=0.99), AVLT総数(p=0.24),VFT総数(p=0.66)に有意差が認められなかったが,AVLT遅延再生(p<0.01)のみ有意差が認められた.
<結語>
消化管がんサバイバーにおける化学療法前後の認知機能変化を健常対照者と比較した結果,化学療法前の認知機能には差がなかった.6ヶ月後の検査では主観的な認知的愁訴に差がなく,客観的な認知パフォーマンスでは言語記憶の遅延再生が低下していた.本邦からのCRCIの実態調査は少ないため,更なる疾患別のデータ集積が必要である.今後はがんサバイバーシップケアにおける認知機能面での作業療法士の参画が求められると考える.
がん関連認知機能障害(cancer-related cognitive impairment: CRCI)は,がんサバイバーシップケアにおける問題の一つである.化学療法による認知機能障害はケモブレインとして注目されているが,CRCIは治療前の約30%にも起こることが報告されている(Janelsins et al. 2011).疾患別では乳がんサバイバーの報告が大半を占めており,血液がんや消化管がんなど他の疾患に関する報告が少ない.さらに,CRCIのリスク要因は多様であり,その評価方法のコンセンサスは未だ得られていない.そこで本研究では,消化管がんサバイバーの化学療法前後での認知機能変化を,健常対照者と比較して前向きかつ縦断的に評価し, CRCIの実態を明らかにすることを目的とした.なお,本研究は本学疫学倫理審査委員会の承認を得て実施した.
<方法>
単施設での消化管がん(大腸がん,胃がん,食道がん)の診断を受けた化学療法治療予定の外来患者(がん化学療法群)24例とがん疾患および中枢神経疾患の既往がない健常ボランティア(健常対照群)24例の計48例を研究対象として募集した.ベースラインの基本属性(年齢,性別,教育歴など)を調査し,認知機能スクリーニングとしてMMSE,予測IQとしてJapanese Adult Reading Test(JART)を用いて評価した.さらに,がん関連疲労感や疼痛,睡眠障害,貧血症状など併発症状の有無を事前に調査した.認知機能評価項目は,自記式質問紙のFunctional Assessment of Cancer Therapy - Cognitive Function (FACT-Cog) ver.3,神経心理学的評価にはTrail Making Test(TMT),Rey Auditory Verbal Learning Test (AVLT),Verbal Fluency Test(VFT)を用い,年齢別の標準値(Z-score)に変換した.評価時期は化学療法治療前と治療後6ヶ月とした.統計学的解析による群間比較では,連続変数には対応のないt検定またはWilcoxon sign rank test,カテゴリカル変数にはカイ二乗検定を用いた.有意水準は5%未満とした.
<結果>
脱落例を除き,最終的に38例を解析対象とした.がん化学療法群19例(年齢中央値74歳 [IQR:67-77];男性11例 [57.9%];教育歴中央値12年)と健常対象群19例 (年齢中央値74歳 [49-80];男性11例 [57.9%];教育歴中央値12年)であった.MMSEの中央値が30点[29-30]と30点[28-30]であり,JARTの予測IQが101点[91-109]と103点[96-111]であった.がん化学療法群の対象疾患には,大腸がん5例,胃がん5例,食道がん9例が含まれた.ベースライン比較では,基本属性や各認知機能評価において統計学的有意差は認められなかった.各認知機能評価項目において化学療法前後での変化量を比較した結果,主観的評価のFACT-CogのCogPCI(p=0.37)とCog PCA(p=0.75),客観的評価のTMT-A(p=0.91), TMT-B(p=0.99), AVLT総数(p=0.24),VFT総数(p=0.66)に有意差が認められなかったが,AVLT遅延再生(p<0.01)のみ有意差が認められた.
<結語>
消化管がんサバイバーにおける化学療法前後の認知機能変化を健常対照者と比較した結果,化学療法前の認知機能には差がなかった.6ヶ月後の検査では主観的な認知的愁訴に差がなく,客観的な認知パフォーマンスでは言語記憶の遅延再生が低下していた.本邦からのCRCIの実態調査は少ないため,更なる疾患別のデータ集積が必要である.今後はがんサバイバーシップケアにおける認知機能面での作業療法士の参画が求められると考える.