[OF-1-2] 手術後の高齢大腸がん患者の作業における自己認識の変化
~人間作業モデルの視点から~
【序論】大腸がん手術患者の30%は75歳以上であり,高齢大腸がん患者は術後の経過が順調であっても術後に生活機能・活動量の低下が報告されている.労働省よると治療が必要な患者へのリハビリテーションの不足が指摘されており,患者は退院後の在宅復帰を見据えたアプローチが不足している可能性がある.高齢者は手術後の生活への適応が難しく,人間作業モデルの「作業適応」にその影響が及ぶ可能性があると推測した.作業適応は個人が環境に適応し,作業同一性(作業的存在としての自己の認識)を構築し,その状態を維持する作業有能性(作業同一性を反映する作業参加パターンの維持)を保有していることである.筆者が渉猟する限り,がん患者の作業適応に関する報告や術前後の変化の報告は限られている.この結果が手術後の高齢大腸がん患者の生活の質(以下,QOL)の向上に寄与する可能性が期待される.
【目的】術前後の作業適応の変化をその構成要素とされる「作業同一性」と「作業有能性」の2つの観点から明らかにすることである.
【方法】対象は,外科的手術予定の歩行が自立した65歳以上の高齢者で,認知症やストーマ造設予定者は除外した.ミックスメソッドを用い,量的研究では手術前後の自己評価・改訂版の得点を有意水準0.05で統計学的に処理した.質的研究ではSteps for Coding and Theorization(SCAT)を一部改変し,発言内容等をグループ化,概念化,ストーリーラインを作成し,理論記述を行い,作業適応状態を検討した.倫理的配慮として,文書と口頭で研究説明し同意を得た場合に署名をいただいた.研究への協力は自由意志で,研究拒否や途中での辞退も治療に影響はなく,不利益を被らないことを説明した.なお,当院での倫理審査委員会で承認を得て実施した.
【結果】研究対象者は16名,平均年齢は75±3.6歳であった.日常生活の制限はないか,あるいは軽度であった.量的研究では,作業同一性は役割に関わること,作業有能性は行かなければならない場所に行く・自分の好きな活動を行う・自分の能力をうまく発揮する等の項目に有意差があった.質的研究では,手術前の作業適応状態は「家事やボランティア」といった役割を果たし,「自分のことは自分で決めてやる」と自律した生活を送り,「自分から誘って食事や旅行に行く」と他者と楽しむ多面的な自分を維持できる作業有能性を持っていた.一方で,退院後の作業適応状態は手術後の体力低下・疲労感や不規則な便通があり,遂行する機会を失い「人のお世話はできていません」と役割を果たせない状態であった.「体を使ってすることはできてない」と自律した存在でいる難しさがあり,「好きな活動さえも意欲がわからない」状態であった.そのため,手術の影響を受けた対象者は作業適応状態にあるとは言えなかった.
【考察】対象者は体力低下や疲労感,不規則な便通など手術の影響を受け,築き上げてきた作業同一性が揺らぎ,日課に関わる作業有能性が低下したと考えられる.本研究では質的データ・量的データから手術による影響で遂行する機会を失うことで「役割を遂行する人」という認識も低下するという結果が得られた.その認識が低下し,役割を果たす作業が減少すると心理社会的な健康に不利益をもたらす可能性があると報告されている.退院後1ヶ月では,作業同一性と作業有能性を再構築できず作業適応ではない対象者が存在した.また,対象者は,役割遂行に伴う日課が生活習慣となっており,日課のような自然なリズムで1日を過ごすことが安心感を得るストラテジーであるとされている.高齢大腸がん患者に対して日課(役割遂行)を通じて,生活リズムを維持できるよう支援することがQOL向上に寄与する可能性がある.
【目的】術前後の作業適応の変化をその構成要素とされる「作業同一性」と「作業有能性」の2つの観点から明らかにすることである.
【方法】対象は,外科的手術予定の歩行が自立した65歳以上の高齢者で,認知症やストーマ造設予定者は除外した.ミックスメソッドを用い,量的研究では手術前後の自己評価・改訂版の得点を有意水準0.05で統計学的に処理した.質的研究ではSteps for Coding and Theorization(SCAT)を一部改変し,発言内容等をグループ化,概念化,ストーリーラインを作成し,理論記述を行い,作業適応状態を検討した.倫理的配慮として,文書と口頭で研究説明し同意を得た場合に署名をいただいた.研究への協力は自由意志で,研究拒否や途中での辞退も治療に影響はなく,不利益を被らないことを説明した.なお,当院での倫理審査委員会で承認を得て実施した.
【結果】研究対象者は16名,平均年齢は75±3.6歳であった.日常生活の制限はないか,あるいは軽度であった.量的研究では,作業同一性は役割に関わること,作業有能性は行かなければならない場所に行く・自分の好きな活動を行う・自分の能力をうまく発揮する等の項目に有意差があった.質的研究では,手術前の作業適応状態は「家事やボランティア」といった役割を果たし,「自分のことは自分で決めてやる」と自律した生活を送り,「自分から誘って食事や旅行に行く」と他者と楽しむ多面的な自分を維持できる作業有能性を持っていた.一方で,退院後の作業適応状態は手術後の体力低下・疲労感や不規則な便通があり,遂行する機会を失い「人のお世話はできていません」と役割を果たせない状態であった.「体を使ってすることはできてない」と自律した存在でいる難しさがあり,「好きな活動さえも意欲がわからない」状態であった.そのため,手術の影響を受けた対象者は作業適応状態にあるとは言えなかった.
【考察】対象者は体力低下や疲労感,不規則な便通など手術の影響を受け,築き上げてきた作業同一性が揺らぎ,日課に関わる作業有能性が低下したと考えられる.本研究では質的データ・量的データから手術による影響で遂行する機会を失うことで「役割を遂行する人」という認識も低下するという結果が得られた.その認識が低下し,役割を果たす作業が減少すると心理社会的な健康に不利益をもたらす可能性があると報告されている.退院後1ヶ月では,作業同一性と作業有能性を再構築できず作業適応ではない対象者が存在した.また,対象者は,役割遂行に伴う日課が生活習慣となっており,日課のような自然なリズムで1日を過ごすことが安心感を得るストラテジーであるとされている.高齢大腸がん患者に対して日課(役割遂行)を通じて,生活リズムを維持できるよう支援することがQOL向上に寄与する可能性がある.