[OF-1-4] 多職種連携により最後まで尊厳を保ち治療に取り組んだ事例
【はじめに】
がん医療において全人的苦痛を扱う維持期・緩和期は,患者と家族を中心としたチーム医療が特に重要である.今回,舌癌の事例を17カ月間担当した.再発や状態悪化から医療者に対する不信感が生じたため,作業療法士(以下,OTR)は多職種と意見交換の機会を設け,事例と姉に対して定期的に情報共有を行う支援体制を整え,状況変化に合わせて思いの傾聴と生活支援,心と体の痛みの緩和を行った.事例は最後まで尊厳を保ち治療され,多職種連携と作業療法(以下,OT)介入が生活の質(以下,QOL)支援の一助となったため,家族の同意を得て報告する.
【事例紹介】50歳代後半の男性.他院で左舌部分切除術を行い復職.再発後,当院で左頸部リンパ郭清と放射線治療,化学療法を実施した.両親と居住し,キーパーソンは別居の実姉で,離婚した妻と子供3人とも関係は良好だった.仕事は外資系企業で,日本語と英語を使いクレーム対応と品質管理を行い,復職を希望した.介入が長期のため初回作業療法開始日をX月とし,回復期を第1期(Ⅹ~10月),維持期を第2期(11~14月),緩和期を第3期(15月以降)とした.
【介入経過】第1期は,左肩の関節可動域(以下,ROM)制限は残存するがBarthel Index(以下,BI)は100点で,OTは,機能改善と復職を目標に上肢機能と体力強化訓練を行った.第2期は,左頚部の再発腫瘍のため潰瘍形成を生じ,嗄声と嚥下障害と左肩ROM制限を認めた.両頚部~上部体幹にかけ筋緊張亢進と疼痛による左斜頚,頚部と体幹屈曲位に至ったが,創部処置も自立しBIは100点だった.OTは,疼痛緩和と姿勢修正,自宅退院を目標に,リラクゼーションとADL訓練,本人の思いの傾聴を行った.また疼痛緩和と復職を目的に言語聴覚士(以下,ST)と連携し外来訓練を行った.再発による状態悪化に伴い,事例は医師と看護師へ不信感を持ち,「傷が大きくなるのに,先生は経過を見ようしか言わない.真実を聞きたいのに.看護師も言うことがみんな違う.」と発言した.OTRは治療継続と復職への介入に悩んだため,STと協力し,多職種(医師と病棟看護師(以下,Ns),歯科衛生士,緩和ケア認定Ns,リエゾンNs)と病状把握と今後の方針について意見交換の場を設けた. その後事例のニーズを尊重し,事例と姉と多職種間で定期的に情報共有を行う連携会が整い,事例は「本当に良かった.」と安心された.第3期は,左頸部の潰瘍が増大し,頸部から上部体幹にかけROM制限,嗄声悪化,嚥下障害と嘔気,四肢浮腫,疼痛と病態悪化に伴う睡眠障害とせん妄が生じた.「歩けなくなる.」と叫び急に起き上がる,歩行時の急な下肢脱力などリスク管理が増加した.OTは,安心で安全な環境設定を目標に病棟と連携しベッドの配置変更やポジショニング,介助方法を提示した.また疼痛緩和へのリラクゼーションと思いの傾聴を行い,多職種と情報共有と目標設定を行い,状態変化に基づく支援と週1回の定期連携会に参加した.✕+17月死への恐怖や混乱から不眠と不穏が生じ,介助量は増加しBI20点となった.事例は,STとOTRと車いすで花見を行った翌日,「もうやりきったね.」と話され鎮静を開始し,10日後逝去された.
【考察】維持期から緩和期における患者の心身状況は大きく変化し,全人的苦痛に対応すべき課題が多く,患者も医療者も悩みと葛藤が増加する.多職種間で情報と目標を共有し,事例と家族を含めた協業が必要不可欠であるのはもちろん,医療者の心理的支援としても重要だと予測する.またチーム内でOTの役割は,状況に合わせた思いの傾聴と,生活を見据えた心と体の痛みへの支援であると考える.
がん医療において全人的苦痛を扱う維持期・緩和期は,患者と家族を中心としたチーム医療が特に重要である.今回,舌癌の事例を17カ月間担当した.再発や状態悪化から医療者に対する不信感が生じたため,作業療法士(以下,OTR)は多職種と意見交換の機会を設け,事例と姉に対して定期的に情報共有を行う支援体制を整え,状況変化に合わせて思いの傾聴と生活支援,心と体の痛みの緩和を行った.事例は最後まで尊厳を保ち治療され,多職種連携と作業療法(以下,OT)介入が生活の質(以下,QOL)支援の一助となったため,家族の同意を得て報告する.
【事例紹介】50歳代後半の男性.他院で左舌部分切除術を行い復職.再発後,当院で左頸部リンパ郭清と放射線治療,化学療法を実施した.両親と居住し,キーパーソンは別居の実姉で,離婚した妻と子供3人とも関係は良好だった.仕事は外資系企業で,日本語と英語を使いクレーム対応と品質管理を行い,復職を希望した.介入が長期のため初回作業療法開始日をX月とし,回復期を第1期(Ⅹ~10月),維持期を第2期(11~14月),緩和期を第3期(15月以降)とした.
【介入経過】第1期は,左肩の関節可動域(以下,ROM)制限は残存するがBarthel Index(以下,BI)は100点で,OTは,機能改善と復職を目標に上肢機能と体力強化訓練を行った.第2期は,左頚部の再発腫瘍のため潰瘍形成を生じ,嗄声と嚥下障害と左肩ROM制限を認めた.両頚部~上部体幹にかけ筋緊張亢進と疼痛による左斜頚,頚部と体幹屈曲位に至ったが,創部処置も自立しBIは100点だった.OTは,疼痛緩和と姿勢修正,自宅退院を目標に,リラクゼーションとADL訓練,本人の思いの傾聴を行った.また疼痛緩和と復職を目的に言語聴覚士(以下,ST)と連携し外来訓練を行った.再発による状態悪化に伴い,事例は医師と看護師へ不信感を持ち,「傷が大きくなるのに,先生は経過を見ようしか言わない.真実を聞きたいのに.看護師も言うことがみんな違う.」と発言した.OTRは治療継続と復職への介入に悩んだため,STと協力し,多職種(医師と病棟看護師(以下,Ns),歯科衛生士,緩和ケア認定Ns,リエゾンNs)と病状把握と今後の方針について意見交換の場を設けた. その後事例のニーズを尊重し,事例と姉と多職種間で定期的に情報共有を行う連携会が整い,事例は「本当に良かった.」と安心された.第3期は,左頸部の潰瘍が増大し,頸部から上部体幹にかけROM制限,嗄声悪化,嚥下障害と嘔気,四肢浮腫,疼痛と病態悪化に伴う睡眠障害とせん妄が生じた.「歩けなくなる.」と叫び急に起き上がる,歩行時の急な下肢脱力などリスク管理が増加した.OTは,安心で安全な環境設定を目標に病棟と連携しベッドの配置変更やポジショニング,介助方法を提示した.また疼痛緩和へのリラクゼーションと思いの傾聴を行い,多職種と情報共有と目標設定を行い,状態変化に基づく支援と週1回の定期連携会に参加した.✕+17月死への恐怖や混乱から不眠と不穏が生じ,介助量は増加しBI20点となった.事例は,STとOTRと車いすで花見を行った翌日,「もうやりきったね.」と話され鎮静を開始し,10日後逝去された.
【考察】維持期から緩和期における患者の心身状況は大きく変化し,全人的苦痛に対応すべき課題が多く,患者も医療者も悩みと葛藤が増加する.多職種間で情報と目標を共有し,事例と家族を含めた協業が必要不可欠であるのはもちろん,医療者の心理的支援としても重要だと予測する.またチーム内でOTの役割は,状況に合わせた思いの傾聴と,生活を見据えた心と体の痛みへの支援であると考える.