第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

がん

[OF-1] 一般演題:がん1

2024年11月9日(土) 16:50 〜 18:00 E会場 (204)

座長:石井 陽史(市立札幌病院 )

[OF-1-5] Palmar fasciitis and polyarthritis syndrome様の手指関節拘縮に対して装具療法を施行した一例

水橋 青治1, 松岡 千紘2, 小野 寿子3, 土田 真嗣4, 藤原 浩芳5 (1.日本赤十字社 京都第二赤十字病院 リハビリテーション課, 2.日本赤十字社 京都第二赤十字病院 神経内科, 3.日本赤十字社 京都第二赤十字病院 腫瘍内科, 4.京都府立医科大学大学院医学研究科 運動器機能再生外科学(整形外科学教室), 5.日本赤十字社 京都第二赤十字病院 整形外科)

【はじめに】Palmar fasciitis and polyarthritis syndrome (PFPAS)は腫瘍随伴症候群の1つで,左右対称性に手掌筋膜,腱膜の炎症が生じ,筋膜が木のように固くなり,手指屈曲拘縮を生じることからwoody hands と呼ばれる.症状出現から半年以内に悪性腫瘍の合併が発見されることが多く,悪性腫瘍の治療にて拘縮が改善することもあるが,作業療法の効果については不明な点が多い.早期からの装具療法を施行により軽度の可動域改善が得られた1例を報告する.
【症例】症例は70歳代,女性,右利き,既往に左乳癌に対する温存手術歴があった.半年前から両手の拘縮を自覚し徐々に増悪したため,精査目的で入院した.右進行乳癌を指摘され抗癌剤治療が開始.日常生活動作は自立だが,仕事(呉服業)は困難なため休業中であった.CRP 0.09,WBC 6200 (Neutr 56.9 %)で抗核抗体は陰性,赤沈1時間値 11 mm,2時間値48 mmで基準値内であった.MMP-3 70.1およびCA15-3 32.2と高値だが,抗CCP抗体,RFは陰性でCEA,NCC-ST-43,Scl70は基準値内であった.単純X線像やMR画像では,骨びらんや骨髄浮腫,関節液貯留,滑膜肥厚を認めず.
入院翌日から作業療法を開始.初回評価(X+1日)は,手指自他動運動時痛あり(NRS4/10),8の字法(右/左)は35.5cm/35.5cmで発赤認めず.TAF(右/左)母指110/110,示指180/178,中指180/178,環指190/172,小指190/180,TAE(右/左)母指-50/-40,示指-164/-110,中指-176/-138,環指-190/-134,小指-180/-180と重度の手内在筋マイナス拘縮を認めた.QUICK DASH 機能障害/症状スコア72.7点,仕事スコア0点であった.発表に際し本人に同意を得た.
【セラピィ経過】X+1日より徒手的な可動域訓練やチューブと重錘を用いた持続的伸張を開始した.X+2日に手指PIP〜DIP関節伸展方向への矯正目的としたdynamic splintや指間保持目的に夜間装具を作製した.X+4日に手指MP関節屈曲方向への矯正目的としたdynamic splintやカペナーストラップを作製した.X+7日にカペナースプリントを作製,X+10日に自宅退院した.その後通院リハビリテーション治療目的で近医へ紹介となった.
【結果】最終評価(X+10日)では,手指自他動運動時痛(NRS4/10)あり,8の字法(右/左)は35.5cm/35.5cmで炎症症状を認めず.また,TAF(右/左)で母指110/110,示指192/204,中指190/188,環指200/192,小指190/190,TAE(右/左)で母指-50/-40,示指-148/-66,中指-160/-106,環指-165/-122,小指-176/-166であり,両手指のDIP〜PIP関節伸展可動域およびMP屈曲可動域改善を軽度認めた.QUICK DASH では機能障害/症状スコア52.3点,仕事スコア0点で軽度機能改善を認めるも仕事復帰には至っていなかった.
【考察】PFPASにおける手指屈曲拘縮の進行は数日または数週間で重症化し,高度な拘縮が残存すると報告されている.本例は比較的緩徐に手指の拘縮が進行したため,PFPASと診断するまでに半年を要した.重度な関節拘縮の改善には長時間の矯正が必要とされ,スプリント療法は有効な治療法の一つである.しかし, PFPASによる手指屈曲拘縮に対する装具療法を含めたセラピィの報告は渉猟した範囲ではない.われわれは,入院後早期からPFPAS様の手指MP関節伸展拘縮とPIP〜DIP関節屈曲拘縮に対して拘縮要因別に装具療法を実施した.短期間であっても進行を予防しただけではなく,軽度ではあるものの手指の可動域は改善した.今後のセラピィ戦略において,がんの病勢が寛解に至るまで可動域を維持させることが目標であるため,病院間の連携にて装具療法の継続が重要であると考えた.