第58回日本作業療法学会

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一般演題

がん

[OF-1] 一般演題:がん1

Sat. Nov 9, 2024 4:50 PM - 6:00 PM E会場 (204)

座長:石井 陽史(市立札幌病院 )

[OF-1-6] 頸部郭清術後の副神経麻痺を呈した症例に対する末梢磁気刺激を用いた作業療法介入の経験

安宅 航太, 佐藤 亮太 (東北大学病院 診療技術部リハビリテーション部門)

1)序論 頭頸部がんにおける手術療法として頸部郭清術がある.この手術操作により副神経は切除あるいは牽引されることによって神経障害を呈し,術後の肩関節挙上制限が起こる.また切除していなかったとしても,その回復には長期間を要する事が多い.今回,頸部郭清術を施行された症例に対し末梢磁気刺激を用いて介入を行った結果,可動域と疼痛の改善に加え,生活行為の拡大を認めたため以下に報告する.尚,本発表に際し症例からは紙面を用いて同意を得ており,当院臨床研究倫理委員会(症例研究)にて承認も得ている.
2)症例紹介 40代女性,母と2人暮らし.診断名は右側口底癌(SCC cT4aN2bMO).主病に対し,舌亜全摘,両側頸部郭清(右Ⅰ〜Ⅳ,左Ⅰ〜Ⅲ) 気管切開,左遊離前外側皮弁再建,喉頭挙上術が実施された.術後3日後に介入開始.初期評価は,自動ROM(R/L):肩屈曲115/130外転60/60水平外転15/30.他動ROM:問題なし.MMT:肩甲帯挙上4/4肩屈曲2/2外転1/1水平伸展2/2肘屈曲5/5.疼痛:Visual Analog Scale(以下VAS):肩痛について55/40.握力:29kg/24kg.Barthel Index(以下BI):60点.両側ともに術後副神経麻痺を呈しており,特に右上肢で挙上制限がみられ,肩の重さや痛みを訴えていた.
3)目的 末梢磁気刺激を僧帽筋に行い,肩関節挙上障害の改善を図る.さらに上肢挙上に伴う生活行為の改善を図る.
4)介入方法 末梢磁気刺激は近年神経障害による麻痺や筋力低下に効果があるとされており,本症例の副神経麻痺にも効果が見込めると考え,医師の許可を得て導入した.磁気刺激装置はpath leader(IFG社)を使用した.刺激は僧帽筋へ行い,肩甲帯の挙上,肩外転(特に僧帽筋の関与の強いとされる90から150°の範囲)の自動介助運動に合わせて行った.刺激レベルは80 周波数は35Hzそれぞれ10回を3セット実施した.
5)経過 まずは肩甲帯周囲筋のリラクセーションを実施しつつ,臥位で肩甲帯良肢位での自動運動から開始し,術後2週間後(抜鈎後)に磁気刺激を開始した.初回の刺激直後から肩関節挙上が楽になった,と発言が聞かれた.術後3週間後,肩関節挙上の改善に合わせ座位での上肢自動運動を追加し,上肢挙上に伴う困難な生活行為を聴取した.主に上衣更衣,カーテン操作,上方リーチなどで,特に大変だった項目は洗濯機上の乾燥機へのリーチだった.上記は機能訓練の継続と動作方法の指導,足台の設置にて解決した.退院時には上肢挙上に伴う生活行為では大きな不安もなく自宅退院を果たすことができた.
5)結果 術後4週後 自動ROM:肩屈曲170/170外転150/160.MMT:肩甲帯挙上4/5肩屈曲3/3外転2/3.VAS:肩痛について30/20.BI100点.筋力低下は残存しているが,上肢挙上に伴う日常生活(更衣,洗髪,整理整頓,カーテン開閉,洗濯)は不安なく可能になり,自宅退院となった.
6)考察 頸部郭清術後の副神経麻痺を呈した症例に対し,磁気刺激を用いた介入を実施した結果,通常の経過より早い約1ヶ月の経過で可動域や疼痛の改善を認めた.この効果は,肩甲上腕リズムに同期した僧帽筋への磁気刺激が肩甲帯の安定性を高めたためと考えられる.更にこの効果により上肢挙上を必要とする生活行為の拡大が得られADLやQOLへの改善効果も見られた.今後は症例を増やし,さらなる効果検証を行っていきたい.