[OH-1-1] 自殺未遂した薬物依存症の男性同性愛者に対する精神科作業療法
~ナラティブスロープを介入手段として用いた人生の振り返り~
【はじめに】性的マイノリティの人々は,教育・就労・医療・公共サービスなど生活上の様々な困難さを経験し,偏見や差別に遭うこともあり,メンタルヘルスのリスク集団として認識されている.今回,筆者は自殺未遂した薬物依存症の男性同性愛者に関わる機会を得た.本介入では対象者が価値を置く作業(パソコン)を通して関わり,自身の人生を卑下する対象者とナラティブスロープを作成し,これまでの人生を振り返った.ナラティブスロープとは,対象者の過去から現在,未来に至る生活上の出来事を聴取して作成する人生の図表である.本報告の目的は,薬物依存症の男性同性愛者が自身の人生を肯定的に捉え直し,今後の人生を検討する上でナラティブスロープを用いた作業療法の有用性を検討することである.
【事例紹介】A氏は60歳代前半の男性同性愛者であり,診断名は薬物依存症,うつ病,窃盗症,AIDSである.幼少期から男性に恋愛感情を抱く自分に疑問を抱き,中学・高校では「ホモ,オカマ」などと激しいいじめに遭った.20歳代前半で上京しゲイバーを営んだが,パートナーの影響で覚せい剤を使用し始め,40歳代後半に逮捕された.その後,帰郷してダルクに通ったが,50歳代後半に覚せい剤を再使用して逮捕された.その後,窃盗症で万引きを繰り返して逮捕され,刑務所に2年間服役した.そしてX-4カ月,出所後に万引きし,窃盗症が治っていないことに絶望して入水自殺を図り,当院に医療保護入院となった.なお,本発表に際し,当院の研究倫理審査委員会の承認の下,対象者から書面で同意を得た.また,開示すべきCOI関係はない.
【作業療法評価】初回面接時,A氏は自身の人生を卑下し落涙していた.ICFにおいて,地域生活の再開に向けたA氏の課題は〈心身機能・構造〉では中等度の抑うつ状態(BDI-Ⅱ28点)で生きる意欲が乏しく,〈活動と参加〉では他者に相談できず,薬物の渇望が生じた際の対処が困難なこと,〈環境因子〉では退院後の住居はなく,支援体制も未定であることが挙げられた.
【介入経過と結果】ケアチーム(Dr,Ns,PSW,OT;筆者)はA氏との合意目標を〈心身の状態を改善して退院し,サポートを受けながら地域生活を継続できる〉と設定した.筆者はA氏の生活能力の回復と,これまでの人生を肯定的に捉え直し,今後の生活に希望を持てることを介入方針とした.ストレッチから介入を開始し,A氏が価値を置くパソコンを経て,人生の振り返りプログラム(ナラティブスロープの作成)を開始した.ナラティブスロープはA氏の人生を5期(①幼稚園時~20歳代前半/②20歳代前半~30歳代後半/③30歳代後半~40歳代後半/④40歳代後半~現在/⑤未来)に分けて詳細に聴取して作成した.A氏はこの作成を通して,上京し良き出会いの中で男性同性愛者である自分を受け入れることができたこと,自分の店を開店し奮闘したこと,長年対立していた父と和解できたことなどを思い起こし,「私の人生,輝いてたなあって思い直しました」と振り返っていた.その後の地域生活再開プログラムでは,筆者とともにアパートの住環境を整備し,外泊訓練やIADL訓練(買物や調理など)を行った.A氏はX+3カ月に退院し,現在はDrの定期受診とDARCへの参加を欠かさず,精神科デイケアと精神科訪問看護を利用しながら地域生活を継続している.
【考察】本介入ではナラティブスロープを評価だけでなく,介入手段として用いた.本介入から,薬物依存症の男性同性愛者に対する作業療法において,ナラティブスロープを作成することは,対象者の人生に対する否定的な認識を改善し,今後の生活に対する肯定的な検討を可能にすると考えられる.
【事例紹介】A氏は60歳代前半の男性同性愛者であり,診断名は薬物依存症,うつ病,窃盗症,AIDSである.幼少期から男性に恋愛感情を抱く自分に疑問を抱き,中学・高校では「ホモ,オカマ」などと激しいいじめに遭った.20歳代前半で上京しゲイバーを営んだが,パートナーの影響で覚せい剤を使用し始め,40歳代後半に逮捕された.その後,帰郷してダルクに通ったが,50歳代後半に覚せい剤を再使用して逮捕された.その後,窃盗症で万引きを繰り返して逮捕され,刑務所に2年間服役した.そしてX-4カ月,出所後に万引きし,窃盗症が治っていないことに絶望して入水自殺を図り,当院に医療保護入院となった.なお,本発表に際し,当院の研究倫理審査委員会の承認の下,対象者から書面で同意を得た.また,開示すべきCOI関係はない.
【作業療法評価】初回面接時,A氏は自身の人生を卑下し落涙していた.ICFにおいて,地域生活の再開に向けたA氏の課題は〈心身機能・構造〉では中等度の抑うつ状態(BDI-Ⅱ28点)で生きる意欲が乏しく,〈活動と参加〉では他者に相談できず,薬物の渇望が生じた際の対処が困難なこと,〈環境因子〉では退院後の住居はなく,支援体制も未定であることが挙げられた.
【介入経過と結果】ケアチーム(Dr,Ns,PSW,OT;筆者)はA氏との合意目標を〈心身の状態を改善して退院し,サポートを受けながら地域生活を継続できる〉と設定した.筆者はA氏の生活能力の回復と,これまでの人生を肯定的に捉え直し,今後の生活に希望を持てることを介入方針とした.ストレッチから介入を開始し,A氏が価値を置くパソコンを経て,人生の振り返りプログラム(ナラティブスロープの作成)を開始した.ナラティブスロープはA氏の人生を5期(①幼稚園時~20歳代前半/②20歳代前半~30歳代後半/③30歳代後半~40歳代後半/④40歳代後半~現在/⑤未来)に分けて詳細に聴取して作成した.A氏はこの作成を通して,上京し良き出会いの中で男性同性愛者である自分を受け入れることができたこと,自分の店を開店し奮闘したこと,長年対立していた父と和解できたことなどを思い起こし,「私の人生,輝いてたなあって思い直しました」と振り返っていた.その後の地域生活再開プログラムでは,筆者とともにアパートの住環境を整備し,外泊訓練やIADL訓練(買物や調理など)を行った.A氏はX+3カ月に退院し,現在はDrの定期受診とDARCへの参加を欠かさず,精神科デイケアと精神科訪問看護を利用しながら地域生活を継続している.
【考察】本介入ではナラティブスロープを評価だけでなく,介入手段として用いた.本介入から,薬物依存症の男性同性愛者に対する作業療法において,ナラティブスロープを作成することは,対象者の人生に対する否定的な認識を改善し,今後の生活に対する肯定的な検討を可能にすると考えられる.