[OH-1-3] 年齢と就労経験が医療観察法入院処遇者の入院長期化に及ぼす影響
【序論】
心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療観察等に関する法律(医療観察法)では,対象者に再犯防止と社会復帰の促進を目的とした治療が行われる.近年の入院日数は平均値1033日と標準的入院期間の1年半より増加を認めた(平林ら2019).長期入院因子として厚生労働省の「重度かつ慢性」基準案の精神症状,生活障害,および行動障害の下位項目の一部との関連が報告されている(武田ら2022).しかし,医療観察法入院処遇者の個人因子と入院期間との関係性は十分に検証されていない.
【目的】長期入院と関連する医療観察法入院処遇者の個人因子を同定することを目的とした.
【方法】
対象は,2008/4~2019/12に当院医療観察法病棟に入退院した統合失調症患者とし,器質性の脳疾患の既往がある者,医療観察法処遇終了者は除外した.診療録と入院継続文書より個人因子データ(年齢,性別(男性:1,女性:0),教育年数,発症年齢,入院日数,院外外出の回数,外泊訓練の回数,入院時BMI,過去の入院回数,重複障害(有:1,無:0),身体合併症(有:1,無:0),就労経験(有:1,無:0),単身生活経験(有:1,無:0),生活保護受給(有:1,無:0)を抽出した.解析はR ver2.8-0でステップワイズ法を用いた多重ロジスティック回帰分析にて,目的変数を入院日数(平均日数以上:1,未満:0),説明変数をそれ以外の個人因子データ連続値またはダミー変数として投入した.有意水準を5%未満とした.本研究は当院の倫理委員会の承認を得て,オプトアウトによる意思表示を可能とした(承認番号:A2023-062).
【結果】
対象者数:141名(男性:125名),平均入院日数±標準偏差:799±13.1日,入院処遇開始時年齢:43.9±13.1歳,重複障害有:33名,身体合併症有:30名,教育年数12.4±2.6年,発症年齢30.6±12.1歳,就労経験:有91名,単身生活経験有:70名,生活保護受給有:34名,院外外出回数15.0±10.4回,外泊訓練回数6.7±5.9回,BMI23.4±3.5,過去の入院回数3.1±4.0回だった.平均入院日数以上の者は50名(男性:46名)であった.ステップワイズ法を用いた多重ロジスティック回帰分析の結果,院外外出回数(Estimate = 0.21, Odds ratio (OR) = 1.24, [Cl: 1.13-1.36], p = 0.000003),外泊訓練回数(Estimate=0.47, OR = 1.60, [Cl: 1.29-1.99],p = 0.00002),就労経験の有無(Estimate = -1.83, OR = 0.15, [Cl: 0.03-0.63],p = 0.009),性別(Estimate =-1.94 , Odds =0.14 , [Cl: 0.007-2.55],p = 0.18),年齢(Estimate = 0.1, OR = 1.11, [Cl: 1.05-1.18],p = 0.0005)だった.Variance Inflation Factorはすべて2.5未満だった.
【考察】
平均入院日数以上の者は,未満の者より高齢で院外外出,外泊回数が多かった.また,就労経験者が少なかったことが明らかになった.入院期間と関連した年齢は,高齢に伴う施設の受け入れや賃貸借契約の難しさによる社会的な要因が示唆された.また,外出・外泊の回数は帰住先への適応や地域調整の必要な時間が示唆され,社会生活能力や支援者の状況などが反映されていると考えられた.就労経験の乏しさは現実見当識,対人交流技能などの低さを反映していると推察された.入院生活や地域調整も円滑にするためには,年齢や就労経験の有無と支援者などの環境因子に配慮し,早期から外出,外泊などの社会とのつながりをつくる包括的な治療計画が必要であることが示された.
心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療観察等に関する法律(医療観察法)では,対象者に再犯防止と社会復帰の促進を目的とした治療が行われる.近年の入院日数は平均値1033日と標準的入院期間の1年半より増加を認めた(平林ら2019).長期入院因子として厚生労働省の「重度かつ慢性」基準案の精神症状,生活障害,および行動障害の下位項目の一部との関連が報告されている(武田ら2022).しかし,医療観察法入院処遇者の個人因子と入院期間との関係性は十分に検証されていない.
【目的】長期入院と関連する医療観察法入院処遇者の個人因子を同定することを目的とした.
【方法】
対象は,2008/4~2019/12に当院医療観察法病棟に入退院した統合失調症患者とし,器質性の脳疾患の既往がある者,医療観察法処遇終了者は除外した.診療録と入院継続文書より個人因子データ(年齢,性別(男性:1,女性:0),教育年数,発症年齢,入院日数,院外外出の回数,外泊訓練の回数,入院時BMI,過去の入院回数,重複障害(有:1,無:0),身体合併症(有:1,無:0),就労経験(有:1,無:0),単身生活経験(有:1,無:0),生活保護受給(有:1,無:0)を抽出した.解析はR ver2.8-0でステップワイズ法を用いた多重ロジスティック回帰分析にて,目的変数を入院日数(平均日数以上:1,未満:0),説明変数をそれ以外の個人因子データ連続値またはダミー変数として投入した.有意水準を5%未満とした.本研究は当院の倫理委員会の承認を得て,オプトアウトによる意思表示を可能とした(承認番号:A2023-062).
【結果】
対象者数:141名(男性:125名),平均入院日数±標準偏差:799±13.1日,入院処遇開始時年齢:43.9±13.1歳,重複障害有:33名,身体合併症有:30名,教育年数12.4±2.6年,発症年齢30.6±12.1歳,就労経験:有91名,単身生活経験有:70名,生活保護受給有:34名,院外外出回数15.0±10.4回,外泊訓練回数6.7±5.9回,BMI23.4±3.5,過去の入院回数3.1±4.0回だった.平均入院日数以上の者は50名(男性:46名)であった.ステップワイズ法を用いた多重ロジスティック回帰分析の結果,院外外出回数(Estimate = 0.21, Odds ratio (OR) = 1.24, [Cl: 1.13-1.36], p = 0.000003),外泊訓練回数(Estimate=0.47, OR = 1.60, [Cl: 1.29-1.99],p = 0.00002),就労経験の有無(Estimate = -1.83, OR = 0.15, [Cl: 0.03-0.63],p = 0.009),性別(Estimate =-1.94 , Odds =0.14 , [Cl: 0.007-2.55],p = 0.18),年齢(Estimate = 0.1, OR = 1.11, [Cl: 1.05-1.18],p = 0.0005)だった.Variance Inflation Factorはすべて2.5未満だった.
【考察】
平均入院日数以上の者は,未満の者より高齢で院外外出,外泊回数が多かった.また,就労経験者が少なかったことが明らかになった.入院期間と関連した年齢は,高齢に伴う施設の受け入れや賃貸借契約の難しさによる社会的な要因が示唆された.また,外出・外泊の回数は帰住先への適応や地域調整の必要な時間が示唆され,社会生活能力や支援者の状況などが反映されていると考えられた.就労経験の乏しさは現実見当識,対人交流技能などの低さを反映していると推察された.入院生活や地域調整も円滑にするためには,年齢や就労経験の有無と支援者などの環境因子に配慮し,早期から外出,外泊などの社会とのつながりをつくる包括的な治療計画が必要であることが示された.