[OH-2-4] 精神科救急病棟における思春期ひきこもり者への社会参加に向けた作業療法
【はじめに】不登校やひきこもりは,精神疾患や発達障害との関連が指摘されているものの,医療に繋がるものは少なくその支援は難渋している.今回,精神科救急病棟に入院した思春期ひきこもり者への作業療法(以下,OT)経験を振り返り,思春期の社会参加支援について考察する.なお,対象者より口頭および書面で同意を得ている.
【事例】16歳,男性,広汎性発達障害(WAIS-Ⅳ FIQ70),家族と暮らす.小学6年生時に人前でスピーチを強いられたことを契機に不登校となる.ひきこもりは長期化し昼夜逆転,ギターやデジタル絵画などをして過ごしていた.X年Z-5日より家庭内暴力がエスカレートし,同Z日,暴力が止まらないと家族が警察へ通報し当院精神科救急病棟に医療保護入院,Z+8日にOT処方される.
【作業療法評価】痩せ型,猫背,前腕に自傷痕あり.主訴:「今の生活や暴力は良くない」「できれば友達が欲しい」.ICFによる評価:強みとして素直さと学習意欲があるものの,学校での失敗経験などを背景に自己肯定感は低く内気.スマホに依存し,睡眠覚醒リズムの障害や活力低下がみられた.教育期間が短いため,全般的心理社会的機能や知的,高次認知機能は年齢の割に未成熟.不安や苛々時の情動制御や言語化も苦手なため,ストレス対処や対人スキルが乏しく,衝動性が高まると自傷や暴力を認めた.趣味への拘りが強くお金の無心もみられた.外出は散歩程度で体力は低下していた.家庭内役割はなく家事は未経験.他者交流はSNS中心で,家族以外の相談相手や福祉サービスの利用はなかった.
【作業療法計画】長期目標:感情コントロールをして生活習慣の自己管理能力を高め,通所施設に通って友達を作る.短期目標:ストレスを適切に対処する,体力や生活リズムの改善,日課と金銭の自己管理,集団活動における対人関係能力向上,得意な活動を通して自己肯定感の回復を図る.プログラム:興味関心を参考に午前中は体操,グラウンドゴルフ,午後はギター演奏,同年代患者とのセルフヘルプグループを兼ねたIADL練習(金銭管理,生活リズム,スマホ・ネット依存,ストレス対処)などとした.
【経過】入院後,攻撃性は速やかに消失.病棟では主に個室で過ごしていた.Z+9日,OT開始.体操とグラウンドゴルフには毎日参加し,体力,睡眠機能や生活リズムは徐々に改善した.X+16日,IADL練習には控えめながらも自発的に参加.金銭管理の練習では,生活費,労働や賃金について学び「生きることの大変さを知りました」と語った.生活リズムでは,入院前生活を視覚化した24時間円グラフを見て「昼夜逆転生活には戻りたくない」と話し,ネット使用時間の長さを見て「これが苛々とか生活リズムが崩れるきっかけだったのかもしれない」と語った.この頃,仲良くなった患者にギターの弾き方を教える姿が見られた.Z+45日,デイケアの見学は「ギターも続けられるし通いたい」と前向きであった.Z+50日,同年代患者の影響も受け「絵とギターを学ぶために定時制高校に通いたい」と希望を具体的に語った.Z+60日に自宅退院,デイケア通所を開始し,ギター教室にも通う予定である.
【考察】思春期の心身の発達には集団活動と仲間の存在が重要になる.また広汎性発達障害を有するひきこもり者には,発達特性に応じた生活技能訓練,生活・就労支援が必要である(佐藤,2010).今回,事例の発達特性を含めた生活機能評価のもと,IADL練習では同年代患者と交流しながら生活課題に向き合う場となるよう環境調整した.結果,生活スキルを学ぶだけでなく悩みや不安を共有する機会にもなり,事例の所属感や自己肯定感が高まり,社会参加へのチャレンジに繋がったと考える.
【事例】16歳,男性,広汎性発達障害(WAIS-Ⅳ FIQ70),家族と暮らす.小学6年生時に人前でスピーチを強いられたことを契機に不登校となる.ひきこもりは長期化し昼夜逆転,ギターやデジタル絵画などをして過ごしていた.X年Z-5日より家庭内暴力がエスカレートし,同Z日,暴力が止まらないと家族が警察へ通報し当院精神科救急病棟に医療保護入院,Z+8日にOT処方される.
【作業療法評価】痩せ型,猫背,前腕に自傷痕あり.主訴:「今の生活や暴力は良くない」「できれば友達が欲しい」.ICFによる評価:強みとして素直さと学習意欲があるものの,学校での失敗経験などを背景に自己肯定感は低く内気.スマホに依存し,睡眠覚醒リズムの障害や活力低下がみられた.教育期間が短いため,全般的心理社会的機能や知的,高次認知機能は年齢の割に未成熟.不安や苛々時の情動制御や言語化も苦手なため,ストレス対処や対人スキルが乏しく,衝動性が高まると自傷や暴力を認めた.趣味への拘りが強くお金の無心もみられた.外出は散歩程度で体力は低下していた.家庭内役割はなく家事は未経験.他者交流はSNS中心で,家族以外の相談相手や福祉サービスの利用はなかった.
【作業療法計画】長期目標:感情コントロールをして生活習慣の自己管理能力を高め,通所施設に通って友達を作る.短期目標:ストレスを適切に対処する,体力や生活リズムの改善,日課と金銭の自己管理,集団活動における対人関係能力向上,得意な活動を通して自己肯定感の回復を図る.プログラム:興味関心を参考に午前中は体操,グラウンドゴルフ,午後はギター演奏,同年代患者とのセルフヘルプグループを兼ねたIADL練習(金銭管理,生活リズム,スマホ・ネット依存,ストレス対処)などとした.
【経過】入院後,攻撃性は速やかに消失.病棟では主に個室で過ごしていた.Z+9日,OT開始.体操とグラウンドゴルフには毎日参加し,体力,睡眠機能や生活リズムは徐々に改善した.X+16日,IADL練習には控えめながらも自発的に参加.金銭管理の練習では,生活費,労働や賃金について学び「生きることの大変さを知りました」と語った.生活リズムでは,入院前生活を視覚化した24時間円グラフを見て「昼夜逆転生活には戻りたくない」と話し,ネット使用時間の長さを見て「これが苛々とか生活リズムが崩れるきっかけだったのかもしれない」と語った.この頃,仲良くなった患者にギターの弾き方を教える姿が見られた.Z+45日,デイケアの見学は「ギターも続けられるし通いたい」と前向きであった.Z+50日,同年代患者の影響も受け「絵とギターを学ぶために定時制高校に通いたい」と希望を具体的に語った.Z+60日に自宅退院,デイケア通所を開始し,ギター教室にも通う予定である.
【考察】思春期の心身の発達には集団活動と仲間の存在が重要になる.また広汎性発達障害を有するひきこもり者には,発達特性に応じた生活技能訓練,生活・就労支援が必要である(佐藤,2010).今回,事例の発達特性を含めた生活機能評価のもと,IADL練習では同年代患者と交流しながら生活課題に向き合う場となるよう環境調整した.結果,生活スキルを学ぶだけでなく悩みや不安を共有する機会にもなり,事例の所属感や自己肯定感が高まり,社会参加へのチャレンジに繋がったと考える.