[OH-2-5] 活動の体験を通して“できていること”を意識づけする関わりを繰り返したことで,持続する主観的な抑うつ感が改善した一例
【序論】うつ病患者において,薬物療法等の介入後に症状が残遺する者が一定数存在し,その残遺症状の存在が再燃に影響を与えることが示唆されている(Fava. 2007).また,残遺症状の存在が生活の障害となることも示唆されており(Romera. 2014),患者が望む生活を支援するにあたり重要な要素となる.
【目的】2年間で3回の入院を繰り返し,電気けいれん療法(ECT)や認知行動療法への著効が見られなかった高齢のうつ病患者に対し,活動の体験を通して“できていること”を意識づけする関わりを繰り返した結果,主観的な抑うつ感が改善した.その関わりの中で,客観的な抑うつ症状の程度と主観的な抑うつ感の程度の乖離に焦点を当てた介入が有効であったと考えるため報告する.
【症例紹介】70歳代女性.うつ病.出産時に抑うつ症状のため近医クリニックに通院していたが,以降安定した生活を送っていた.X-2年11月,娘婿の帰省に対する疲れから抑うつ症状を呈し初回入院となった.X-1年4月,再び抑うつ症状を呈し再入院となった.2回目の入院では,ECTも施行されたが著明な改善には至らず,外来治療が可能となった時点で退院となった.その後,外来にて薬剤調整や認知行動療法も行われたが改善が乏しく,X年8月に入院となった.入院後2日目より作業療法(OT)導入となった.本報告に対し,本人より書面及び口頭にて同意を得ている.
【評価・方針】初期評価時は,面接にて医療者が採点するハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)が15点,自記式評価尺度である簡易抑うつ症状尺度(QIDS)が28点と,医療者が評価する抑うつ症状に対し,本人の自覚する抑うつ感がより強く示されていた.ADLの自立度が改善していても,「あまり変わりません」「昔の失敗を考えてしまいます」との発言が繰り返されていた.薬物療法は,パロキセチンとアリピプラゾールに加え,ラモトリギンを漸増する方針であった.介入初期からOTへ参加できている点を強みと評価し,できていることやできるようになったことを毎回肯定的に共有することで,主観的な抑うつ感の改善を促進する介入を試みた.
【経過・結果】1期(1〜13日目)では,ナンプレに取り組めるようになったが,抑うつ感については依然として改善が得られなかった.2期(14〜23日目)では,「ナンプレは集中して続けられている.その点では良くなっているのかもしれない」と,活動を介した改善の気づきが得られ始めた.この時期の抑うつ症状は,HAM-Dが10点,QIDSが13点であり,両評価とも改善を示すと共にその差も軽減傾向であった.3期(24〜37日目)では,「作業をやっている間はもやもやした考えを忘れられる」「良くなってきている感じがする」といった肯定的な発言や,自発的に新聞や小説を読むような行動の変化が見られ始めた.この時期は,HAM-Dが6点,QIDSが5点と両評価ともに改善が認められた.その後4期(38〜54日目)では,作業を楽しめるゆとりが見られるようになり,試験外泊を挟み退院となった.
【考察】エビデンスが示された治療法にて著効が見られなかった症例に対し,活動の体験を通して“できていること”を意識づけする関わりを繰り返したことにより,主観的な抑うつ感の改善が認められた.山川(2006)は,患者の観点からうつ病の回復体験を調査した報告において,抗うつ薬の効果と症状の改善に加え,主体性の回復の重要性も指摘している.本介入では,活動の体験を通して“できていること”の意識づけを重ねたことが,症状改善の気付きや主体性の回復を促進する要素になったと考えられた.
【目的】2年間で3回の入院を繰り返し,電気けいれん療法(ECT)や認知行動療法への著効が見られなかった高齢のうつ病患者に対し,活動の体験を通して“できていること”を意識づけする関わりを繰り返した結果,主観的な抑うつ感が改善した.その関わりの中で,客観的な抑うつ症状の程度と主観的な抑うつ感の程度の乖離に焦点を当てた介入が有効であったと考えるため報告する.
【症例紹介】70歳代女性.うつ病.出産時に抑うつ症状のため近医クリニックに通院していたが,以降安定した生活を送っていた.X-2年11月,娘婿の帰省に対する疲れから抑うつ症状を呈し初回入院となった.X-1年4月,再び抑うつ症状を呈し再入院となった.2回目の入院では,ECTも施行されたが著明な改善には至らず,外来治療が可能となった時点で退院となった.その後,外来にて薬剤調整や認知行動療法も行われたが改善が乏しく,X年8月に入院となった.入院後2日目より作業療法(OT)導入となった.本報告に対し,本人より書面及び口頭にて同意を得ている.
【評価・方針】初期評価時は,面接にて医療者が採点するハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)が15点,自記式評価尺度である簡易抑うつ症状尺度(QIDS)が28点と,医療者が評価する抑うつ症状に対し,本人の自覚する抑うつ感がより強く示されていた.ADLの自立度が改善していても,「あまり変わりません」「昔の失敗を考えてしまいます」との発言が繰り返されていた.薬物療法は,パロキセチンとアリピプラゾールに加え,ラモトリギンを漸増する方針であった.介入初期からOTへ参加できている点を強みと評価し,できていることやできるようになったことを毎回肯定的に共有することで,主観的な抑うつ感の改善を促進する介入を試みた.
【経過・結果】1期(1〜13日目)では,ナンプレに取り組めるようになったが,抑うつ感については依然として改善が得られなかった.2期(14〜23日目)では,「ナンプレは集中して続けられている.その点では良くなっているのかもしれない」と,活動を介した改善の気づきが得られ始めた.この時期の抑うつ症状は,HAM-Dが10点,QIDSが13点であり,両評価とも改善を示すと共にその差も軽減傾向であった.3期(24〜37日目)では,「作業をやっている間はもやもやした考えを忘れられる」「良くなってきている感じがする」といった肯定的な発言や,自発的に新聞や小説を読むような行動の変化が見られ始めた.この時期は,HAM-Dが6点,QIDSが5点と両評価ともに改善が認められた.その後4期(38〜54日目)では,作業を楽しめるゆとりが見られるようになり,試験外泊を挟み退院となった.
【考察】エビデンスが示された治療法にて著効が見られなかった症例に対し,活動の体験を通して“できていること”を意識づけする関わりを繰り返したことにより,主観的な抑うつ感の改善が認められた.山川(2006)は,患者の観点からうつ病の回復体験を調査した報告において,抗うつ薬の効果と症状の改善に加え,主体性の回復の重要性も指摘している.本介入では,活動の体験を通して“できていること”の意識づけを重ねたことが,症状改善の気付きや主体性の回復を促進する要素になったと考えられた.