第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

発達障害

[OI-1] 一般演題:発達障害 1

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 G会場 (206)

座長:中島 そのみ(札幌医科大学 )

[OI-1-1] cancellation taskと脳機能計測を用いた多角的解析の有用性の検討

~読み書きの困難さを主訴とする児童への読み書き支援の効果判定~

矢野 幸治1, 福田 亜矢子2,3, 田口 雅徳3, 和田 真1, 安村 明4 (1.国立障害者リハビリテーションセンター研究所 脳機能系障害研究部発達障害研究室, 2.一般社団法人はなみずき特別支援教育研究所, 3.獨協大学 国際教養学部言語文化学科, 4.熊本大学大学院 人文社会科学研究部)

【目的 】読み書き障害(Developmental dyslexia; DD)は,音韻情報処理の障害が主な要因であると考えられているが,近年,視覚探索を含む視覚性注意の問題もある可能性が指摘されている.視覚探索能力を評価する検査にcancellation task(CT)があり,DD児の課題成績が定型発達(Typically developing; TD)児よりも低いことが明らかにされている.しかしCT遂行中の脳活動を検討した研究はなく,視覚探索に関連する神経基盤は解明されていない.筆者らは近赤外線分光法(fNIRS)と同期して行えるCTを開発し,課題中に前頭前皮質(Prefrontal cortex; PFC)の活動が有意に増大することなどを解明してきた.本研究では,「神経発達症の特異性に合った読み書き支援」の介入前後における読み能力とCTの課題成績,脳活動を解析し,視覚探索に関する多角的評価の有用性を検証した.
【対象】対象は読み書きの困難さを主訴として支援施設に通所している児童12名(年齢8.56±1.42歳)で,6名がDDの診断を受けていた.その他の併存疾患には,自閉スペクトラム症,注意欠如・多動症,てんかんがあった.本研究は熊本大学大学院人文社会科学研究部倫理審査委員会の承認を得ており,保護者による同意を得た上,児童本人にも口頭で実験参加の賛意を得ている.
【支援内容】教材「かるたす」を使用した単音のフラッシュカード読み課題,逆さ言葉課題,モーラ分解課題,文字と絵カードのマッチング課題,書き取り課題,読解課題などを実施した.加えて,児童の発達特性に合わせた認知訓練プリントも実施した.月2回の合計8回,共同演者の福田が支援を実施した.
【測定手続き】ペンタブレットPCを用いてCTを実施した.課題は総刺激数が240個でターゲット刺激は24個であった.本研究では,刺激配列が異なる2種類の課題を対象者ごとにランダム順序で実施した(構造化配列・ランダム配列).課題成績は正答数,誤答数だけでなく,視覚探索の体系性や効率性を評価する指標を新たに導入し,解析した.PFCの脳活動は,fNIRS(OEG-16)で測定した.課題遂行中の酸素化ヘモグロビン濃度変化量をz値に変換し,右PFCと左PFCの2領域での特徴を検討した.さらに読み能力については,単語速読課題を実施し,読み誤り数を解析した.
【統計解析】課題成績は時期(介入前・介入後),課題(構造化配列・ランダム配列)の2要因反復測定分散分析を,脳活動は時期,課題,脳領域(右PFC・左PFC)の3要因混合計画分散分析を用いて解析を行った.危険率は5%とした.
【結果とまとめ】読み能力に関して,介入後に読み誤り数が有意に減少していた(p < .01).課題成績に関して,ランダム配列における正答数が介入後に有意に向上していた(p < .01).一方で誤答数やその他の指標においては有意差が認められなかった.今回の支援において,複雑な刺激内における視覚探索の処理速度は向上していたが,視覚探索の精度や体系性,効率性においては介入前後での変化は見られなかった.読み能力の向上には,視覚探索の処理速度の向上が関連している可能性が示唆された.脳活動は,介入前より介入後が有意に増大していた(p < .05).これはPFCの脳活動がより活性化したことで視覚探索の処理速度や読み能力の向上につながった可能性が考えられた.本研究で用いた多角的解析における客観的指標が,介入効果を検討するうえで有用である可能性が示唆された.今回のデータは症例数が少なく,併存疾患も多彩である為,データ収集を継続し,疾患ごとの視覚探索の特徴と読み能力との関連性を検証していくことが課題として挙げられる.