第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

発達障害

[OI-2] 一般演題:発達障害 2 

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 F会場 (201・202)

座長:倉澤 茂樹(福島県立医科大学 )

[OI-2-5] 発達障害児に対するドルフィンセラピーの効果と国内と海外の実施状況の比較

宮田 和佳奈1, 佐野 美沙子2 (1.JA愛知厚生連 知多厚生病院 リハビリテーション室, 2.名古屋大学 医学部保健学科作業療法学専攻)

【序論】アニマルセラピーは1962年にアメリカで最初に報告され,近年において介在させる動物としてイルカが注目を集めている.ドルフィンセラピーの起源は,1978年にSmithが発達障害児に対してイルカとのふれあいの場を設け,行動,感情,言語発達面で好ましい変化を認めたことにあると言われているが,日本における実施例,研究報告は少ない.そこで,国内での実施状況とその効果を明らかにするとともに,海外での実践報告・研究と比較することで,ドルフィンセラピーに関する知見を得て,今後の日本での作業療法士の介入に向けての一助とする.
【方法】文献調査とインタビュー調査を実施した. 文献調査はWeb of science,PubMed,CiNii articlesのデータベースを用いて,1995年から2022年3月末までに公表された論文を対象とした.Web of science,PubMedでは「dolphin therapy」,CiNii articlesでは「イルカ介在療法」をキーワードとして検索し,該当した文献のうち全文が閲覧できないもの,ドルフィンセラピーを実施していないもの,対象年齢が18歳以上のものを除外した.インタビュー調査では,日本国内でイルカとのふれ合い活動を実施しているA団体に,Zoom®を通して半構造化インタビューを行った.音声データから内容分析を行い,ふれ合い活動の実施状況,課題を明らかにし,これらから得られた内容を海外の状況と比較・検討した.本研究は,研究実施時の所属機関の生命倫理審査委員会に承認を得て実施した(21-610).
【結果】文献調査では,英語文献が8件,日本語文献が3件抽出された.海外では欧州で実施されることが多く,トレーナーに加えて理学療法士や作業療法士,臨床心理士といった医療職が実施していた.主な効果としては,肯定的な社会的行動の増加,他者への発声や身振りの頻度の上昇などコミュニケーション能力の向上として挙げられた.インタビュー調査では,ふれ合い活動は療育・治療に対し補助的なものとして実施し,楽しんでもらうことを目的としていた.効果として多く挙げられた内容は,ふれあい活動に参加するために通学などの苦手なことを頑張るといった日々の生活の改善や親子関係の改善であった.ふれあい活動の中で作業療法士に求められる役割として,障害に対する知識の共有,保護者へのフォローアップなどが挙げられた.課題として,知名度の低さや実施施設の少なさからくる参加のハードルが高いことが挙げられた.
【考察】文献調査・インタビュー調査から,国内外の実施状況の違いとして実施者や目的などが挙げられた.海外では実施者に医療職が含まれ治療の一環として実施しているのに対し,国内で実施しているふれあい活動ではトレーナーが余暇活動として実施している.こういったふれあい活動に作業療法士などの医療職が同席することで,遊びの中でイルカに対する身振りでの指示の仕方を学ぶ要素を加えるなど,障害特性やリハビリに関する知識を活かした活動を提案・実施できると考えられる.また,自閉スペクトラム症児は動物の存在にポジティブに反応するという報告があり,現在の発達障害領域における作業療法で広く用いられる感覚統合療法の子どもの積極的な参加を促すというコンセプトにも当てはまる.さらに,感覚特性に偏りのある子どもに対して,ふれあい活動の中にある感覚刺激的な要素も治療的に用いることも可能かもしれない.このような点から,作業療法士が発達障害児を対象としたドルフィンセラピーを実施する意義が示唆された.