[OJ-1-2] 地域在住高齢者における主観的記憶障害の悪化は高次生活機能の低下と関連する
~垂水コホート研究による3 年間の縦断的研究~
【はじめに】高齢者における主観的記憶障害(SMC)は,IADLや高次生活機能のような日常生活における応用的能力低下との関連が報告されている(Abdulrahman H, 2022; Cordier R, 2019).しかしながら,これまでの研究でSMCと高次生活機能の縦断的関連を調査した報告は希少であり,一貫した結果が得られていない.そこで本研究では,地域在住高齢者の高次生活機能の指標であるJST版活動能力指標を用いて,SMCの経時的変化が高次生活機能に及ぼす影響を縦断的に調査することを目的とした.
【方法】鹿児島県垂水市で実施された垂水研究に参加した65歳以上の地域在住高齢者のうち,2019年と2021年の追跡調査を実施した257名(平均年齢72.9±5.5歳,女性61.9%)を縦断的に分析した.除外基準は2019年時点で,1)認知機能低下(Mini-Cog:3点未満),2)基本的なADLに介助が必要,3)神経疾患や精神疾患の既往,4)主要データに欠損のある者とした.SMCは,先行研究(Tsutsumimoto K,2017)を参考に4項目の質問(あなたは記憶に関して問題を抱えていますか,以前よりも物を置いた場所を忘れることが多くなりましたか,親しい友人・知人の名前を忘れることがありますか,周囲の人から忘れっぽくなったと言われることがありますか)にて2件法で聴取した.2019年から2022年でSMCの該当項目が維持/減少した者をSMC維持/改善群,増加した者をSMC悪化群とした.高次生活機能は,JST版活動能力指標を用いて評価した.JST版活動能力指標は,「新機器利用」「情報収集」「生活マネジメント」「社会参加」の4領域からなり,得点が高いほど高次生活機能が高いとされている(Iwasa H, 2018).2019年から2022年でJST版活動能力指標の総得点および各領域の点数が増加した者を高次生活機能維持/向上,低下した者を高次生活機能低下とした.その他の評価指標として,人口統計学的変数(性別,年齢,居住形態,教育歴),認知機能(NCGG-FAT),身体機能(身体的フレイル),抑うつ症状(GDS-15)を評価した.その後,SMC維持/改善群とSMC悪化群のベースライン時(2019年)の比較を行うため,カテゴリ変数はχ²検定と残差分析,連続変数は対応のないt検定を用いて解析を行った.さらに,SMCの経時的変化が高次生活機能および各領域に及ぼす影響を縦断的に明らかにするために,従属変数に高次生活機能および各領域の変化,独立変数にSMCの変化を設定,人口統計学的変数と高次生活機能に影響を与える項目を共変量として調整し,二項ロジスティック回帰分析を行った.統計解析はR ver. 4.2.2を用い,有意水準は5%未満とした.なお,本研究は鹿児島大学疫学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施し,参加者全員からインフォームド・コンセントを得ている.
【結果】本研究におけるSMCが悪化した者は34.6%(89人)であった.SMC悪化群はSMC維持/改善群と比較し,「JST版活動能力指標の総得点(p = 0.007)」と「生活マネジメント(p = 0.048)」の低下した割合が有意に多くなっていた.また,共変量調整後の二項ロジスティック回帰分析では,SMCの変化とJST版活動能力指標の総得点の変化(OR:1.95,95%CI:1.13-3.36,p = 0.015)にて,有意な関連を認めた.
【考察】本研究において,地域在住高齢者におけるSMCの悪化は高次生活機能の低下と関連している可能性が示唆された.特にSMCが悪化した者は生活マネジメント領域の低下を認めた.生活マネジメントは日常生活の工夫や管理的要素が含まれ,高次生活機能の中でも特に高度な機能が必要である.SMCに対して支援することは,高齢者が活動的に地域生活を送ることに寄与することができると考える.
【方法】鹿児島県垂水市で実施された垂水研究に参加した65歳以上の地域在住高齢者のうち,2019年と2021年の追跡調査を実施した257名(平均年齢72.9±5.5歳,女性61.9%)を縦断的に分析した.除外基準は2019年時点で,1)認知機能低下(Mini-Cog:3点未満),2)基本的なADLに介助が必要,3)神経疾患や精神疾患の既往,4)主要データに欠損のある者とした.SMCは,先行研究(Tsutsumimoto K,2017)を参考に4項目の質問(あなたは記憶に関して問題を抱えていますか,以前よりも物を置いた場所を忘れることが多くなりましたか,親しい友人・知人の名前を忘れることがありますか,周囲の人から忘れっぽくなったと言われることがありますか)にて2件法で聴取した.2019年から2022年でSMCの該当項目が維持/減少した者をSMC維持/改善群,増加した者をSMC悪化群とした.高次生活機能は,JST版活動能力指標を用いて評価した.JST版活動能力指標は,「新機器利用」「情報収集」「生活マネジメント」「社会参加」の4領域からなり,得点が高いほど高次生活機能が高いとされている(Iwasa H, 2018).2019年から2022年でJST版活動能力指標の総得点および各領域の点数が増加した者を高次生活機能維持/向上,低下した者を高次生活機能低下とした.その他の評価指標として,人口統計学的変数(性別,年齢,居住形態,教育歴),認知機能(NCGG-FAT),身体機能(身体的フレイル),抑うつ症状(GDS-15)を評価した.その後,SMC維持/改善群とSMC悪化群のベースライン時(2019年)の比較を行うため,カテゴリ変数はχ²検定と残差分析,連続変数は対応のないt検定を用いて解析を行った.さらに,SMCの経時的変化が高次生活機能および各領域に及ぼす影響を縦断的に明らかにするために,従属変数に高次生活機能および各領域の変化,独立変数にSMCの変化を設定,人口統計学的変数と高次生活機能に影響を与える項目を共変量として調整し,二項ロジスティック回帰分析を行った.統計解析はR ver. 4.2.2を用い,有意水準は5%未満とした.なお,本研究は鹿児島大学疫学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施し,参加者全員からインフォームド・コンセントを得ている.
【結果】本研究におけるSMCが悪化した者は34.6%(89人)であった.SMC悪化群はSMC維持/改善群と比較し,「JST版活動能力指標の総得点(p = 0.007)」と「生活マネジメント(p = 0.048)」の低下した割合が有意に多くなっていた.また,共変量調整後の二項ロジスティック回帰分析では,SMCの変化とJST版活動能力指標の総得点の変化(OR:1.95,95%CI:1.13-3.36,p = 0.015)にて,有意な関連を認めた.
【考察】本研究において,地域在住高齢者におけるSMCの悪化は高次生活機能の低下と関連している可能性が示唆された.特にSMCが悪化した者は生活マネジメント領域の低下を認めた.生活マネジメントは日常生活の工夫や管理的要素が含まれ,高次生活機能の中でも特に高度な機能が必要である.SMCに対して支援することは,高齢者が活動的に地域生活を送ることに寄与することができると考える.