[OJ-1-5] 注意記憶障害を呈しながらも歩行車操作法を獲得した一事例
【はじめに】入院期間中に認知機能の低下を呈したため,獲得したい動作の習得が困難になるケースはしばしば経験する.今回,右大腿骨頸部骨折の手術後に注意・記憶力が低下した症例を担当し,操作法の工夫から歩行車操作が獲得できたため以下に報告する.なお,本発表に際し,症例と家族の同意を得ている.
【症例】80歳代後半の女性.要介護1.診断名は右大腿骨頸部骨折.受傷前ADL自立.半年前から歩行能力が低下し,トイレにて転倒.16病日目にA病院にて観血的骨接合術(CHS)実施.42病日目に当院転院.翌日からPT・OT開始.初日の印象は身なりが整った礼儀正しい婦人.会話理解は悪く,何度も説明を要し,会話中に近くを歩いた人に気を取られて会話が止まることがしばしば見られた.娘は「入院してから話の理解が悪くなった」と話していた.78病日目にPTより『一週間以上練習しても歩行車操作が覚えられない』との相談を受け,介入開始.
【作業療法評価】ROMは日常生活上制限なし.握力右11kg,左10kg.上下肢MMT3.HDS-R 20点.減点項目は年月日,曜日,場所,100-7,数列逆唱,遅延再生,語想起.歩行車はドロミテ社製オパル.ブレーキハンドルを上に引き上げるとブレーキがかかり,下に引き下げるとブレーキロックにて固定できる型式.歩行車操作の様子は起立着座時にブレーキハンドルの操作を行わないため,口頭指導するも修正できず,転倒の危険があった.
【作業療法計画】操作方法の要点を短文で書いた説明用紙を歩行車の座面に設置し,読み上げてから動作を行うように指導した.
【経過】説明用紙の導入に拒否がなかったため79病日目から介入開始.介入開始時は説明用紙を読まず,起立や着座を繰り返した.操作前に読み上げるように繰り返し説明すると,82病日目に各操作前に説明文章を読むことは習得できたが転倒の危険は変わらなかった.例えば,「立ち上がってからブレーキを上げる」と読み上げると同時にブレーキ操作を行わずに起立した.86病日目に説明文章を箇条書きに変更.86~88病日目に着座時のブレーキロック忘れは見られたが,その都度口頭指導し,箇条書きの一動作ずつを確認しながら1日10〜30分練習した.89病日目に起立時に「立つ」と用紙を見ずに呟きながら起立し,「それから(ブレーキを)上げる」と呟いてブレーキロックを解除できるようになった.92病日目に病棟内歩行車歩行の自立が可能と判断.PTからも「よほどのことがない限り,間違えない」という報告を受けた.113病日目に退院.退院時は同型の歩行車を介護保険でレンタルした.退院3ヶ月後,通院時の待合椅子に腰かけている所に偶然会った.診察室から呼ばれたところで起立した後に歩行車のブレーキロックを解除して診察室まで歩いていった.
【結果】退院時BI 95点.退院後は娘のサポートとデイサービスなどの介護保険サービスを受けながら自宅生活を行うことになった.歩行車の操作は間違えることはなくなった.
【考察】82病日目に説明用紙で操作法の習得が困難に至ったことは〈立ち上がって/から/ブレーキ/を/上げる〉という5つの単語の脳内処理が困難だったのだと考えられる.これは症例のHDS-Rの数列逆唱の結果から4つ以上の事柄の注意配分や脳内処理は障害されていたためだと解釈できる.鎌倉らは数列逆唱のテストはworking memoryのテストと注意のテストのそれぞれの側面を併せ持っているということも加味して考えると,86病日目から説明文章を〈ブレーキ/を/上げる〉などの3つ以下の事柄に変更し注意配分の量を減らした結果,脳内処理が容易になったため歩行車操作が習得できたと考えられる.
【症例】80歳代後半の女性.要介護1.診断名は右大腿骨頸部骨折.受傷前ADL自立.半年前から歩行能力が低下し,トイレにて転倒.16病日目にA病院にて観血的骨接合術(CHS)実施.42病日目に当院転院.翌日からPT・OT開始.初日の印象は身なりが整った礼儀正しい婦人.会話理解は悪く,何度も説明を要し,会話中に近くを歩いた人に気を取られて会話が止まることがしばしば見られた.娘は「入院してから話の理解が悪くなった」と話していた.78病日目にPTより『一週間以上練習しても歩行車操作が覚えられない』との相談を受け,介入開始.
【作業療法評価】ROMは日常生活上制限なし.握力右11kg,左10kg.上下肢MMT3.HDS-R 20点.減点項目は年月日,曜日,場所,100-7,数列逆唱,遅延再生,語想起.歩行車はドロミテ社製オパル.ブレーキハンドルを上に引き上げるとブレーキがかかり,下に引き下げるとブレーキロックにて固定できる型式.歩行車操作の様子は起立着座時にブレーキハンドルの操作を行わないため,口頭指導するも修正できず,転倒の危険があった.
【作業療法計画】操作方法の要点を短文で書いた説明用紙を歩行車の座面に設置し,読み上げてから動作を行うように指導した.
【経過】説明用紙の導入に拒否がなかったため79病日目から介入開始.介入開始時は説明用紙を読まず,起立や着座を繰り返した.操作前に読み上げるように繰り返し説明すると,82病日目に各操作前に説明文章を読むことは習得できたが転倒の危険は変わらなかった.例えば,「立ち上がってからブレーキを上げる」と読み上げると同時にブレーキ操作を行わずに起立した.86病日目に説明文章を箇条書きに変更.86~88病日目に着座時のブレーキロック忘れは見られたが,その都度口頭指導し,箇条書きの一動作ずつを確認しながら1日10〜30分練習した.89病日目に起立時に「立つ」と用紙を見ずに呟きながら起立し,「それから(ブレーキを)上げる」と呟いてブレーキロックを解除できるようになった.92病日目に病棟内歩行車歩行の自立が可能と判断.PTからも「よほどのことがない限り,間違えない」という報告を受けた.113病日目に退院.退院時は同型の歩行車を介護保険でレンタルした.退院3ヶ月後,通院時の待合椅子に腰かけている所に偶然会った.診察室から呼ばれたところで起立した後に歩行車のブレーキロックを解除して診察室まで歩いていった.
【結果】退院時BI 95点.退院後は娘のサポートとデイサービスなどの介護保険サービスを受けながら自宅生活を行うことになった.歩行車の操作は間違えることはなくなった.
【考察】82病日目に説明用紙で操作法の習得が困難に至ったことは〈立ち上がって/から/ブレーキ/を/上げる〉という5つの単語の脳内処理が困難だったのだと考えられる.これは症例のHDS-Rの数列逆唱の結果から4つ以上の事柄の注意配分や脳内処理は障害されていたためだと解釈できる.鎌倉らは数列逆唱のテストはworking memoryのテストと注意のテストのそれぞれの側面を併せ持っているということも加味して考えると,86病日目から説明文章を〈ブレーキ/を/上げる〉などの3つ以下の事柄に変更し注意配分の量を減らした結果,脳内処理が容易になったため歩行車操作が習得できたと考えられる.