第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

高齢期

[OJ-2] 一般演題:高齢期 2

2024年11月9日(土) 16:50 〜 17:50 G会場 (206)

座長:小林 幸治(目白大学 保健医療学部作業療法学科)

[OJ-2-1] 健常高齢者における手指運動を伴うワーキングメモリ課題による認知機能と運動機能への影響

伊島 桃花1, 陳 思楠2, 中村 匡秀2, 林 敦子1 (1.神戸大学大学院保健学研究科, 2.神戸大学数理・データサイエンスセンター)

【序論】認知機能低下に関連する運動機能として手指機能が報告されている.手指機能は,日常生活において使用頻度が高く,自立した生活に重要な運動機能であり,手指運動が認知機能低下の指標となる可能性が報告されている.ペグボードや簡易上肢機能検査などを評価尺度として手指機能を用いている研究はみられるが,手指運動を介入課題とした際の認知機能と運動機能への効果を検討している研究はあまりみられない.手指運動は,座位姿勢で取り組むことができるため,高齢者も実施しやすい運動であると考えられる.手指運動による認知機能と身体機能への効果を明らかにすることにより,手指運動が両機能の低下を予防するアプローチのひとつとなる可能性がある.また,手指運動の動作は認知機能の低下を早期に発見できる指標となるかもしれない.
【目的】健常高齢者を対象に手指運動を介入課題とし,認知機能と運動機能の変化を検討する.本研究の目的は,介入課題前後の認知機能と運動機能を比較し,介入課題が両機能とどのように関連しているのかを明らかにすることである.さらに,手指運動を用いたWM課題の有用性について検討する.
【方法】健常高齢者41名(女性22名,平均76.3±7.1歳)を手指運動を伴うWM課題を行う群(A群):13名(76.5±7.4歳),手指運動を行う群(B群):14名(77.4±7.3歳),発声によるWM課題を行う群(C群):14名(75.0±7.0歳)の3群にランダムに割り当てた.手指運動として,指タッピングを実施した.介入課題の前後に認知機能評価(Mini-Mental State Examination-Japanese version,Trail Making Test-A, B(TMT-A,B),Digit Span/Tapping Spanの逆唱,リバーミード行動記憶検査の即時再生/遅延再生),運動機能評価(Purdue Pegboard Test(PPT):右手/左手/両手/右手+左手+両手(以下,right+left+both:RLB)/組み立て)を実施した.各群の介入前後比較をWilcoxon符号付順位和検定,3群間の比較をKruskal-Wallis検定,有意差がある場合は多重比較としてBonferroni検定を用い,有意水準は5%とした.本研究は,神戸大学大学院保健学研究科倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】介入前後比較において,A群はTMT-AとBの所要時間の有意な短縮がみられた.B群とC群では,認知機能に有意な変化はみられなかった.PPTでは,A群はRLB,組み立ての有意な増加,B群は右手,左手,RLBの有意な増加,C群は右手,両手,RLB,組み立ての有意な増加がみられた.群間比較では,介入前後ともに認知機能と運動機能の全項目で有意な変化を認めなかった.
【考察】介入前後比較において,A群では,TMT-AとBの所要時間の有意な短縮から手指運動を伴うWM課題が注意・遂行機能,WMに働きかける可能性が考えられた.B群とC群では,認知機能に有意な変化はみられなかったことより,手指運動を伴うWM課題が,認知機能向上に影響する可能性が示唆された.3群間の比較では,有意な変化はなく,群間差がみられるほどの介入効果はないと考えられた.PPTでは,WM課題を行ったA群とC群で組み立ての本数が有意に増加した.WM課題により,手と目の協調運動やWMを必要とする組み立てにおいて有意に増加した可能性が示唆された.左右と両手の合計点数では,3群ともに有意な増加がみられ,群間の違いよりも,課題を介入前後の2回行うことによる学習効果の方が点数の増加に影響した可能性が考えられた.