第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

高齢期

[OJ-2] 一般演題:高齢期 2

2024年11月9日(土) 16:50 〜 17:50 G会場 (206)

座長:小林 幸治(目白大学 保健医療学部作業療法学科)

[OJ-2-2] 地域在住高齢者におけるスマートフォン習熟度と健康関連アウトカムとの関連性

下木原 俊1,2, 丸田 道雄3,4, 赤崎 義彦1, 日高 雄磨1, 田平 隆行5 (1.鹿児島大学大学院保健学研究科 博士後期課程, 2.日本学術振興会 特別研究員(DC2), 3.鹿児島大学医学部 客員研究員, 4.長崎大学生命医科学域(保健学系), 5.鹿児島大学医学部保健学科 作業療法学専攻)

【背景と目的】情報通信技術の発展に伴い,高齢者のスマートフォン所有率は急速に増加している(総務省,2023).これまでの研究では,スマートフォン所持が高齢者の健康に与える影響について検討されてきたが(IPek Dongaz, et al., 2023; Yang, et al., 2022),スマートフォン習熟度を詳細に検討した報告は希少である.そこで本研究では,地域在住高齢者におけるスマートフォン利用および習熟度と健康関連アウトカムとの関連性を検討することを目的とした.
【方法】2022年10月から2023年3月に実施された地域コホート研究(垂水研究)の参加者412名のうち,65歳以上かつスマートフォンを所持している208名(平均年齢73.6±5.6歳,女性62%)の高齢者を対象とした.人口統計学的情報に加え,スマートフォン使用年数や利用しているアプリケーションを含む基本的な使用状況を評価し,Mobile Device Proficiency Questionnaireを用いてスマートフォン習熟度を評価した.健康関連アウトカムとして,認知機能(MMSE),精神心理機能(GDS-15),高次生活機能(JST版活動能力指標),基本チェックリスト,握力,歩行速度を評価した.統計解析として,年齢層別に背景比較を行ったのち,一般線形回帰モデルを用いてスマートフォン習熟度と関連する健康関連アウトカムを検討した.解析にはR ver. 4.2.2を使用し,有意水準は5%未満とした.なお,本研究は鹿児島大学疫学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施し,参加者全員からインフォームド・コンセントを得ている.
【結果】地域在住高齢者では,スマートフォン習熟度は年齢とともに低下し(p < .001),電話・カメラ・メッセージ等の基本的なアプリケーションを使用している割合が高いことが示された.さらに,スマートフォン習熟度は,JST版活動能力指標(標準化β:0.29,95% CI:0.13–0.45, p < .001)や身体機能[握力(β:0.10,0.01–0.20,p = .04),歩行速度(β:0.22,0.08–0.37,p = .003)]と有意な正の関連を認めた.
【考察】スマートフォンを使用する高齢者は,新しい技術の利用に積極的である可能性があるものの(Mitzner, et al., 2010),その習熟度は年齢によって差があることが示唆された.さらに,スマートフォン習熟度の高さは,高次生活機能や身体機能の高さと関連し,加齢に伴う機能低下を補うことができる可能性がある.本研究の結果は,デジタル社会における高齢者の生活能力や身体機能を評価する際に,スマートフォン習熟度を考慮することの重要性を浮き彫りにするものである.