[OJ-2-3] 回復期病棟に入院する高齢運動器疾患患者の抑うつ改善の臨床的特徴
【はじめに】
運動器疾患患者の約5割に抑うつを認めることが報告されている. また,運動器疾患患者における抑うつは,身体機能やActivity of Daily Living (ADL)と負の関連を認めることが報告されている. そのため,運動器疾患患者における抑うつの改善は重要である. これまで,抑うつのスクリーニングツールとしてGeriatric Depression Scale(GDS)の有用性が報告されている. 高齢者や若年女性を対象にGDSを用いた研究では,抑うつの改善がADLの改善に関連することが報告されている. しかし,回復期病棟に入院する高齢の運動器疾患患者を対象に,GDSを用いて評価した抑うつの改善について調査した報告はない. そのため,運動器疾患患者の抑うつ改善の特徴を調査することは,リハビリテーション治療の一助になることが示唆される.
【目的】
本研究は,入院時の抑うつの程度で分けた3群のGDS変化量の差を調査することを目的とした.
【方法】
本研究は単施設後向き観察研究である. 対象は2018年8月から2021年3月に回復期病棟に入院した65歳以上の運動器疾患患者とした. 年齢, 性別, 骨折型, 入退院時GDS15, 入退院時Functional Independence Measure(FIM)等を後方視的に調査した. GDSの変化量は退院時GDS15スコアから入院時GDS15スコアを差し引いて算出した. 抑うつの程度については先行研究を基準に, 入院時GDS15スコアの5点以下を非抑うつ群, 6点-10点を軽度抑うつ群, 11点以上を中等度から重度抑うつ群の3群に分けた. GDS変化量を目的とした一元配置分散分析と多重比較法( Steel-Dwass検定)を実施した. 統計解析はRを使用し, 有意水準は5%とした.
【結果】
包含基準を満たした100名を解析対象とした.平均年齢73.5歳 (79.8−88.0), 対象者の内訳は大腿骨骨折48名(48.0%), 脊椎骨折35名(35.0%), その他骨折17名(17.0%)であった. 入院時GDSスコアにより, 非抑うつ群45名(45.0%), 軽度抑うつ群27名(27.0%), 中等度から重度抑うつ群28名(28.0%)に分類された. 多重比較の結果, 中等度から重度抑うつ群は, 非抑うつ群(d=1.00, P=0.027)と軽度抑うつ群(d=0.92, P=0.020)に対してGDSの変化量が有意に高かった. 一方, 軽度抑うつ群と非抑うつ群では有意差を認めなかった(d=0.12, P=0.749).
【考察】
本研究の結果,入院時に中等度から重度の抑うつを有する者ほど, 抑うつの改善が良好であった. これまで,運動療法を含むリハビリテーション治療は,抑うつに対して有効であることが報告されている. また,運動実施時間が長いほど抑うつの改善を認めることを示唆する報告もある. 本研究では,リハビリテーション実施時間に3群間の有意差を認めなかった. したがって, 抑うつのない者と同様に中等度から重度抑うつを有する者においても, 在院中に十分なリハビリテーション治療を実施することで, 抑うつの改善が望めることが示唆される. 加えて, 統計的な有意差は認めていないが,中等度から重度の抑うつを有する者ほど,FIM利得は高くなる傾向であった. そのため,高齢で中等度以上の抑うつを有する運動器疾患患者においても,抑うつの改善にともない退院時のADLは改善する傾向が示唆された.
【説明と同意】
本研究は「人を対象とする生命科学・医学研究に関する倫理指針」を遵守し,当法人の研究倫理審査会によって承認 (番号:22-26)され,ヘルシンキ宣言に従って実施した.
運動器疾患患者の約5割に抑うつを認めることが報告されている. また,運動器疾患患者における抑うつは,身体機能やActivity of Daily Living (ADL)と負の関連を認めることが報告されている. そのため,運動器疾患患者における抑うつの改善は重要である. これまで,抑うつのスクリーニングツールとしてGeriatric Depression Scale(GDS)の有用性が報告されている. 高齢者や若年女性を対象にGDSを用いた研究では,抑うつの改善がADLの改善に関連することが報告されている. しかし,回復期病棟に入院する高齢の運動器疾患患者を対象に,GDSを用いて評価した抑うつの改善について調査した報告はない. そのため,運動器疾患患者の抑うつ改善の特徴を調査することは,リハビリテーション治療の一助になることが示唆される.
【目的】
本研究は,入院時の抑うつの程度で分けた3群のGDS変化量の差を調査することを目的とした.
【方法】
本研究は単施設後向き観察研究である. 対象は2018年8月から2021年3月に回復期病棟に入院した65歳以上の運動器疾患患者とした. 年齢, 性別, 骨折型, 入退院時GDS15, 入退院時Functional Independence Measure(FIM)等を後方視的に調査した. GDSの変化量は退院時GDS15スコアから入院時GDS15スコアを差し引いて算出した. 抑うつの程度については先行研究を基準に, 入院時GDS15スコアの5点以下を非抑うつ群, 6点-10点を軽度抑うつ群, 11点以上を中等度から重度抑うつ群の3群に分けた. GDS変化量を目的とした一元配置分散分析と多重比較法( Steel-Dwass検定)を実施した. 統計解析はRを使用し, 有意水準は5%とした.
【結果】
包含基準を満たした100名を解析対象とした.平均年齢73.5歳 (79.8−88.0), 対象者の内訳は大腿骨骨折48名(48.0%), 脊椎骨折35名(35.0%), その他骨折17名(17.0%)であった. 入院時GDSスコアにより, 非抑うつ群45名(45.0%), 軽度抑うつ群27名(27.0%), 中等度から重度抑うつ群28名(28.0%)に分類された. 多重比較の結果, 中等度から重度抑うつ群は, 非抑うつ群(d=1.00, P=0.027)と軽度抑うつ群(d=0.92, P=0.020)に対してGDSの変化量が有意に高かった. 一方, 軽度抑うつ群と非抑うつ群では有意差を認めなかった(d=0.12, P=0.749).
【考察】
本研究の結果,入院時に中等度から重度の抑うつを有する者ほど, 抑うつの改善が良好であった. これまで,運動療法を含むリハビリテーション治療は,抑うつに対して有効であることが報告されている. また,運動実施時間が長いほど抑うつの改善を認めることを示唆する報告もある. 本研究では,リハビリテーション実施時間に3群間の有意差を認めなかった. したがって, 抑うつのない者と同様に中等度から重度抑うつを有する者においても, 在院中に十分なリハビリテーション治療を実施することで, 抑うつの改善が望めることが示唆される. 加えて, 統計的な有意差は認めていないが,中等度から重度の抑うつを有する者ほど,FIM利得は高くなる傾向であった. そのため,高齢で中等度以上の抑うつを有する運動器疾患患者においても,抑うつの改善にともない退院時のADLは改善する傾向が示唆された.
【説明と同意】
本研究は「人を対象とする生命科学・医学研究に関する倫理指針」を遵守し,当法人の研究倫理審査会によって承認 (番号:22-26)され,ヘルシンキ宣言に従って実施した.