第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

高齢期 /内科疾患

[OJ-3] 一般演題:高齢期 3/内科疾患 1 

2024年11月10日(日) 09:40 〜 10:40 F会場 (201・202)

座長:本家 寿洋(北海道医療大学)

[OJ-3-2] 回復期リハビリテーション病棟におけるBPSDの経時的変化とリハビリ効果の検証

曽我部 和則1, 片桐 一敏1, 岡田 宏基2, 生駒 一憲3 (1.医療法人 喬成会 花川病院 リハビリテーション部, 2.北海道大学大学院保健科学研究院 リハビリテーション科学分野, 3.医療法人 喬成会 花川病院)

【背景】回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟)に入院する患者は75歳以上の高齢者が64.8%であり, 認知症日常生活自立度の非自立高齢者は57.8%と報告されている(回復期リハ病棟協会,2019).その中でも,行動・心理症状(Behavioral and psychological symptoms of dementia:以下,BPSD)について把握する事は重要である.先行研究の回復期リハ病棟における実態調査では運動器疾患においてBPSDの有症が認められ,入院期間中の有症率は3ヶ月間で有意な変化を認めない報告がある(佐藤ら,2021).本研究では,認知症既往歴の有無の視点から入院中のBPSD評価とリハビリ効果について縦断的な検証を行った.
【目的】回復期リハ病棟に入院した運動器疾患患者を対象にBPSDの経時的変化とリハビリ効果を検証する事.
【方法】研究期間は2022年12月から2023年5月までに当院回復期リハ病棟に入院し,3か月間の経過を追えた運動器疾患とした.取り込み基準は入院時のMMSEが23点(カットオフ値)以下の96名を対象とした.除外基準は,入院時MMSE24点以上の者,脳血管障害者等とした.BPSD評価はBPSD25Q(内藤ら,2018)を用いた.BPSD25Qは重症度と負担度を5段階で評価し,得点が高い程BPSDが高い事を表している.BPSDの発生頻度の調査は入院時評価で1点でも加点された者をBPSD有りとした.リハビリ効果の指標としてFIMの運動・認知項目とMMSE等を用いた.評価期間は入院時・1ヵ月・退院時とした.分析は96名全体におけるBPSD発生頻度の経時的調査を行った.また,認知症既往歴の有無に分類し比較した.統計手法は反復測定分散分析を用い,多重比較としてBonferroni法を用いた.有意水準は5%とした.統計解析ソフトはEZR on R commander Version1.61を用いた.
【倫理的配慮】本研究は当院倫理委員会の承認(22-003)を得ている.また,対象者・家族には本研究を口頭説明と書面にて同意を得ている.
【結果】分析対象者は96名で,平均年齢は86.4±6.3歳,男性10名で女性86名であった.BPSD有症頻度は入院時において,有りが72名で無しが24名であった.BPSD25Qの経時的変化は,重症度がP=0.45,負担度がP=0.34と有意差は認められなかった.
 入院時の認知症既往歴有り群は35名,無し群は61名であった.2群を比較したBPSD25Qの結果は,低活動スコアにおいて認知症既往歴有り群は無し群と比べて改善が認められ(重症度P=0.02,負担度P=0.008),Bonferroni法の結果は認知症既往歴有り群において入院時と退院時に有意差が認められた(重症度P=0.03 ,負担度P=0.03).2群を比較した下位項目の分析ではアパシー・不安・妄想・食異常行動などに群間と測定時期に交互作用が認められ,認知症既往歴有り群に改善が認められた.
 入院時から退院時までのリハビリ効果として,認知症既往歴の有無に関係なくMMSE・FIMの運動項目に主効果を認めた(P<0.001).FIMの認知項目は認知症既往歴有り群に主効果があり(P=0.003),無し群に主効果は認められなかった(P=0.44).
【考察】本研究の結果から,入院時から退院時まで約3ヶ月間の経過の中でBPSDの悪化や有症増加は認めず,佐藤らの研究報告と同様の傾向にあった.しかし,認知症既往歴別の調査では,無し群と比較し有り群に関してBPSD25Qの低活動スコアで改善が認められたことから,認知症既往歴有り群は入院時から低活動の傾向であり,アパシー・不安・妄想・食異常行動などがリハビリにより改善すると考えられた.認知症かつBPSDを有していてもリハビリ継続がBPSDの改善に繋がる事が示唆された.