[OJ-4-2] レビー小体型認知症の不安に対して,認知行動療法を用いて不安のセルフマネジメントを試みた一症例
【はじめに】レビー小体型認知症(以下DLB)では初期でも約20%に誤認,25%に妄想を認め,正常な社会的信念の獲得や維持が障害されるとされている(長濱康弘2020).またDLBの認知行動・心理症状として妄想や興奮,うつ,不安などがあり,その治療方針の一つとして認知行動療法(以下CBT)が挙げられている(織茂智之2020).しかし,不安障害やうつに対するCBTの有効性については既に多くの報告が見られるものの,DLBの不安にCBTを実践した報告は見られない.今回,DLBの診断を受け不安と被害妄想,誤認を主症状とする80歳代の患者を担当し,CBTを実施した結果,不安に対するセルフマネジメントが可能となり自宅復帰が可能となったため報告する.
【症例紹介】80代女性.集合住宅で次男と二人暮らし.次男は長距離運転手で家を空けることが多い.今年に入って「死んだ義母が家にいる」「部屋の地下に人が住んでいて監視している」などの妄想があり精神科を受診.DLBの診断となる.その後,内服管理のみで自宅に帰るが妄想が再燃,近隣の住民とトラブルになり自宅生活困難.X月Y日,当院入院となる.
【初期評価】X月Y日~Y+2日:認知機能の評価は長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)を実施し27点,記憶の評価は日本版リバーミード行動記憶検査(以下RBMT)を実施し標準プロフィール13点,スクリーニング:3点(視覚性の記憶は良好,聴覚性の記憶に低下を認めた).記憶力低下に対する自己認識あり.情動面の評価はhospital anxiety and depression scale(以下HADS)にて,不安尺度14点,抑うつ尺度13点.物とられ妄想や多重化を伴わない人物誤認を認めた.認知症高齢者の日常生活自立度はⅢbであった.
【方法】顕著な認知機能の低下はなく視覚性の記憶が良好であり不安が主症状であったことからCBTをY+4日目より実施した.独自に作成した行動日誌と振り返りシートを用いて不安の程度や頻度,その時の状態などを記入させ客観視させた.また肯定的に捉えている内容を中心にフィードバックを行い,不安に思っている内容は話し合い,解決策を考えさせた.作業療法士の介入は,週5日で1日40分程度実施した.
【結果】Y+53日目に行った再評価では,HDS-R:29点,RBMT:標準プロフィール:12点,スクリーニング:5点,HADSの不安尺度6点,抑うつ尺度4点となった.物とられ妄想や誤認の頻度は減少し,さらに「気晴らしに散歩に行けば大丈夫」等とセルフマネジメントが可能となりY+60日に自宅退院となった.認知症高齢者の日常生活自立度はⅠとなった.退院後も行動日誌を用いて不安のセルフマネジメントを続けており症状の悪化は見られていない.
【考察】DLBはアルツハイマー型認知症と比較しエピソード記憶が保たれるため現在の病状を理解し意思を言語化できる(齋藤朝子,小林良太他2023)とされている.今回は言語化の手段としてCBTを用いて不安のコントロールを試みた. CBTでは不安をコントロールし,上手に向き合うことが出来るように学習を促進させることが重要(坂野雄二2012)とされている.本症例では不安と上手に向き合うために行動日誌を見返すように促したことで,自分自身の状況の整理という学習が促進され, 気晴らしを行うなどのセルフマネジメントが可能になり不安の減少に繋がったのではないかと考える.以上の結果から初期のDLBで不安が主症状の場合,CBTの有用性が示唆されると思われる.
【倫理的配慮・説明と同意】対象にはヘルシンキ宣言に基づき本報告の主旨を口頭および文章にて十分に説明し同意を得た.また開示すべきCOIはない.
【症例紹介】80代女性.集合住宅で次男と二人暮らし.次男は長距離運転手で家を空けることが多い.今年に入って「死んだ義母が家にいる」「部屋の地下に人が住んでいて監視している」などの妄想があり精神科を受診.DLBの診断となる.その後,内服管理のみで自宅に帰るが妄想が再燃,近隣の住民とトラブルになり自宅生活困難.X月Y日,当院入院となる.
【初期評価】X月Y日~Y+2日:認知機能の評価は長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)を実施し27点,記憶の評価は日本版リバーミード行動記憶検査(以下RBMT)を実施し標準プロフィール13点,スクリーニング:3点(視覚性の記憶は良好,聴覚性の記憶に低下を認めた).記憶力低下に対する自己認識あり.情動面の評価はhospital anxiety and depression scale(以下HADS)にて,不安尺度14点,抑うつ尺度13点.物とられ妄想や多重化を伴わない人物誤認を認めた.認知症高齢者の日常生活自立度はⅢbであった.
【方法】顕著な認知機能の低下はなく視覚性の記憶が良好であり不安が主症状であったことからCBTをY+4日目より実施した.独自に作成した行動日誌と振り返りシートを用いて不安の程度や頻度,その時の状態などを記入させ客観視させた.また肯定的に捉えている内容を中心にフィードバックを行い,不安に思っている内容は話し合い,解決策を考えさせた.作業療法士の介入は,週5日で1日40分程度実施した.
【結果】Y+53日目に行った再評価では,HDS-R:29点,RBMT:標準プロフィール:12点,スクリーニング:5点,HADSの不安尺度6点,抑うつ尺度4点となった.物とられ妄想や誤認の頻度は減少し,さらに「気晴らしに散歩に行けば大丈夫」等とセルフマネジメントが可能となりY+60日に自宅退院となった.認知症高齢者の日常生活自立度はⅠとなった.退院後も行動日誌を用いて不安のセルフマネジメントを続けており症状の悪化は見られていない.
【考察】DLBはアルツハイマー型認知症と比較しエピソード記憶が保たれるため現在の病状を理解し意思を言語化できる(齋藤朝子,小林良太他2023)とされている.今回は言語化の手段としてCBTを用いて不安のコントロールを試みた. CBTでは不安をコントロールし,上手に向き合うことが出来るように学習を促進させることが重要(坂野雄二2012)とされている.本症例では不安と上手に向き合うために行動日誌を見返すように促したことで,自分自身の状況の整理という学習が促進され, 気晴らしを行うなどのセルフマネジメントが可能になり不安の減少に繋がったのではないかと考える.以上の結果から初期のDLBで不安が主症状の場合,CBTの有用性が示唆されると思われる.
【倫理的配慮・説明と同意】対象にはヘルシンキ宣言に基づき本報告の主旨を口頭および文章にて十分に説明し同意を得た.また開示すべきCOIはない.