第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

高齢期 / 認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OJ-4] 一般演題:高齢期 4/ 認知障害(高次脳機能障害を含む) 5  

2024年11月10日(日) 10:50 〜 11:50 F会場 (201・202)

座長:村田 和香(群馬パース大学 リハビリテーション学部)

[OJ-4-4] 認知症を伴う施設入所高齢者の睡眠の特徴について

西 聡太, 田中 昭成, 當利 賢一, 大久保 智明, 野尻 晋一 (介護老人保健施設清雅苑 清雅苑リハビリテーション部)

【はじめに】地域在住の記憶障害のある高齢者を対象とした睡眠に関する研究は散見されるが,記憶障害のある施設入所者(認知症群)の睡眠の特徴を報告したものは少ない.更に,認知症群と記憶障害のない高齢者(正常群)において客観的に評価した夜間睡眠時間,睡眠潜時,睡眠効率,中途覚醒時間,離床回数などの特徴は明らかになっていない.
【目的】本研究の目的は,当施設における認知症を伴う施設入所者における客観的な睡眠の特徴を明らかにすることである.
【方法】対象は2021年4月1日から2023年6月30日までに介護老人保健施設清雅苑(以下,当苑)に新規入所した65歳以上の要介護高齢者136名である.除外基準は,睡眠時無呼吸症候群等,睡眠に影響を及ぼす疾患の診断がある者,常時臥床,重度の認知機能障害や失語症で基本的欲求の表出や意思の疎通が出来ず,睡眠と覚醒の判断が困難な者とした.対象者の基本属性として,年齢,性別,要介護度,主疾患,睡眠薬服用の有無,障害高齢者の日常生活自立度,HDS-Rを電子カルテ上より取得した.睡眠の客観的評価は,パラマウントベッド株式会社製非装着型睡眠計を使用した.①取得したHDS-Rの21点以上を正常群,20点以下を認知症群の2群に分けた.②2群間の属性に特徴がないか,年齢,性別,要介護度,主疾患,睡眠薬服用の有無,障害高齢者の日常生活自立度を2群間で比較した.③認知症群の睡眠の特徴を調べるため,認知症の有無を従属変数,夜間睡眠時間,睡眠潜時,睡眠効率,中途覚醒時間,離床回数を独立変数とし,二項ロジスティック回帰分析を行った.倫理的配慮として,当研究は社会医療法人寿量会の臨床研究審査委員会の承認を受けている.(承認番号:JMC391-2329)
【結果】①の結果は,正常群が60名,認知症群が76名であった.②の結果は,正常群/認知症群の平均年齢は82±8.9歳/84.6±10,性別は男性15/20名,女性が45/56名,要介護度はⅠが8/13名,Ⅱが23/15名,Ⅲが19/26名,Ⅳが9/14名,Ⅴが1/8名,主疾患は脳血管障害が24/24名,整形疾患が28/43名,その他が8/9名,睡眠薬の有無については,ありが25/25名,無しが35/51名,障害高齢者の日常生活自立度は,Aが23/19名,Bが37/57名であった.それぞれ,2群間の比較では有意差な差は見られなかった.③の結果は,夜間睡眠時間OR 1.009,95%CI 1.0041-1.0140)と中途覚醒時間(OR 1.013,95%CI 1.0064-1.0210)が抽出された.
【考察】
二項ロジスティック回帰分析の結果,夜間睡眠時間と中途覚醒時間の2つが抽出された.認知症高齢者の夜間の睡眠時間については,短い睡眠時間と過剰な睡眠時間があると報告されている.施設入居者は起床時間と消灯時間が決められているため,一定の睡眠時間が確保されていることから,抽出された夜間睡眠時間の中でも,過剰な睡眠時間の方が認知症のリスクとなったと考える.また,中途覚醒時間は睡眠の質の指標であり,睡眠の質の低下は脳の老化を促進し認知症をもたらすと報告されている.以上より,当施設の入所者の睡眠の特徴からケアや取り組みを考えると,睡眠時間の長い利用者に対しては,個人の睡眠パターンを把握し,認知症の発症リスクの少ない5~7時間の睡眠時間になるように工夫することが挙げられる.また,当苑では日中覚醒を促進するため,可能な範囲で離床を促している.そのため,夕食後に早めにベッドで休むことが多いと推測される.就床から入眠までの時間が長いと中途覚醒回数が増加するといわれていることから,夕食後に就床する際は就寝時間に合わせることが必要であると考える.このことから,個人の心身状態に合わせた起床から就寝までの一日の過ごし方を検討することと睡眠の質の観察を行うことで,認知症の促進予防も可能となると考える.