第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-1] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む)1

2024年11月9日(土) 12:10 〜 13:10 G会場 (206)

座長:緑川 学(くじらホスピタル リハビリテーション科)

[OK-1-1] 簡易自動車運転シミュレーターにおける適応分類には何が関連するのか

~多変量解析による3 群間の比較検討~

木下 洋平, 田中 拓樹, 竹本 朋子, 武谷 秀一, 峰岡 貴代美 (社会医療法人青洲会 福岡青洲会病院 リハビリテーション部)

【序論】当院では脳損傷後高次脳機能障害を呈した患者の運転再開判断のため,神経心理学的検査に加え,必要に応じ簡易自動車運転シミュレーター(Simple Driving Simulator:以下SiDS)を実施し(結果は適性あり,境界,なしに分類)その一助としている.先行研究にてSiDSの有効性の報告(門田隆,2020)はあるが,時に各結果にばらつきが生じ,なぜその群に分類されたのか病態や運転特性の把握,支援に悩む場合がある.また,境界群含めた3群間の多変量解析の検討結果は不明である.そこで今回,運転適正あり,境界,なしに分類される要因について検証し,一定の知見を得たため以下に報告する.
【目的】SiDSの結果3群に振り分けられる際,各神経心理学的やSiDSの下位項目の内,何れの項目が関連する因子になるか多変量解析を用いて明らかにする.
【方法】対象は当院急性期~生活期の脳損傷者で,重要な神経心理学的検査とSiDSが実施出来た者とした.SiDSより3群(適性あり,境界,なし)に分類し,境界群を軸とし各検査結果について比較した.統計解析は一元配置分散分析(Tukey法),Kruskal-Wallis検定を実施した.次に,有意差が生じた項目に基づき,多項ロジスティック回帰分析(強制投入法)を実施した.何れの処理も有意水準5%,統計ソフトSPSS Ver19を用いた.尚本研究は当院倫理委員会の承認を得,後方視的研究のため個人情報保護のみに配慮した.
【結果】対象は55名(男性45,女性10),疾患は脳卒中39名(脳梗塞21,脳出血15,くも膜下出血3),頭部外傷16名であった.SiDSの結果群毎の特性は,運転適性あり群19名(平均年齢55.2±9.7,経過日数中央値15〔7-58〕,FIM認知項目(以下認知)35.5,TMT J-A37.4±7.1,B中央値69.1,SiDS認知反応0.82,注意配分0.87),境界群17名(52.5±10.9, 22〔7-34〕,32.1,46.3±14.5,80.5,0.98,1.04),なし群19名(59.1±9.1,15〔6-51〕,31.1,76.1±20.5,82,1.2,1.52)となった.
 次に,単変量解析の結果より認知,TMT J-A,SiDS(認知反応,注意配分)に有意差を認めた(p<0.05).多項ロジスティック回帰分析では従属変数を運転適性3群(境界群を軸),共変量を認知とし,TMT J- A(オッズ比0.89,95%CI 0.79-0.99,p<0.05)が抽出され,TMT J-Aが短縮するほど境界群から適性あり群へ移行することが分かった.一方で変数を変えた場合,共変量を認知とし,SiDS注意配分(オッズ比1.24,95%CI 1.01-1.53 p<0.05)が抽出され,遅延が生じるほど境界群から適性なし群へ移行することが分かった.最後に,共変量を認知とし,各神経心理学的検査結果を強制投入したが,境界群から適性なし群への移行を認める項目はなかった.尚モデル適合度p<0.01,各変数同士において相関係数0.85を超えるものはなく,多重共線性の問題はなかった.
【考察】多変量解析を行った結果,適性分類の際,注意機能(持続,選択,配分)と視覚探索において独立して関連が認められると分かった.これらの値の変動が運転適性へ影響を及ぼすことに,一定の信頼性を有するに至ったのではないかと考える.適性ありと境界の比較ではTMT J-Aによる影響が際立ち,先行研究と一致する(加藤貴志,2017).適性なしと境界の比較では,SiDSによる影響が際立つ一方,各高次脳機能では有意差を認めなかった.シミュレーターの実施意義は諸説あるが,より正確な適性判断を行うためにSiDS実施の有用性も示されたかと考える.もちろんTMT-A単体,また,SiDS下位項目単体で判定は成されず総合的な判断が必要である.ただ,注意諸機能,視覚探索能力の把握が一層重要であるという点が,本研究によって示唆された.