第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-1] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む)1

2024年11月9日(土) 12:10 〜 13:10 G会場 (206)

座長:緑川 学(くじらホスピタル リハビリテーション科)

[OK-1-3] 回復期リハビリテーション病棟入院中から通学を開始し復学に至った症例

菅原 大地1, 夏原 耀一1,2, 林 敦史1, 西田 克彦1, 中村 春基1 (1.医療法人社団 和風会 千里リハビリテーション病院, 2.神戸学院大学大学院 総合リハビリテーション学研究科)

【はじめに】入院時頭部CT画像より,左上・中側頭回皮質下を中心に低吸収域を認め,左聴放線・Papez回路・Yakovlev回路での注意・記憶・言語障害が推察された脳卒中患者に対して,入院中から段階的に通学し,病院・大学・家族で連携を行い復学に至った症例を報告する.尚,本報告は症例の同意を得ている.
【症例紹介】10代男性.左側頭葉出血・脳皮質静脈血栓症と診断.第24病日に当院へ入院となった.病前は野球推薦で大学入学予定のため他県へ転居.大学より数駅離れたアパートで一人暮らしを開始したところであった.本人の希望は復学しバイトや部活動への参加,最終目標は教員免許の取得であった.
【作業療法評価】身体機能面は運動・感覚機能に問題なく,ADLへの支障はなし.高次脳機能面はSLTAより聴覚的把持力の低下,WAIS-Ⅳより言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度の成績低下,WMS-Rより言語性記憶・一般的記憶・注意/集中力・遅延再生の成績低下がみられた.一人暮らしに必要なIADLは買い物・調理であった.復学の評価としては,通学で病識理解・計画性の低下,聴講で持続性注意・読解の精度・同時作業力・記憶の低下,レポート作成などではPC操作不慣れ等の問題が明らかになった.
【目標とプログラム】最終目標を復学として(1)前期(第24~44病日)は,持続性注意の向上を目的にトランプ課題を行った.また,PC操作の獲得と習慣化・記憶の改善を目的に新聞内容のタイピング・PQRST法で介入した.(2)後期(第45~105病日)は,具体的な復学に向けて実際の通学及び聴講による評価を実施し前述の問題が明らかになった.通学の実用性獲得については週2回通学し,具体的問題について振り返りの中で原因の解明と対応方法を本人と検討した.講義の理解向上については,問題についての原因を医学的に検討し,本人・大学・家族に助言を行った.オンライン講義への対応についても同様な介入を行った.(3)IADL課題として買い物・調理課題を行った.運動は易出血性による運動制限よりジョギング・キャッチボールなどに留めた.
【介入と結果】(1)トランプでの介入は,視覚的集中できる環境で馴染みのある神経衰弱等を行い徐々に持続性注意が改善した.PCでの介入は,文章課題のタイピングにおいて誤脱字・内容理解の不十分さが目立ったため,興味のある写真を含む課題から段階的に実施.結果,PC操作の獲得・記憶・読解能力が改善した.(2)通学では道順・電車の時刻などを確認して実施したが,乗り継ぎで間違った電車に乗ってしまう.それを問題と自覚できない点について原因と影響について話し合い,通学を繰り返し実用レベルで計画に沿って行動ができるようになった.聴講における前述の問題については本人・大学・家族へ助言を行い,板書や講義の撮影・試験方法・オンデマンド配信など大学側の配慮が実現した.院内では動画とオンライン講義を本人と聴講し,メモでの代替・まとめ方について確認し習熟を図った.結果,要点をまとめられるようになり内容理解が深まった.また自発的に分からない箇所を調べる・質問する等の変化がみられた.(3)IADL課題(買い物・調理)は,品数や金額を変えるなどの段階付けを行い,問題がないことを確認した.
【まとめ】今回,入院中からの復学支援において,実際の通学・聴講等で顕在化した種々の課題に対して,医学的な側面からの解釈と助言は本人・大学・家族における配慮に有効であった.また令和3年9月30日の「タスク・シフト/シェアの推進について」の通達で述べられているように,医療施設にとらわれず,目的に沿った環境での評価・介入も必要と思われた.