[OK-1-4] holistic face trainingを一部改変し,両側側頭葉脳出血後の後天性相貌失認に対して介入を試みた急性期作業療法の一例
【はじめに】相貌失認とは顔を認識する能力の障害であり,器質的脳損傷がない先天性相貌失認(Developmental Prosopagnosia:DP)と,器質的脳損傷によって生じる後天性相貌失認(Acquired Prosopagnosia:AP)がある.APに対して有効な訓練の報告は少なく,今回,DPに対するholistic face training (DeGutis J et al,2014)を一部改変し,両側側頭葉脳出血後のAPを呈した症例に介入を試みたため報告をする.本発表について症例より同意を得ている.
【症例】症例は50代女性,利き手は右手であった.発症前は小学校教員をしていた.普段と様子が違うことに気づき当院受診となり,脳皮質下出血の診断となった.頭部CTでは両側側頭葉に高吸収域を認めた.第2病日に作業療法開始し,第42病日に回復期病院へ転院となった.
【初期評価】運動麻痺や感覚障害,失語症は認めなかった.当初から「見え方がおかしい」と訴えがあった.HDS-R 28点,レーヴン色彩マトリックス検査34/36点,Rey複雑図形検査 36/36点と認知機能,構成機能は保たれていた.標準高次視知覚検査(VPTA)は,物体・画像認知(絵の呼称11/16,絵の分類8/14,状況図6/8),相貌認知(有名人の命名16/16,有名人の指示16/16,家族の顔6/6,表情の叙述4/6,老若の判断8/8),シンボル認知(記号の認知8/8,単語・漢字5/12)の項目で減点があり,特に相貌認知では顕著に減点を認めた.家族や職場の教員の写真を見ても「普段と見え方が違う,誰かわからない」「家族も洋服を見ないとわからない」と発言があり,顔を見ただけではわからなかった.また,売店で買い物をしようと思っても,物体失認のため欲しい物を選ぶことができなかった.自宅や職場の風景を見ても街並失認のため場所がわからず,院内の移動にも介助が必要であった.
【経過】holistic face trainingは顔全体の処理を対象とする認知トレーニングである.眉の高さと口の高さを2mm刻みで変化させた10パターンの顔を,眉が高い群と口が高い群に分ける識別課題を実施した.課題導入時は戸惑いがみられ,「わからない」とerror場面を多く認めた.繰り返すうちに,「眉からの距離に注目すればいいのか」と意識的な発言もみられ,眉・目の距離と,口・鼻の距離を考える場面が増えた.徐々にtry and error繰り返しながら正答が増えた.正答する毎に図の顔の大きさを小さくしていくことで難易度調整を行った.「見え方が最初とは変わった」との発言も経過でみられた.また,移動は第24病日に院内移動が自立し,買い物は商品の文字情報と色を頼りに商品選択をすること,普段買う商品の配置を覚えることで自立となった.
【最終評価】VPTAは,物体・画像認知(絵の呼称0/16,絵の分類0/14,状況図0/8),相貌認知(有名人の命名2/16,有名人の指示0/16,家族の顔0/6,表情の叙述0/6,老若の判断4/8),シンボル認知(記号の認知0/8,単語・漢字0/12)といずれの項目も変化がみられていた.しかし,相貌認知の老若の判断では減点がみられていた.家族の写真がわかるようになり,職場の教員の写真も時間を要すがわかるようになっていた.
【考察】今回,両側側頭葉脳出血を認め,APを呈した症例に対して,DeGutis JらのDPに対するholistic face trainingを一部改変し実施した.介入メカニズムとしては,眉・目と口・鼻と間隔情報を組み合わせることで顔全体の空間統合能力を拡大するとされている.また,個人的に関連のある顔の認識を強化する代償的訓練とは違い,新規の顔にも適応できるともされている.本症例は急性期で,自然回復の影響を考慮すべきで,介入効果を一般化することはできないが,APに対して改善する可能性がみられた.
【症例】症例は50代女性,利き手は右手であった.発症前は小学校教員をしていた.普段と様子が違うことに気づき当院受診となり,脳皮質下出血の診断となった.頭部CTでは両側側頭葉に高吸収域を認めた.第2病日に作業療法開始し,第42病日に回復期病院へ転院となった.
【初期評価】運動麻痺や感覚障害,失語症は認めなかった.当初から「見え方がおかしい」と訴えがあった.HDS-R 28点,レーヴン色彩マトリックス検査34/36点,Rey複雑図形検査 36/36点と認知機能,構成機能は保たれていた.標準高次視知覚検査(VPTA)は,物体・画像認知(絵の呼称11/16,絵の分類8/14,状況図6/8),相貌認知(有名人の命名16/16,有名人の指示16/16,家族の顔6/6,表情の叙述4/6,老若の判断8/8),シンボル認知(記号の認知8/8,単語・漢字5/12)の項目で減点があり,特に相貌認知では顕著に減点を認めた.家族や職場の教員の写真を見ても「普段と見え方が違う,誰かわからない」「家族も洋服を見ないとわからない」と発言があり,顔を見ただけではわからなかった.また,売店で買い物をしようと思っても,物体失認のため欲しい物を選ぶことができなかった.自宅や職場の風景を見ても街並失認のため場所がわからず,院内の移動にも介助が必要であった.
【経過】holistic face trainingは顔全体の処理を対象とする認知トレーニングである.眉の高さと口の高さを2mm刻みで変化させた10パターンの顔を,眉が高い群と口が高い群に分ける識別課題を実施した.課題導入時は戸惑いがみられ,「わからない」とerror場面を多く認めた.繰り返すうちに,「眉からの距離に注目すればいいのか」と意識的な発言もみられ,眉・目の距離と,口・鼻の距離を考える場面が増えた.徐々にtry and error繰り返しながら正答が増えた.正答する毎に図の顔の大きさを小さくしていくことで難易度調整を行った.「見え方が最初とは変わった」との発言も経過でみられた.また,移動は第24病日に院内移動が自立し,買い物は商品の文字情報と色を頼りに商品選択をすること,普段買う商品の配置を覚えることで自立となった.
【最終評価】VPTAは,物体・画像認知(絵の呼称0/16,絵の分類0/14,状況図0/8),相貌認知(有名人の命名2/16,有名人の指示0/16,家族の顔0/6,表情の叙述0/6,老若の判断4/8),シンボル認知(記号の認知0/8,単語・漢字0/12)といずれの項目も変化がみられていた.しかし,相貌認知の老若の判断では減点がみられていた.家族の写真がわかるようになり,職場の教員の写真も時間を要すがわかるようになっていた.
【考察】今回,両側側頭葉脳出血を認め,APを呈した症例に対して,DeGutis JらのDPに対するholistic face trainingを一部改変し実施した.介入メカニズムとしては,眉・目と口・鼻と間隔情報を組み合わせることで顔全体の空間統合能力を拡大するとされている.また,個人的に関連のある顔の認識を強化する代償的訓練とは違い,新規の顔にも適応できるともされている.本症例は急性期で,自然回復の影響を考慮すべきで,介入効果を一般化することはできないが,APに対して改善する可能性がみられた.