第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-1] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む)1

2024年11月9日(土) 12:10 〜 13:10 G会場 (206)

座長:緑川 学(くじらホスピタル リハビリテーション科)

[OK-1-5] 開放性脳挫傷により高次脳機能障害を呈した症例に対して目標設定に難渋した作業療法の経験

柊 直輝, 山田 隆貴, 田野 聡, 高岡 克宜, 澁谷 光敬 (医療法人橋本病院 リハビリテーション部)

【はじめに】Shared decision making(以下,SDM)は患者の主体的な意思決定の参加を促すことで自己効力感や満足感などに効果があると報告されている.今回,開放性脳挫傷を呈し,人工骨移植を控えた症例を担当し,SDMを基に介入したが目標設定に難渋した経過を以下に報告する.なお,本報告にあたり倫理的配慮として本人,家族より説明の上,書面にて同意を得ている.
【症例紹介】30歳代男性, 診断名は開放性脳挫傷, X年Y月Z日県外より来県した際,船舶から転落しスクリューで頭部外傷受傷し救急搬送.同日開頭血腫除去及び感染骨除去施行.Z日+35日後,当院回復期病棟へ入棟.左同名半盲,左半側空間無視を認めた.病前は独居,職業は美容師.Demandsは復職.
【初期評価】脳神経評価は対座法での視野検査にて左同名半盲.上肢機能評価はFMAR126点/L125点,左上肢のMAL-AOU3,MAL-QOM3.1.高次脳機能評価はMMSE30/30点,Kohs立方体組み合わせテスト30点(IQ65),TMT-JpartA102秒,partB189秒.ADL評価は日本語版Catherine Bergego Scale (以下,CBS)3/30点,FIM117/126点であった.
【介入経過】<第1期>初期の面接での聴取より美容師の復職は難しいと捉えていることが分かった.職業柄,実店舗での作業を通して症例自身や他者評価を受けずには具体的な復職の過程が不明瞭ということを症例とセラピストにて問題点として共有した.目標としては構成や上肢機能の機能回復に対して介入した.<第2期>IADL拡大を図り,屋外歩行,買い物を実施した.その際に屋外歩行では壁に衝突しそうな場面がみられた.買い物では左側の商品の見落としが顕著であった.症例との振り返りにて左側の情報や刺激に対する処理が困難であるが,「どう代償すべきか分からない」という訴えより定期的に屋外活動を実施したが効果的な代償の獲得には至らなかった.これより目標の再設定を図り,カナダ作業遂行測定(以下,COPM)を用いた.また,目標設定の認識の乖離を防ぐためにクライエントと作業療法士の協業関係尺度(以下,CRS)を併用し再評価を実施,結果はCOPMにて最も重要度が高い作業に「散髪をする」が挙がり,満足度2,遂行度5.CRSは37点であった.症例と相談し,実際にセラピストの散髪を行う了承を得て実施した.<第3期>散髪の作業後に症例より左上肢の回復が感じられず,「安定したサービスの提供は時間を要するため復職は諦める」という発言が聞かれた.再評価にてCOPMの「散髪をする」は満足度2,遂行度1と低下,CRSは42点と向上がみられた.展望として「人工骨移植は不安であるが別の仕事をするために転院先でも新しい課題を見つけたい」と前向きな発言が聞かれた.再手術後は地元にある医療機関へ転院となり,その転院先の医療機関へ評価内容と経過を申し送った.
【最終評価】Z日+68日後,左同名半盲は残存.FMAR126点/L125点,左上肢のMAL-AOU4,MAL-QOM3.5.Kohs立方体組み合わせテスト31点(IQ66),TMT-JpartA55秒,partB74秒,CBS1/30点,FIM117/126点にてMALは得点が向上し,TMT-Jは短縮を認めた.
【考察】高次脳機能障害において若年者では術後の機能低下が就労の可否に影響し得ると述べられている(澤田,2010).症例においては評価では向上を認めたが左側の情報処理低下,左上肢機能低下の自覚があり入院期間中の具体的な目標設定は困難であったものの,意思決定を共有できたことは有効な関わりであったと考える.今後,症例は医療機関での治療を受けながら生活することが想定されるため,今回のSDMを基にした関わりを申し送れたことは症例の社会的な支援に繋がるのではないかと考える.