[OK-2-1] 左半球損傷患者の道具使用障害における運動学的特徴
~運動学的解析を用いた検討~
【はじめに】左半球損傷患者に生じる高次脳機能障害の一つである失行症は道具使用障害を呈する.道具使用障害は,運動方向や運動の幅の誤りなどを特徴とした空間的エラー,運動を行うタイミングやリズムのズレなどを特徴とした時間的エラーを呈する.このような時空間的なエラーは,左半球損傷患者の道具使用の運動計画や実行機能障害を反映している可能性があり,失行症の病態解釈において道具使用時の運動制御の分析は重要と考えるが,左半球損傷患者における道具使用時の運動学的特徴を分析した報告は少ない.今回,三次元動作解析装置を用いて,左半球損傷患者における道具使用時の運動学的特徴を検討した.
【対象】対象は左半球損傷患者3名と健常成人1名(CL),全症例右利き.左半球損傷患者は失行症の重症度を評価するApraxia screen of TULIA(AST,cutoff値:9点)で,失行症患者1名(Case1,左中大脳動脈梗塞,AST:6点,感覚性失語)と非失行症患者2名(Case2,左頭頂葉皮質下出血,AST:11点,失語症なし/Case3,左被殻出血,AST:12点,運動性失語)に分類した.失行症患者は,ASTの模倣やパントマイムで手指の形や動かす方向の誤りなど空間性エラーを認め,実際の道具使用評価でも空間性エラーを認め,エラーに対する気づきは乏しかった.
【方法】対象者は,左手で机上に置かれた金槌と釘を使用する課題(道具使用条件)を実施し,三次元動作解析装置にて,反応時間(開始合図から運動開始までの時間),物品を把握するまでのリーチング時の上肢運動最大速度(ピーク速度),ピーク速度出現時間,金槌動作時の上肢運動最大速度を算出した.またリーチングにおける特徴が道具使用のみに特異的かを検討するため,金槌を把握して隣の籠に移すだけの課題(物品移動条件)を実施した.全症例,別の道具にて練習課題を行い,課題理解を得られてから実験課題へ移行した.本報告に際して,対象者より口頭及び紙面にて同意を得ている.
【結果】物品移動条件は,反応時間は左半球損傷患者3名にCLと比較し遅延を認めた.リーチング時のピーク速度,ピーク速度出現時間は各症例で著明な差を認めず.道具使用条件において,左半球損傷患者3名の反応時間はCLに比べ遅延し,失行症患者に最も遅延を認めた.また失行症患者は,リーチング時のピーク速度が他の対象者と比べ低下し,ピーク速度出現時間が早かった.条件別の比較では,失行症患者は物品移動条件と比較し,道具使用条件で反応時間遅延やリーチング時のピーク速度減少,ピーク速度出現時間を早期に認めた.金槌動作時の上肢運動最大速度は, CLと比較して左半球損傷患者3名で低下を認めた.
【考察】反応時間遅延やリーチング時のピーク速度低下,ピーク速度出現時間の早期化は,フィードフォワードの障害(運動計画の障害)を反映する.失行症患者に認めた上記の特徴は,道具使用における運動計画の障害がリーチングの時空間的制御に影響を与えた可能性が考えられた.また物品移動条件より道具使用条件で上記の障害を認めており,道具使用に特異的な特徴である可能性が考えられた.
【対象】対象は左半球損傷患者3名と健常成人1名(CL),全症例右利き.左半球損傷患者は失行症の重症度を評価するApraxia screen of TULIA(AST,cutoff値:9点)で,失行症患者1名(Case1,左中大脳動脈梗塞,AST:6点,感覚性失語)と非失行症患者2名(Case2,左頭頂葉皮質下出血,AST:11点,失語症なし/Case3,左被殻出血,AST:12点,運動性失語)に分類した.失行症患者は,ASTの模倣やパントマイムで手指の形や動かす方向の誤りなど空間性エラーを認め,実際の道具使用評価でも空間性エラーを認め,エラーに対する気づきは乏しかった.
【方法】対象者は,左手で机上に置かれた金槌と釘を使用する課題(道具使用条件)を実施し,三次元動作解析装置にて,反応時間(開始合図から運動開始までの時間),物品を把握するまでのリーチング時の上肢運動最大速度(ピーク速度),ピーク速度出現時間,金槌動作時の上肢運動最大速度を算出した.またリーチングにおける特徴が道具使用のみに特異的かを検討するため,金槌を把握して隣の籠に移すだけの課題(物品移動条件)を実施した.全症例,別の道具にて練習課題を行い,課題理解を得られてから実験課題へ移行した.本報告に際して,対象者より口頭及び紙面にて同意を得ている.
【結果】物品移動条件は,反応時間は左半球損傷患者3名にCLと比較し遅延を認めた.リーチング時のピーク速度,ピーク速度出現時間は各症例で著明な差を認めず.道具使用条件において,左半球損傷患者3名の反応時間はCLに比べ遅延し,失行症患者に最も遅延を認めた.また失行症患者は,リーチング時のピーク速度が他の対象者と比べ低下し,ピーク速度出現時間が早かった.条件別の比較では,失行症患者は物品移動条件と比較し,道具使用条件で反応時間遅延やリーチング時のピーク速度減少,ピーク速度出現時間を早期に認めた.金槌動作時の上肢運動最大速度は, CLと比較して左半球損傷患者3名で低下を認めた.
【考察】反応時間遅延やリーチング時のピーク速度低下,ピーク速度出現時間の早期化は,フィードフォワードの障害(運動計画の障害)を反映する.失行症患者に認めた上記の特徴は,道具使用における運動計画の障害がリーチングの時空間的制御に影響を与えた可能性が考えられた.また物品移動条件より道具使用条件で上記の障害を認めており,道具使用に特異的な特徴である可能性が考えられた.