[OK-2-3] 車椅子シーティングにより半側空間無視の視野領域が変化した症例
【目的】近年,半側空間無視(Unilateral Spatial Neglect: USN)に対する没入型バーチャル・リアリティー(Virtual Reality:VR)による評価及び治療への有効性が報告されている(田村,2021). USN対象者の座位姿勢の変化に対する視野の影響に関する報告は少ない.シーティングは座位姿勢を調整し,対象者等と共有した目標を実現,活動と参加が促進するとされている(厚生労働省,2022).今回は,ベッド上では食べこぼしが多く,シーティングにて,姿勢や視野,上肢操作性の面から環境設定を考慮する必要があった.今回USNを呈した脳卒中患者に対し車椅子シーティング角度設定ごとのVRによる視野計測と上肢操作,食べこぼし量から食事摂取時の最適な姿勢を検討することとし,以下に報告する.
【症例】50代男性,診断は慢性硬膜下血種で,CT画像初見で右頭頂葉に高吸収域を認め,ADL場面で左USNの症状が出現した.Brunnstrom recovery Stage,Ⅰ-Ⅱ-Ⅰ,MMSE24点,Tail Making Test A・B,左側に気付けず中断, Behavioural inat-tention test(以下:BIT)通常項目46点.端座位では上肢の支持がないと次第に崩れる状態であった.
【方法】座位のマット評価により,安楽姿勢と活動的座位姿勢の支持ありなしの3パターンの姿勢を同定.安楽姿勢は前方を視認しやすい頭頸部角度にした.活動的座位姿勢は机上での上肢操作がしやすい骨盤角度となるように設定し,Wheelchair Seating Arm Function Test(以下:WS-AFT)で上肢機能の判定を行った. 3パターンの姿勢について右側面から撮影した画像より2次元デジタイズソフトウェアのrysisを用いて角度計測をした.この角度計測結果をもとに,ティルト・リクライニング車椅子の座背角を設定.視野領域の効果判定にて VRの3Dボールテストで視野領域を左右90°の範囲で評価し,HOPEは「ご飯をしっかり食べたい」とあり,カナダ作業遂行モデル(以下:COPM)で評価.食べこぼし量も計測した.
【倫理的配慮】本報告は対象者から同意を得ており報告すべきCOIに関係する企業はない.
【結果】3パターンの姿勢における頭部線,頸部線,骨盤線の角度計測の結果は,安楽姿勢(38°/47°/-44°),活動的座位姿勢支持なし(28°/56°/-25°),活動的座位姿勢支持あり(25°/35°/-18°)であった.この角度に近い姿勢になるようティルト・リクライニング車椅子の座背角を安楽姿勢では120°,活動的座位姿勢では107°とした.活動的姿勢の支持ありではWS-AFTの総合時間が減少し,食べこぼし量の減少とCOPM満足度・遂行度が共に5から9へ向上が見られた.VRの結果は,活動的座位姿位の上肢支持無しで左領域が‐5から‐90°,上肢支持有は‐35°から‐90°,安楽姿勢では見落としが見られなかった.
【考察】活動的座位姿勢の支持ありで視野領域の拡大に至った要因として,有光らは左USNに対し,シーティングにて頸部,体幹,骨盤が共に正中方向に設定し,左側を認知しやすい環境設定が重要と述べている.そのため,支持なしでは体幹が安定せず,頸部が右偏移になりやすいポジションとなり,ボールへの気付きが減少したと考える.また,安楽座位姿位では支持基底面の拡大による頸部,体幹の安定性が確保できたことが,頸部回旋運動が容易になり,左側への空間性注意拡大に寄与したと考える. 活動的座位姿位にて,上肢支持でCOPM向上,食べこぼしやWS-AFTの総合時間の短縮が見られたが,視野領域の縮小に繋がったことで,ADL場面での環境調整に対し再評価の重要性が示唆される.今回は上肢操作と食べこぼしの結果を総合的にみて,COPMの結果も考慮し,活動的な姿勢で実際の食事を行うこととした.
【症例】50代男性,診断は慢性硬膜下血種で,CT画像初見で右頭頂葉に高吸収域を認め,ADL場面で左USNの症状が出現した.Brunnstrom recovery Stage,Ⅰ-Ⅱ-Ⅰ,MMSE24点,Tail Making Test A・B,左側に気付けず中断, Behavioural inat-tention test(以下:BIT)通常項目46点.端座位では上肢の支持がないと次第に崩れる状態であった.
【方法】座位のマット評価により,安楽姿勢と活動的座位姿勢の支持ありなしの3パターンの姿勢を同定.安楽姿勢は前方を視認しやすい頭頸部角度にした.活動的座位姿勢は机上での上肢操作がしやすい骨盤角度となるように設定し,Wheelchair Seating Arm Function Test(以下:WS-AFT)で上肢機能の判定を行った. 3パターンの姿勢について右側面から撮影した画像より2次元デジタイズソフトウェアのrysisを用いて角度計測をした.この角度計測結果をもとに,ティルト・リクライニング車椅子の座背角を設定.視野領域の効果判定にて VRの3Dボールテストで視野領域を左右90°の範囲で評価し,HOPEは「ご飯をしっかり食べたい」とあり,カナダ作業遂行モデル(以下:COPM)で評価.食べこぼし量も計測した.
【倫理的配慮】本報告は対象者から同意を得ており報告すべきCOIに関係する企業はない.
【結果】3パターンの姿勢における頭部線,頸部線,骨盤線の角度計測の結果は,安楽姿勢(38°/47°/-44°),活動的座位姿勢支持なし(28°/56°/-25°),活動的座位姿勢支持あり(25°/35°/-18°)であった.この角度に近い姿勢になるようティルト・リクライニング車椅子の座背角を安楽姿勢では120°,活動的座位姿勢では107°とした.活動的姿勢の支持ありではWS-AFTの総合時間が減少し,食べこぼし量の減少とCOPM満足度・遂行度が共に5から9へ向上が見られた.VRの結果は,活動的座位姿位の上肢支持無しで左領域が‐5から‐90°,上肢支持有は‐35°から‐90°,安楽姿勢では見落としが見られなかった.
【考察】活動的座位姿勢の支持ありで視野領域の拡大に至った要因として,有光らは左USNに対し,シーティングにて頸部,体幹,骨盤が共に正中方向に設定し,左側を認知しやすい環境設定が重要と述べている.そのため,支持なしでは体幹が安定せず,頸部が右偏移になりやすいポジションとなり,ボールへの気付きが減少したと考える.また,安楽座位姿位では支持基底面の拡大による頸部,体幹の安定性が確保できたことが,頸部回旋運動が容易になり,左側への空間性注意拡大に寄与したと考える. 活動的座位姿位にて,上肢支持でCOPM向上,食べこぼしやWS-AFTの総合時間の短縮が見られたが,視野領域の縮小に繋がったことで,ADL場面での環境調整に対し再評価の重要性が示唆される.今回は上肢操作と食べこぼしの結果を総合的にみて,COPMの結果も考慮し,活動的な姿勢で実際の食事を行うこととした.