[OL-1-1] 異所性骨化により左股関節に可動域制限が生じた頸髄損傷者に対し,装着型リーチャーを使用したことでの下衣更衣の変化
【目的】脊髄損傷者における異所性骨化の発生頻度は5%~83.3%(大谷ら,2021)と多岐に渡り,発生するとリハビリテーションやADLの獲得を阻害する大きな要因となる.発生した場合は,強い関節運動は避けて軽い運動に留めることが原則である(小原ら,2021).今回,左股関節に異所性骨化が発生し,ADLの阻害要因となっていた症例に対し,ループやソックスエイドなどの自助具を作成した.その中で,症例の身体状況に合わせて作成した装着型リーチャーにより下衣更衣が可能となり,移乗動作の自立に繋がった経過について報告する.
【症例紹介】40代男性.自転車走行中に転倒し受傷.頸髄損傷(C7)の診断を受け,Flankel分類,ASIA障害尺度ともにAの完全麻痺であった.X+29日後に当院へ転院となる.上肢機能はZancolli分類にて右:C6BⅢ,左:C6BⅡ.FIM運動項目は,食事は万能カフを使用し6,その他は全て1であった.X+59日頃より左股関節の可動域制限が生じ,検査にて左股関節周囲に血腫を認め,その後異所性骨化の診断に至った.OTでは靴の装着訓練をベッド上片胡坐の姿勢で行っていたが,X+116日に左膝関節の腫脹と熱感が生じ,膝蓋大腿関節症疑いの診断を受ける.左膝関節の過度な屈曲も制限され,片胡坐での装着は困難となった.
【介入方針】回復期では起居から移乗まで自立することを目標とした.車椅子の移乗がトランスファーボードを使用して見守りで可能となった頃より,OTでは靴の装着動作の獲得を目標に介入を開始した.
【倫理的配慮】本報告は症例から同意を得ており報告すべきCOIはない.
【経過と結果】靴の装着は前述した問題により代償手段が必要となっていた.そこで各関節の負担軽減と手指の随意性が乏しく把持動作が困難であることを考慮し,症例の手指機能でも使用可能な装着型リーチャーを作成するに至った.
作成した自助具は車椅子用グローブに取り付けて使用し,リーチャー部と接続部から構成される.リーチャー部は長さ91cmの棒の先端にネジフックをつけた.接続部はリーチャー部を装填し,かつ車椅子グローブに取り付けるものである.ベルトで手部と前腕に固定し,把持動作が困難である症例でも容易に扱えるようにした.
靴の装着に要した時間は自助具作成前5~8分で,股関節や膝関節に過度な負荷がかかっていた.作成後は自助具の取り付けも含めて約4分で可能となる.ベッド上長坐位のまま装着が可能となり各関節の負荷も軽減することができた.左股関節の異所性骨化はX+189日における検査で拡大は見られず経過している.その後も自助具を使用した訓練を継続し,リハビリ終了時には靴の着脱が可能となったことで,目標とした起居から移乗が自立しFIM運動項目の移乗が6点に改善した.
【考察】頸髄損傷後の異所性骨化は,回復期の機能障害の原因となり得る.また将来の活動や参加の制限に直結する可能性がある(小原ら,2021).症例は自助具を使用し靴の装着が可能となり,起居から車椅子への移乗自立を達成することができた.また自助具の使用により過度な関節運動を軽減し,異所性骨化の進行を抑制する一助になったものと考える.異所性骨化の治療の選択肢に外科手術による摘出があるが,再発を考え手術時期は骨化出現後1,2年の成熟期が適している(橋本ら,2010)とされる.受傷後間もない回復期において,異所性骨化が出現した場合は症例のように強い関節運動は避けるリハビリなど,保存的治療となることが多いと考える.そのような制限の中で,求められる動作に対して代償手段を考案しADLの向上に繋がったことから,装着型リーチャーの提案は残存機能を補うための手段として意義があったものと考えられた.
【症例紹介】40代男性.自転車走行中に転倒し受傷.頸髄損傷(C7)の診断を受け,Flankel分類,ASIA障害尺度ともにAの完全麻痺であった.X+29日後に当院へ転院となる.上肢機能はZancolli分類にて右:C6BⅢ,左:C6BⅡ.FIM運動項目は,食事は万能カフを使用し6,その他は全て1であった.X+59日頃より左股関節の可動域制限が生じ,検査にて左股関節周囲に血腫を認め,その後異所性骨化の診断に至った.OTでは靴の装着訓練をベッド上片胡坐の姿勢で行っていたが,X+116日に左膝関節の腫脹と熱感が生じ,膝蓋大腿関節症疑いの診断を受ける.左膝関節の過度な屈曲も制限され,片胡坐での装着は困難となった.
【介入方針】回復期では起居から移乗まで自立することを目標とした.車椅子の移乗がトランスファーボードを使用して見守りで可能となった頃より,OTでは靴の装着動作の獲得を目標に介入を開始した.
【倫理的配慮】本報告は症例から同意を得ており報告すべきCOIはない.
【経過と結果】靴の装着は前述した問題により代償手段が必要となっていた.そこで各関節の負担軽減と手指の随意性が乏しく把持動作が困難であることを考慮し,症例の手指機能でも使用可能な装着型リーチャーを作成するに至った.
作成した自助具は車椅子用グローブに取り付けて使用し,リーチャー部と接続部から構成される.リーチャー部は長さ91cmの棒の先端にネジフックをつけた.接続部はリーチャー部を装填し,かつ車椅子グローブに取り付けるものである.ベルトで手部と前腕に固定し,把持動作が困難である症例でも容易に扱えるようにした.
靴の装着に要した時間は自助具作成前5~8分で,股関節や膝関節に過度な負荷がかかっていた.作成後は自助具の取り付けも含めて約4分で可能となる.ベッド上長坐位のまま装着が可能となり各関節の負荷も軽減することができた.左股関節の異所性骨化はX+189日における検査で拡大は見られず経過している.その後も自助具を使用した訓練を継続し,リハビリ終了時には靴の着脱が可能となったことで,目標とした起居から移乗が自立しFIM運動項目の移乗が6点に改善した.
【考察】頸髄損傷後の異所性骨化は,回復期の機能障害の原因となり得る.また将来の活動や参加の制限に直結する可能性がある(小原ら,2021).症例は自助具を使用し靴の装着が可能となり,起居から車椅子への移乗自立を達成することができた.また自助具の使用により過度な関節運動を軽減し,異所性骨化の進行を抑制する一助になったものと考える.異所性骨化の治療の選択肢に外科手術による摘出があるが,再発を考え手術時期は骨化出現後1,2年の成熟期が適している(橋本ら,2010)とされる.受傷後間もない回復期において,異所性骨化が出現した場合は症例のように強い関節運動は避けるリハビリなど,保存的治療となることが多いと考える.そのような制限の中で,求められる動作に対して代償手段を考案しADLの向上に繋がったことから,装着型リーチャーの提案は残存機能を補うための手段として意義があったものと考えられた.