[OM-1-2] MTDLPを用いることで生活空間の拡大とQOLの改善につながったHTLV-1関連脊髄症の1事例
【はじめに】HTLV-1関連脊髄症(以下,HAM)は,進行性の難治性希少疾患であり,両下肢の筋力低下と痙性による歩行障害を呈す.今回HAMと診断された症例とその支援者に対し,MTDLPを用いて病態理解を促し,合意目標を共有することで,支援者の関り方に変化が得られ,症例の生活空間の拡大と,QOLの改善に繋がった症例を経験したため報告する.なお,本発表において十分な説明を行い書面にて症例の同意を得た.
【事例紹介】60歳代女性.美容師で夫と二人暮らしである.進行する歩行障害のため仕事を辞め,大学病院を受診したところHAMと診断された.3日間のステロイドパルス療法を施行後,当院で後療法,経過観察を行うこととなった.以降,毎月10日間の治療入院の際にPT・OTの介入を行った.
【初期評価】MMTにて上肢5,体幹屈曲,伸展2,下肢は股関節伸展,外転2,足関節底屈2と体幹,下肢に筋力低下がみられた.10m歩行は10.76秒,TUGは13.74秒,6分間歩行は237mであり,歩行速度や運動耐容能の低下がみられた.BBSは24点,TISは13点と立位バランスや体幹機能の低下がみられた.納の運動障害重症度(以下,OMDS)は6であった.FIMは運動72点,認知35点,FAIは16点,LSAは26点と,IADLの実施頻度の低下や生活空間の縮小がみられた.EQ-5D-5Lは0.537であった.家事は出入りする友人や週2回のヘルパーが実施していた.
【経過】本人には「もっと動きたい」という希望があった.そこで,MTDLPを導入し,合意目標を洗濯と調理動作ができる,屋外を散歩すると設定した.現段階での実行度,満足度はともに1であった.基本的プログラムでは,筋力強化やストレッチの方法を指導し,自宅でも実施することとした.応用的プログラムでは,抗重力姿勢での洗濯や調理動作を模擬的に行った.社会適応的プログラムでは,家具の配置換えを考案し,立位にて家事の実施を促した.また,歩行可能な距離や補助具を選択し,安全な散歩の方法を提案した.夫や友人,介護支援専門員(以下,CM)からは,「転倒するから一人で動かない方がいい」と消極的な意見が聞かれたため,マネジメントシートを用いて,本人の障害構造を示し,それぞれの支援方法を明確にした.MTDLP導入後,本人より,洗濯動作が容易になったことや,友人や夫の手助けにより散歩をする機会が増えたとの発言が得られた.支援者は症例の身体機能に合った支援をするという思考に変化した.
【最終評価】初期評価から3か月後に実施した.筋力や歩行スピード,運動耐容能に変化はなかった.一方で,BBSは30点,TISは18点と立位バランスや体幹機能に向上がみられた.OMDSは4へ改善した.FIMは運動77点,FAIは17点,LSAは34点と生活空間の拡大がみられた.EQ-5D-5Lは0.752とHRQOLに改善があった.MTDLP実行度,満足度ともに10と回答があった.
【考察】本症例はHAMによる進行性の機能低下に加え,症例や支援者の障害構造の無理解が,過剰な安静や介助に繋がり,活動量が低下し,さらなる機能低下に陥るという悪循環を呈していたと考える.MTDLPを活用することで,障害構造や支援方法を,症例や夫,友人やCMと共有することができ,身体機能の改善や生活空間の拡大,さらにはHRQOLの改善に繋がった.これは,症例と支援者が目標を統一することで,症例が生活行為での活動量を増加させることができ,上記の悪循環を断ち切ることができたためと考える.MTDLPはこのような難治性の希少疾患であっても,支援方法や役割を明確にし,症例と支援者との関わり方に対する理解を促進するための,強力なツールになりうると考える.
【事例紹介】60歳代女性.美容師で夫と二人暮らしである.進行する歩行障害のため仕事を辞め,大学病院を受診したところHAMと診断された.3日間のステロイドパルス療法を施行後,当院で後療法,経過観察を行うこととなった.以降,毎月10日間の治療入院の際にPT・OTの介入を行った.
【初期評価】MMTにて上肢5,体幹屈曲,伸展2,下肢は股関節伸展,外転2,足関節底屈2と体幹,下肢に筋力低下がみられた.10m歩行は10.76秒,TUGは13.74秒,6分間歩行は237mであり,歩行速度や運動耐容能の低下がみられた.BBSは24点,TISは13点と立位バランスや体幹機能の低下がみられた.納の運動障害重症度(以下,OMDS)は6であった.FIMは運動72点,認知35点,FAIは16点,LSAは26点と,IADLの実施頻度の低下や生活空間の縮小がみられた.EQ-5D-5Lは0.537であった.家事は出入りする友人や週2回のヘルパーが実施していた.
【経過】本人には「もっと動きたい」という希望があった.そこで,MTDLPを導入し,合意目標を洗濯と調理動作ができる,屋外を散歩すると設定した.現段階での実行度,満足度はともに1であった.基本的プログラムでは,筋力強化やストレッチの方法を指導し,自宅でも実施することとした.応用的プログラムでは,抗重力姿勢での洗濯や調理動作を模擬的に行った.社会適応的プログラムでは,家具の配置換えを考案し,立位にて家事の実施を促した.また,歩行可能な距離や補助具を選択し,安全な散歩の方法を提案した.夫や友人,介護支援専門員(以下,CM)からは,「転倒するから一人で動かない方がいい」と消極的な意見が聞かれたため,マネジメントシートを用いて,本人の障害構造を示し,それぞれの支援方法を明確にした.MTDLP導入後,本人より,洗濯動作が容易になったことや,友人や夫の手助けにより散歩をする機会が増えたとの発言が得られた.支援者は症例の身体機能に合った支援をするという思考に変化した.
【最終評価】初期評価から3か月後に実施した.筋力や歩行スピード,運動耐容能に変化はなかった.一方で,BBSは30点,TISは18点と立位バランスや体幹機能に向上がみられた.OMDSは4へ改善した.FIMは運動77点,FAIは17点,LSAは34点と生活空間の拡大がみられた.EQ-5D-5Lは0.752とHRQOLに改善があった.MTDLP実行度,満足度ともに10と回答があった.
【考察】本症例はHAMによる進行性の機能低下に加え,症例や支援者の障害構造の無理解が,過剰な安静や介助に繋がり,活動量が低下し,さらなる機能低下に陥るという悪循環を呈していたと考える.MTDLPを活用することで,障害構造や支援方法を,症例や夫,友人やCMと共有することができ,身体機能の改善や生活空間の拡大,さらにはHRQOLの改善に繋がった.これは,症例と支援者が目標を統一することで,症例が生活行為での活動量を増加させることができ,上記の悪循環を断ち切ることができたためと考える.MTDLPはこのような難治性の希少疾患であっても,支援方法や役割を明確にし,症例と支援者との関わり方に対する理解を促進するための,強力なツールになりうると考える.