[OM-1-3] 役割意識と利他の心が外出の「壁」を越える力となった事例
~ MTDLP を活用する上で必要な支援チームの姿勢の一考察~
【はじめに】
80歳代女性のA氏に,訪問看護ステーションから作業療法(以下OT)を実施した.MTDLPを用いて関わった結果,A氏自身が外出の「壁」に気づき行動が変容した.この事例から, MTDLP活用時の支援チームの姿勢を考察した.なお,本報告について本人と家族に書面で同意を得ている.
【事例紹介】
A氏は独居で健康に暮らし,日舞教室を自宅で主宰していた.X年Y−6か月に四肢末梢の痺れとふらつきが出現.Y‐5か月に頚椎症性脊椎症と診断され,椎弓形成術を受けた.術後は回復期リハ病棟にて加療し,Y月に自宅退院した.痺れと歩行障害が残存し,歩行車歩行で入浴以外のADLは自立(FIM:107点)したが,転倒不安は強く,悲観的であった.要介護3の認定を受け,通所リハとOTを週2回ずつ開始した.回復期リハ担当者から,術前は買い物や外食,週1回美容院に行く習慣があり,入浴自立と外出が残された課題と申し送られた.
【OT評価】
開始当初よりMTDLPを導入した.A氏は「家で暮らし続けたい」,主介護者の姪は「歩いて元気いてほしい」と希望を述べた.心身機能は,末梢の痺れが強くVAS:8/10,右下肢の筋力低下あり.立位バランス不良で,独歩は不可であった.室内は歩行車歩行で自立していた.屋外歩行は150m10分で疲労した.認知機能はHDS-R:29点で,課題解決能力の高さが強みであった.活動は,炊事と洗濯は自立だが易疲労を認めた.他のIADLは援助が必要であった.入浴は浴槽の出入り,浴室内移動が不安定であった.環境は,姪と弟子の支援があることが強み.美容院や買い物先は自宅から200m圏内にあった.支援チーム(ケアマネジャー,通所リハ担当者,OT,かかりつけ医)は,評価を基にY+3か月で状態は安定し,外出可能と予測した.A氏と姪に説明し「3か月で転倒なく過ごせ入浴が自立し,姪と外出できる」と合意目標を決定した.実行度,満足度はともに2/10であった.
【経過および結果】
基本的プログラムは,基礎体力と歩行の安定に向けた運動を通所とOT,自己訓練で実施.応用的プログラムは入浴の模擬訓練を通所リハにて実施.社会適応プログラムはOTが自宅で入浴と屋外歩行を実施した.Y+3か月で入浴は自立し,この時期に日舞教室を再開できた.一方,屋外歩行は15分可能だが,OT訪問時に留まった.支援チームは,折に触れて自信付けと外出の提案を続けた.
Y+4か月,A氏の行動変容が起きた.まずOTに「今の自分を人に見られたくないみたい」と表出した.その翌週「来月行う舞台のリハーサルに行きたい」と語った.A氏と工程分析を行うと,会場の公民館は新築で段差はなく移動しやすいが,タクシーの利用に不安を訴えた.そこで「1か月後の弟子のリハーサルにタクシーで公民館に行き,演技指導できる」と目標を修正し,継続していた基本的プログラムに加え,応用的プログラムに,普通車の乗降と支払い練習を実施した.社会適応プログラムは,弟子との打ち合わせ,OTとケアマネジャーがリハーサルに同席し,実行状況を確認した.
結果,無事公民館に到着し,弟子に拍手で迎えられ演技指導をした.実行度,満足度は10/10点となった.リハーサル3週後の本番にも立ち合い,芸能仲間との再会を果たせた.Y+6か月時点で,痺れはVAS:5/10と残存し,移動形態の変化はないが,外食や地域の役員再開という新たな希望を持っている.
【考察】
A氏は「羞恥心が外出の壁だった.でも弟子を助けたくてどうでもよくなった」「皆が外出できると言ってくれたことが自信になった」と語った.MTDLPの活用には,支援チームが対象者の可能性を信じる姿勢,活動の目的と意味を理解する姿勢,行動変容を待つ姿勢を持つことが重要である.
80歳代女性のA氏に,訪問看護ステーションから作業療法(以下OT)を実施した.MTDLPを用いて関わった結果,A氏自身が外出の「壁」に気づき行動が変容した.この事例から, MTDLP活用時の支援チームの姿勢を考察した.なお,本報告について本人と家族に書面で同意を得ている.
【事例紹介】
A氏は独居で健康に暮らし,日舞教室を自宅で主宰していた.X年Y−6か月に四肢末梢の痺れとふらつきが出現.Y‐5か月に頚椎症性脊椎症と診断され,椎弓形成術を受けた.術後は回復期リハ病棟にて加療し,Y月に自宅退院した.痺れと歩行障害が残存し,歩行車歩行で入浴以外のADLは自立(FIM:107点)したが,転倒不安は強く,悲観的であった.要介護3の認定を受け,通所リハとOTを週2回ずつ開始した.回復期リハ担当者から,術前は買い物や外食,週1回美容院に行く習慣があり,入浴自立と外出が残された課題と申し送られた.
【OT評価】
開始当初よりMTDLPを導入した.A氏は「家で暮らし続けたい」,主介護者の姪は「歩いて元気いてほしい」と希望を述べた.心身機能は,末梢の痺れが強くVAS:8/10,右下肢の筋力低下あり.立位バランス不良で,独歩は不可であった.室内は歩行車歩行で自立していた.屋外歩行は150m10分で疲労した.認知機能はHDS-R:29点で,課題解決能力の高さが強みであった.活動は,炊事と洗濯は自立だが易疲労を認めた.他のIADLは援助が必要であった.入浴は浴槽の出入り,浴室内移動が不安定であった.環境は,姪と弟子の支援があることが強み.美容院や買い物先は自宅から200m圏内にあった.支援チーム(ケアマネジャー,通所リハ担当者,OT,かかりつけ医)は,評価を基にY+3か月で状態は安定し,外出可能と予測した.A氏と姪に説明し「3か月で転倒なく過ごせ入浴が自立し,姪と外出できる」と合意目標を決定した.実行度,満足度はともに2/10であった.
【経過および結果】
基本的プログラムは,基礎体力と歩行の安定に向けた運動を通所とOT,自己訓練で実施.応用的プログラムは入浴の模擬訓練を通所リハにて実施.社会適応プログラムはOTが自宅で入浴と屋外歩行を実施した.Y+3か月で入浴は自立し,この時期に日舞教室を再開できた.一方,屋外歩行は15分可能だが,OT訪問時に留まった.支援チームは,折に触れて自信付けと外出の提案を続けた.
Y+4か月,A氏の行動変容が起きた.まずOTに「今の自分を人に見られたくないみたい」と表出した.その翌週「来月行う舞台のリハーサルに行きたい」と語った.A氏と工程分析を行うと,会場の公民館は新築で段差はなく移動しやすいが,タクシーの利用に不安を訴えた.そこで「1か月後の弟子のリハーサルにタクシーで公民館に行き,演技指導できる」と目標を修正し,継続していた基本的プログラムに加え,応用的プログラムに,普通車の乗降と支払い練習を実施した.社会適応プログラムは,弟子との打ち合わせ,OTとケアマネジャーがリハーサルに同席し,実行状況を確認した.
結果,無事公民館に到着し,弟子に拍手で迎えられ演技指導をした.実行度,満足度は10/10点となった.リハーサル3週後の本番にも立ち合い,芸能仲間との再会を果たせた.Y+6か月時点で,痺れはVAS:5/10と残存し,移動形態の変化はないが,外食や地域の役員再開という新たな希望を持っている.
【考察】
A氏は「羞恥心が外出の壁だった.でも弟子を助けたくてどうでもよくなった」「皆が外出できると言ってくれたことが自信になった」と語った.MTDLPの活用には,支援チームが対象者の可能性を信じる姿勢,活動の目的と意味を理解する姿勢,行動変容を待つ姿勢を持つことが重要である.