[OM-1-6] OSAⅡを利用したMTDLPにより,生活行為の目標設定が可能となった作業療法
【序論】神経筋疾患及び多数の内部疾患を抱え,役割の喪失感があった症例に対し,作業に関する自己評価(OSAⅡ)を利用したMTDLPで価値ある作業を獲得出来た.その経過を以下に報告する.症例には書面で同意を得た.
【症例】30歳代女性.無職.身障者手帳1級.診断名は多発性硬化症(MS),Ehlers-Danlos症候群(EDS).既往に視神経脊髄炎,発作性心房性頻脈等多数.入院前ADLは室内伝い歩き,屋外電動車椅子利用で入浴以外は自立.夫と二人暮らしで家事は実母とヘルパーが担っていた.20歳頃よりMS疑いで他院通院中,20XX年Y-5月に麻痺の急激な進行があり精査目的で入院,EDSの診断でステロイド治療開始.PT・OT実施し(A期),約1ヶ月後自宅退院.Y月にステロイド治療のため再入院,PT・OTを実施した(B期).
【A期評価・経過】EDS特有の関節の緩みが著明で過伸展傾向.筋力(MMT)は上肢3,下肢2,握力は1Kg程度.ADLは食事・更衣は自助具使用で自立可能も疲労感強く時間を要しており,トイレは全介助だった.ADL介助量軽減を目標に介入開始.関節不安定性に対し装具作成,ADL練習にて装具調整や環境設定で効率性改善を図り,所要時間や疲労度等で本人の満足が得られる動作を獲得し,ADL軽介助レベルで退院した.
【B期:MTDLP導入】前回退院後の生活や家族への思い等も聴取,今後を本人らしく生きるためにMTDLPを提案したが「今が続けば良い」「よくわかんない」等,具体的な目標が挙がらなかった.症例は疾患の特徴を十分理解しており,周囲や環境への影響を考えて意志の表出が困難になっていると考えOSAⅡを導入したところ,特に家事や妻の役割に対し個人的原因帰属感の低下を認めた.家事は生活行為として重要だが「料理は好きだけどこの体じゃ無理」「迷惑かける」「疲れる」等諦めの様子が窺えたため,生活行為聞き取りシートの目標に「料理」を提案.夫は「(妻)のご飯美味しい,また食べたい」母親も「一緒にやる?」と肯定的だったことで本人にも意欲がみられ,合意目標を「家族と共に料理をする」とした.初回の自己評価は実行度・満足度とも1/10だった.
【B期経過】関節不安定性のため包丁や鍋の抑え等で過伸展となり動作が困難だった.疾患特性のため改善が期待出来ず,装具や自助具を導入し軽負荷な動作習得を目標に練習を行った.易疲労性に対してはPTと協働し,耐久性の向上を図りつつ休憩のタイミングを検討した.
【結果】退院前の調理練習でカレーの一連の調理が可能となり,休憩も自ら申告し,過度な疲労を伴わずに完遂した.合意目標は実行度1/10,満足度5/10,「料理のイメージが湧いた」「出来るかも」等の発言や「頼りっきりではないかも」等,個人的原因帰属感の低下にも効果が得られた.退院後のフォロー時は実行度3/10,満足度7/10,継続して実施する希望が聞かれた.
【考察】Kielhofnerは「人々は通常,時間と空間を占めるいくつかの習慣と役割を持っている.後天性の障害は機能制限をいっそう悪化させる習慣の衰退へと導く可能性があり,抑うつ状態に直面している人々は動機付けとエネルギーの制限により自分のルーチンを追求できないことがある」1)と述べている.本症例では「通院・治療」が優先されることで個人的原因帰属感が低下し具体的な目標立案が困難だったが, OSAⅡを使用することで本来の価値観を導き出すことが可能となった.価値の高い生活行為を導き出し,MTDLPにより合意目標を家族と共有することで,疾患を抱えながらも本人らしく生きるための生活行為の獲得に寄与できたと考える.
1)Kielhofner.人間作業モデル 理論と応用 改訂第3版.共同医書出版.2007,p23
【症例】30歳代女性.無職.身障者手帳1級.診断名は多発性硬化症(MS),Ehlers-Danlos症候群(EDS).既往に視神経脊髄炎,発作性心房性頻脈等多数.入院前ADLは室内伝い歩き,屋外電動車椅子利用で入浴以外は自立.夫と二人暮らしで家事は実母とヘルパーが担っていた.20歳頃よりMS疑いで他院通院中,20XX年Y-5月に麻痺の急激な進行があり精査目的で入院,EDSの診断でステロイド治療開始.PT・OT実施し(A期),約1ヶ月後自宅退院.Y月にステロイド治療のため再入院,PT・OTを実施した(B期).
【A期評価・経過】EDS特有の関節の緩みが著明で過伸展傾向.筋力(MMT)は上肢3,下肢2,握力は1Kg程度.ADLは食事・更衣は自助具使用で自立可能も疲労感強く時間を要しており,トイレは全介助だった.ADL介助量軽減を目標に介入開始.関節不安定性に対し装具作成,ADL練習にて装具調整や環境設定で効率性改善を図り,所要時間や疲労度等で本人の満足が得られる動作を獲得し,ADL軽介助レベルで退院した.
【B期:MTDLP導入】前回退院後の生活や家族への思い等も聴取,今後を本人らしく生きるためにMTDLPを提案したが「今が続けば良い」「よくわかんない」等,具体的な目標が挙がらなかった.症例は疾患の特徴を十分理解しており,周囲や環境への影響を考えて意志の表出が困難になっていると考えOSAⅡを導入したところ,特に家事や妻の役割に対し個人的原因帰属感の低下を認めた.家事は生活行為として重要だが「料理は好きだけどこの体じゃ無理」「迷惑かける」「疲れる」等諦めの様子が窺えたため,生活行為聞き取りシートの目標に「料理」を提案.夫は「(妻)のご飯美味しい,また食べたい」母親も「一緒にやる?」と肯定的だったことで本人にも意欲がみられ,合意目標を「家族と共に料理をする」とした.初回の自己評価は実行度・満足度とも1/10だった.
【B期経過】関節不安定性のため包丁や鍋の抑え等で過伸展となり動作が困難だった.疾患特性のため改善が期待出来ず,装具や自助具を導入し軽負荷な動作習得を目標に練習を行った.易疲労性に対してはPTと協働し,耐久性の向上を図りつつ休憩のタイミングを検討した.
【結果】退院前の調理練習でカレーの一連の調理が可能となり,休憩も自ら申告し,過度な疲労を伴わずに完遂した.合意目標は実行度1/10,満足度5/10,「料理のイメージが湧いた」「出来るかも」等の発言や「頼りっきりではないかも」等,個人的原因帰属感の低下にも効果が得られた.退院後のフォロー時は実行度3/10,満足度7/10,継続して実施する希望が聞かれた.
【考察】Kielhofnerは「人々は通常,時間と空間を占めるいくつかの習慣と役割を持っている.後天性の障害は機能制限をいっそう悪化させる習慣の衰退へと導く可能性があり,抑うつ状態に直面している人々は動機付けとエネルギーの制限により自分のルーチンを追求できないことがある」1)と述べている.本症例では「通院・治療」が優先されることで個人的原因帰属感が低下し具体的な目標立案が困難だったが, OSAⅡを使用することで本来の価値観を導き出すことが可能となった.価値の高い生活行為を導き出し,MTDLPにより合意目標を家族と共有することで,疾患を抱えながらも本人らしく生きるための生活行為の獲得に寄与できたと考える.
1)Kielhofner.人間作業モデル 理論と応用 改訂第3版.共同医書出版.2007,p23