第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

地域

[ON-1] 一般演題:地域 1

2024年11月9日(土) 12:10 〜 13:10 E会場 (204)

座長:羽賀 祐介(スカイ訪問看護ステーション)

[ON-1-1] 訪問リハビリテーションにより現職復帰を目指した一症例

~回復期及び障がい者就業・生活支援センターとのシームレスな連携~

高山 蒼1, 夏原 耀一1,2, 石井 香織1, 中村 春基1, 吉尾 雅春1 (1.和風会千里リハビリテーション病院, 2.神戸学院大学大学院総合リハビリテーション学研究科)

【はじめに】脳卒中患者の復職支援は医療機関内だけでなく就労支援機関や企業を巻き込んだ継続的な支援が必要である.本症例は当院回復期入院中より居住地の障がい者就業・生活支援センター(以下支援センター)と連携を開始し,訪問前に回復期担当者(OT,ST)より退院後予測される生活や復職に向け情報を共有した.退院後はOTによる訪問リハビリテーションを週1回実施し,独居可能な生活レベルとなり一部現職復帰にいたった.本症例を通し復職支援の在り方,復職後も継続的な支援が重要であることを再認識できた為以下に報告する.
【対象】A氏,58歳,男性,独居,青果店の店長として週6日勤務.左共同偏視,失語,右不全麻痺を呈し救急搬送され左中大脳動脈狭窄及びアテローム血栓性脳梗塞と診断.21病日目に当院回復期へ転院し97病日目に当院回復期を退院.退院時FIM 114点(運動91点,認知23点).SIAS言語機能のみ2,他項目満点.SLTAより表出では音韻性錯誤,聴理解・読解では文字記号理解の低下,言語情報に対する処理速度の低下などの課題が残っていた.トークンテスト69点.KOHS IQ84.3.RCPM 32点.退院後は遠方に住む母が一時的に同居し生活が再開された.
【方法】要支援1の認定あり介護保険下でOTによる訪問リハビリテーションを週1回開始.Life Space Assessment(LSA)26点.Frenchay Activities Index(FAI)8点.開始時から6週間は独居を想定した生活課題の評価に加え,職業準備性ピラミッドにも含まれる健康管理(栄養・体調・服薬),日常生活管理(生活リズム・移動能力),対人技能に対し実環境での生活行為練習や環境調整を実施.復職に関しては支援センターと訪問OTよりワークサンプル幕張版簡易版による職業評価を実施.後日,A氏了承のもと復職先の企業代表者へ支援センター職員より結果報告を行った.それらを踏まえて訪問OTより総合的な情報提供を行い,現状の課題や支援の方向性に対する共通認識を図った.
【結果】6週目にはLSA 86点,FAI 23点と活動範囲・生活行為共に改善.家事だけでなく,公共交通機関の利用・かかりつけ医受診が実施でき,独居生活が可能なレベルとなった.また,スケジュール管理・時間に合わせた準備や移動・電話での意思疎通も可能となり,復職先の企業と支援センターとで検討した結果,開始から7週目より週3日の時間短縮勤務から一部現職復帰することとなった.現職復帰から4週目に訪問OT,支援センター職員で職場訪問を実施.作業場面観察及び職場スタッフに対するヒアリングの結果,品定め・陳列・運搬などの非言語主体の業務に加え,企業や卸売場スタッフ,馴染み客とのやり取りも病前に培っていた関係を活かしながら実施できていた.反面,商品名を表出する際の錯誤や電卓での計算間違い,新規顧客から要望を聴く場面では企業スタッフの協力が必要であった.
【考察】回復期と生活期で検討した生活課題の共有により復職支援へスムーズに移行できた.生活・就業の両面に関与する必要があった本症例にとって,相談・支援の窓口となる支援センターと入院中から連携をとり共通理解を深めたことが現職復帰を目指すうえで有効であった.また,職場訪問を通し言語面の課題を確認することができ,復職後もSTと協力しながら医学的かつ継続的な支援の必要性を感じた.復職には職場の理解が必要不可欠であり,今後はナチュラルサポートの形成やフォローアップなど定着支援の検討が必要であると考える.