第58回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-1] 一般演題:地域 1

Sat. Nov 9, 2024 12:10 PM - 1:10 PM E会場 (204)

座長:羽賀 祐介(スカイ訪問看護ステーション)

[ON-1-4] 家族介護者における役割の満足度と作業機能障害との関連性の検討

吉田 俊輔1,2, 寺岡 睦3, 京極 真3 (1.吉備国際大学大学院(通信制)保健科学研究科作業療法学専攻修士課程, 2.島根リハビリテーション学院, 3.吉備国際大学)

【序論】我が国では,要介護者を地域で支えることを目的とした地域包括ケアシステムの構築が推進されているが,その一翼を担う家族介護者の支援は十分とは言えず,介護離職や介護殺人などが社会問題となっている.作業療法の対象は,疾病や障害をもった要介護者だけでなく,家族介護者も含み,専門性の発揮が期待されている.家族介護者の抱える生活の困難さの一因として,「介護者」という役割が他の役割を圧迫し,適切に役割を担うことが困難になることで作業機能障害の体験に影響している可能性がある.作業機能障害とは,生活行為が適切に行えない状態であり,作業療法による改善対象とされている.これまで,役割と作業機能障害に関連した研究はいくつか存在するが,それらは重度の障害をもつ子どもの母親を対象としており,高齢者を含む要介護者を介護する家族を対象とした研究は見当たらない.本研究の目的は,家族介護者における役割の満足度と作業機能障害との関連性を検討することである.研究仮説は,作業機能障害を体験している家族介護者は役割の満足度が低下している,とした.
【方法】本研究は,吉備国際大学倫理審査委員会の承認(受理番号:22-34)と対象者の同意を得て実施した.研究デザインは横断研究である.対象は,地域在住の要介護度1〜5の認定者の家族介護者とした.目標のサンプルサイズは128名とした.研究者および研究協力者によってリクルートした対象者から便宜的サンプリングにて抽出した.尺度は,フェイスシート,役割チェックリスト3日本語暫定版(RCv3-p),作業機能障害の種類と評価(CAOD)を使用した.データ分析は,記述統計量の算出,有意差検定,相関分析を実施した.有意差検定は,CAODのカットオフ値で作業機能障害群(OD群)と非作業機能障害群(非OD群)の2群に分け,RCv3-pの各役割の満足度をMann-Whitney U-testにて群間比較した.また,各役割の満足度とCAODの合計値との相関をSpearmanの順位相関係数(rs)で解析した.いずれも有意水準は5%とした.データ分析には,jamovi version 2.3.26を使用した.
【結果】アンケートは127名分回収し(回収率85.8%),回答不備を除く116名が分析対象となった.対象者の基本属性として,女性91名,男性25名,平均年齢は67.8±(10.6)歳であった.OD群は69名,非OD群は47名となった.主な結果として,非OD群に比べてOD群では「勤労者」,「介護者」,「家庭維持者」,「友人」,「趣味人」の役割の満足度が有意に低かった(p<.001).また,相関分析においてCAOD合計値と強い負の相関を示した役割は「友人」(rs=-0.810)であった.次いで「趣味人」(rs=-0.679),「介護者」(rs=-0.609),「勤労者」(rs=-0.598)でやや強い負の相関を示した.
【考察】OD群において複数に及ぶ役割の満足度が低下していたことから,家族介護者における役割の満足度と作業機能障害の関連が示唆された.これは本研究の仮説を支持するものである.作業機能障害を体験している家族介護者は「介護者」を担うことに関連して他の役割を圧迫する可能性が考えられた.また,役割の満足度とCAODの合計値に相関関係が示されたことから,役割の満足度を把握することは,作業機能障害をより深く理解するための一視点として有用である可能性が考えられた.しかし,本研究には限界があり,横断研究であるため因果関係にまで言及できないこと,介護を受ける側である被介護者の疾患を考慮できていなかったことなどが考えられるため,今後はその点も踏まえた検討が望まれる.