第58回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-2] 一般演題:地域 2

Sat. Nov 9, 2024 1:20 PM - 2:20 PM E会場 (204)

座長:山田 恭平(北海道千歳リハビリテーション大学 )

[ON-2-2] 都市部に在住する高齢自転車利用者の認知機能と運動機能

藤田 佳男1, 竹内 弥彦2, 澤田 辰徳3 (1.千葉県立保健医療大学 健康科学部リハビリテーション学科作業療法学専攻, 2.城西国際大学大学院 健康科学研究科, 3.東京工科大学 医療保健学部 リハビリテーション学科作業療法学専攻)

【はじめに】 運転に支障のある病気を持つ対象者の運転適性評価は広く実施されているが,運転再開が困難な場合の指導・助言については未だ知見が少ない.特に自転車は身近な交通用具であるものの,どの程度の認知機能,身体機能があれば利用可能なのかは明らかでない.
【目的】 加齢による機能低下や病気を持つ対象者への助言の参考とするため,都市部に在住する高齢自転車利用者の運動機能および認知機能を調べ,一般的な利用者像と特徴をつかむことである.
【対象と方法】 本研究の対象は,都市部のシルバー人材センターに登録がある60歳以上の者のうち,研究者より書面と口頭で研究概要の説明を受け参加意思を示した者である.認知機能評価はMoCA-Jおよびトレイルメーキングテスト日本語版(以下TMT-J)を実施した.視知覚認知機能は有効視野検査(VFIT-C)を行った.運動機能は文科省新体力テスト(65~79歳用)のうち握力,長座体前屈,開眼片足立ちを行った.このほか自転車および自家用車の利用状況等や生活状況を問う質問紙を用いた.本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認および実施施設管理者の許可を得て実施された.
【結果】 本研究への参加者のうち,「自転車を利用している」と回答した者59名を解析対象とした.対象の平均年齢は73.1±5.4歳(60-85歳,男性36名,女性23名)であった.自宅周辺の公共交通手段については,全ての対象者がとても便利,または生活に困らない程度の交通手段があると回答した.自転車の利用頻度は週5日以上が19名,週に3~4日が13名,週に2日~月に数日が17名,月に1日以下が10名であった.自家用車と自転車いずれも利用している者は38名であった.自転車利用中の事故や転倒については,1名が警察に届け出た事故,3名が転倒や衝突を経験していた.運転免許は返納した者が10名,免許を取得したことがない者が6名であった.検査等の平均値は認知機能についてMoCA-Jが25.9点,TMT-J(A)が42.2秒,(B)が81.8秒であった.有効視野検査の検出率はStageⅡ(視野半径約7度)で,77%,StageⅢ(視野半径約11度)で73%であった.運動機能は握力が32.5Kg,長坐体前屈が32.3㎝,開眼片足立ちが47.2秒であった.また,年齢とTMT-J (A:ρ=0.53,B:ρ=0.52)に正の相関,年齢と有効視野(Go/no-go課題のお手付き数: ρ=0.34,有効視野検出率StageⅢ:ρ=−0.32)に相関が認められたが,MoCA-J,握力,長座体前屈,開眼片足立ちなどに相関は認められなかった.自転車の利用頻度が高い者はMoCA-J(P<0.05)の得点およびTMT-J(B)(P<0.05)の成績が有意に低かった.また運転免許保有者は,免許返納者(P<0.01)および免許を取得したことがない者(P<0.05)より有意にTMT-J(A)の成績が良好であった.また自家用車を併用している者は自転車のみ利用している者よりTMT-J(A)の成績が良好であった(P<0.05).
【考察】 高齢者の諸機能は加齢に伴って低下することが明らかであり,今回の調査でも注意機能や有効視野は年齢によって低下する傾向が見られた.しかし全般的認知機能や運動機能と年齢との相関は認められず,これらの機能がある程度維持されている者が自転車の利用を継続しているものと考えられた.また,事故や転倒経験者は対象者の7%程度であったが,転倒経験等により自転車利用をやめた者が対象者として含まれていないため実態はさらに高い可能性がある.加えて自転車の利用頻度が高い者ほど全般的認知機能や注意機能が低く,都市部では認知機能が低下した高齢者ほど地域生活を維持する交通用具として自転車を選択している可能性が示された.それゆえこれらの者を対象とした適切な評価と指導の機会が必要と考えられた.